22 / 522
勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
人生初めての悔しさ
しおりを挟むグレゴとヴラメさんの勝負が終わり、後に残ったのは敗北の事実を受け入れたグレゴ。そして名前を付けるほどに愛用していたであろう剣を砕かれたコメット氏。
「うぅう……」
「な、泣かないでくれコメット。新しいの買ってやるから」
先ほどまでグレゴを圧倒していた人だとは、とても思えない。まるで気のいいおじさんだ……この姿こそが、きっとヴラメさんの本当の姿なのだろう。
敵であろうと、傷つけたくないから騎士団から去った……か。それは間違いではないんだろう。現に、グレゴにあれだけの剣撃を放っておきながら……グレゴの体には、傷一つついていない。グレゴが全部さばいた……というには、グレゴの表情は浮かない。
「ね、ねえ、あれなんて声をかけたらいいのかな……」
と私に言ってくるのはエリシアだ。だけど、そんなもの私にだって答えはわからない。これまでグレゴが負けたとこだって、見たことがないんだ。そんな相手に、なんて声をかければいいのか。
……そうだ、こんなときこそサシェの出番だ! 私たちが言いにくいことも、平然と言ってのける彼女なら、今のグレゴにもなんか言ってくれるはずだ!
「……あれ、サシェは?」
「あっちで、コメットさん慰めてるよ」
「なんで!?」
頼りのサシェは、剣を砕かれたことで消沈中のコメット氏の傍にいた。いや、その人も災難だとは思うけどさ! まずは仲間のほうどうにかしよ!? くぅ、どうすればいいのか!
なんて言葉をグレゴに言ってあげればいいのか、それとも言わないのが成功なのか……そう悩んでいたが、たたずむグレゴに近づく影があった。
師匠だ。
「どうだグレゴ、自分の力を目いっぱいぶつけてなお、敵わない相手がいるってのは」
師匠はこの上なくストレートに、この勝負のkっか、そしてその先に感じたであろう感想を問いかけた。
「……悔しいです。今まで自分は、剣の道では誰にも負けないと思ってきましたし、事実俺に勝る剣士はいませんでした。ターベルトさんの修行を受けたアンズが相手でも、負けない自信はあります」
「アンズに教えたのは剣じゃない……が、たとえアンズに剣を教えても、グレゴ……お前には敵わんだろうな」
二人とも……私に会話が筒抜けなの、気づいていないんだろうか。まあ、二人の言う通りなんだけどさ。たとえ私が最初から剣を習ってても、グレゴには敵わないだろう。
それでも、こう負けない敵わないと言われてばっかっていうのは……純粋に悔しい。
「まったく、歯が立ちませんでした。初めてです、こんな気持ち。あの人が全力を出したのは、結局最後だけ……それも、自分の全力が借り物の剣に防がれるなんて」
「最後だけ全力、ってのはちょっと違うな。初めは乗り気でなかったとはいえ、全力の相手に全力で応えない奴じゃない。あいつは全力だったさ。途中までは、鈍ってた剣の勘を取り戻してただけだ」
「はは、それは余計にみじめですね。手を抜くとかじゃなく、勘を取り戻す手探り状態であんなにあしらわれちゃ」
「だが、あいつに楽しいと思わせたんだ。誇っていいと思うぞ?」
師匠は、言葉だけじゃない。本心から、グレゴの健闘をたたえている。おそらくそれは、グレゴも感じているはずだ。
そう、グレゴは健闘した。これまでの相手が魔物ばかりで全力を出せてはいなかったため、私は実はグレゴの全力を知らない。そんな私でも、わかる。少なくとも、グレゴの最後の一振りは……今までに私が見てきた中でも、最高の一振りだった。
それが、通じなかった。あれが、ヴラメさん本来の獲物であれば、あるいはシューベルトよりも強度があったならば。グレゴの剣は弾かれ、グレゴの喉元にはヴラメさんの剣の切っ先が突きつけられていたはずだ。
「ターベルトさん……ヴラメさんは、どうして騎士団をやめたんですか」
「……言ったろう。あいつは、誰かを傷つけるのがとんでもなく嫌なんだよ」
「けど、あの人の才能は……こんなところで、埋もれさせていいものじゃない! 剣をとって、一週間……いや、実戦経験の勘を取り戻せば、一日で現役だった『剣豪』の力だって……」
私だって思うのだ、剣を交えたグレゴはなおのこと思っただろう……ヴラメさんは、まだ全然現役で活躍できる。もしかしたら、この集落の中でだって、そう思った人がいるかもしれない。
それほどまでに、ヴラメさんの戦いには可能性を感じさせるものがあった。もし今からでも私たちの旅に加わってくれれば、『剛腕』ターベルト・フランクニルと『剣豪』ヴラメ・サラマンの二枚看板が復活する。
そうなれば、この旅だってずいぶん楽になるはずだ。……それに……
「グレゴ」
師匠だってわかってるはずだ。ヴラメさんなら、また現役に復帰したってなんら不思議はないことに。
だけど、それ以上は言うなと、訴えるように……グレゴの名を呼び、黙らせる。
「あー……いいかい?」
若干気まずくなってしまったが、そこへ入ってくる人物が。ヴラメさんだ。
どうやら会話は聞こえていたのだろう、なんとも言えない表情をしている。まあ、ここにいる私にだって聞こえたんだ、そりゃ聞こえるか。
「ねえ、二人ともなに話してたの? 今ヴラメさんも来たみたいだけど」
……どうやら、エリシアには聞こえてなかったらしい。あれ、私の耳が良かっただけ?
「ヴラメさん……」
「グレゴくん。キミの才能はすばらしいよ。ま、こんな結果になってしまった以上、嫌みにしか聞こえないかもしれないが」
その間にも向こうでは話が展開されていく。エリシアは適当にあしらうことにして、話の続きを聞くこととしよう。
「ヴラメ、コメットはもういいのか?」
「あぁ。お前のとこのサシェって子が、面倒見てくれてる」
「だからなんで!?」
どうにもサシェには、世話焼きの面があるらしい。そういえば、ボルゴのときもそうだったっけ。
そして会話が聞こえないエリシアにとっては、私の今のツッコミは奇行に思えたことだろう。
「えっと、まあいろいろ聞きたいことはあるんだろうけど……まずさっきの。弟子にしてっていうのは、あれは……」
「本気です!」
「……うーん、そっか……」
やはり聞き間違いではなかったか……と、ヴラメさんは額を押さえる。その表情は、その強面にはとても合わない、困っていると顔でしゃべっているようなものであった。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる