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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~

人生初めての悔しさ

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 グレゴとヴラメさんの勝負が終わり、後に残ったのは敗北の事実を受け入れたグレゴ。そして名前を付けるほどに愛用していたであろう剣を砕かれたコメット氏。


「うぅう……」

「な、泣かないでくれコメット。新しいの買ってやるから」


 先ほどまでグレゴを圧倒していた人だとは、とても思えない。まるで気のいいおじさんだ……この姿こそが、きっとヴラメさんの本当の姿なのだろう。

 敵であろうと、傷つけたくないから騎士団から去った……か。それは間違いではないんだろう。現に、グレゴにあれだけの剣撃を放っておきながら……グレゴの体には、傷一つついていない。グレゴが全部さばいた……というには、グレゴの表情は浮かない。


「ね、ねえ、あれなんて声をかけたらいいのかな……」


 と私に言ってくるのはエリシアだ。だけど、そんなもの私にだって答えはわからない。これまでグレゴが負けたとこだって、見たことがないんだ。そんな相手に、なんて声をかければいいのか。

 ……そうだ、こんなときこそサシェの出番だ! 私たちが言いにくいことも、平然と言ってのける彼女なら、今のグレゴにもなんか言ってくれるはずだ!


「……あれ、サシェは?」

「あっちで、コメットさん慰めてるよ」

「なんで!?」


 頼りのサシェは、剣を砕かれたことで消沈中のコメット氏の傍にいた。いや、その人も災難だとは思うけどさ! まずは仲間のほうどうにかしよ!? くぅ、どうすればいいのか!

 なんて言葉をグレゴに言ってあげればいいのか、それとも言わないのが成功なのか……そう悩んでいたが、たたずむグレゴに近づく影があった。

 師匠だ。


「どうだグレゴ、自分の力を目いっぱいぶつけてなお、敵わない相手がいるってのは」


 師匠はこの上なくストレートに、この勝負のkっか、そしてその先に感じたであろう感想を問いかけた。


「……悔しいです。今まで自分は、剣の道では誰にも負けないと思ってきましたし、事実俺に勝る剣士はいませんでした。ターベルトさんの修行を受けたアンズが相手でも、負けない自信はあります」

「アンズに教えたのは剣じゃない……が、たとえアンズに剣を教えても、グレゴ……お前には敵わんだろうな」


 二人とも……私に会話が筒抜けなの、気づいていないんだろうか。まあ、二人の言う通りなんだけどさ。たとえ私が最初から剣を習ってても、グレゴには敵わないだろう。

 それでも、こう負けない敵わないと言われてばっかっていうのは……純粋に悔しい。


「まったく、歯が立ちませんでした。初めてです、こんな気持ち。あの人が全力を出したのは、結局最後だけ……それも、自分の全力が借り物の剣に防がれるなんて」

「最後だけ全力、ってのはちょっと違うな。初めは乗り気でなかったとはいえ、全力の相手に全力で応えない奴じゃない。あいつは全力だったさ。途中までは、鈍ってた剣の勘を取り戻してただけだ」

「はは、それは余計にみじめですね。手を抜くとかじゃなく、勘を取り戻す手探り状態であんなにあしらわれちゃ」

「だが、あいつに楽しいと思わせたんだ。誇っていいと思うぞ?」


 師匠は、言葉だけじゃない。本心から、グレゴの健闘をたたえている。おそらくそれは、グレゴも感じているはずだ。

 そう、グレゴは健闘した。これまでの相手が魔物ばかりで全力を出せてはいなかったため、私は実はグレゴの全力を知らない。そんな私でも、わかる。少なくとも、グレゴの最後の一振りは……今までに私が見てきた中でも、最高の一振りだった。

 それが、通じなかった。あれが、ヴラメさん本来の獲物であれば、あるいはシューベルトよりも強度があったならば。グレゴの剣は弾かれ、グレゴの喉元にはヴラメさんの剣の切っ先が突きつけられていたはずだ。


「ターベルトさん……ヴラメさんは、どうして騎士団をやめたんですか」

「……言ったろう。あいつは、誰かを傷つけるのがとんでもなく嫌なんだよ」

「けど、あの人の才能は……こんなところで、埋もれさせていいものじゃない! 剣をとって、一週間……いや、実戦経験の勘を取り戻せば、一日で現役だった『剣豪』の力だって……」


 私だって思うのだ、剣を交えたグレゴはなおのこと思っただろう……ヴラメさんは、まだ全然現役で活躍できる。もしかしたら、この集落の中でだって、そう思った人がいるかもしれない。

 それほどまでに、ヴラメさんの戦いには可能性を感じさせるものがあった。もし今からでも私たちの旅に加わってくれれば、『剛腕』ターベルト・フランクニルと『剣豪』ヴラメ・サラマンの二枚看板が復活する。

 そうなれば、この旅だってずいぶん楽になるはずだ。……それに……


「グレゴ」


 師匠だってわかってるはずだ。ヴラメさんなら、また現役に復帰したってなんら不思議はないことに。

 だけど、それ以上は言うなと、訴えるように……グレゴの名を呼び、黙らせる。


「あー……いいかい?」


 若干気まずくなってしまったが、そこへ入ってくる人物が。ヴラメさんだ。

 どうやら会話は聞こえていたのだろう、なんとも言えない表情をしている。まあ、ここにいる私にだって聞こえたんだ、そりゃ聞こえるか。


「ねえ、二人ともなに話してたの? 今ヴラメさんも来たみたいだけど」


 ……どうやら、エリシアには聞こえてなかったらしい。あれ、私の耳が良かっただけ?


「ヴラメさん……」

「グレゴくん。キミの才能はすばらしいよ。ま、こんな結果になってしまった以上、嫌みにしか聞こえないかもしれないが」


 その間にも向こうでは話が展開されていく。エリシアは適当にあしらうことにして、話の続きを聞くこととしよう。


「ヴラメ、コメットはもういいのか?」

「あぁ。お前のとこのサシェって子が、面倒見てくれてる」

「だからなんで!?」


 どうにもサシェには、世話焼きの面があるらしい。そういえば、ボルゴのときもそうだったっけ。

 そして会話が聞こえないエリシアにとっては、私の今のツッコミは奇行に思えたことだろう。


「えっと、まあいろいろ聞きたいことはあるんだろうけど……まずさっきの。弟子にしてっていうのは、あれは……」

「本気です!」

「……うーん、そっか……」


 やはり聞き間違いではなかったか……と、ヴラメさんは額を押さえる。その表情は、その強面にはとても合わない、困っていると顔でしゃべっているようなものであった。
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