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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
ヴラメ・サラマンという男
しおりを挟む「ホントすみませんでした」
「あっはっは、構いませんよ! 慣れてますから!」
ヴラメ・サラマンに対する勝手な誤解が解け、私はただ謝っていた。いくら怖かったとはいえ、私は初対面の、しかも師匠のご友人さんになんて失礼なことを!
しかも、こうして平謝りする私のことを笑って許してくれるほどに懐の大きな人だというのに! 見た目だけで判断していた自分が恥ずかしい!
「まったく、アンズは失礼な奴だなあ」
「グレゴもめっちゃ警戒してたよね!」
まったくこの男はちゃっかりと! そんなやり取り含めて、ヴラメさんは笑って流してくれている。
師匠と古い友人というだけあって……なるほど師匠と似た性格をしているな。性格だけなら双子と言ってもいいんじゃないかってくらい。
「しかしまあ、相変わらずの人気だなターベルト」
「なあに、お前ほどじゃないさヴラメ」
今目の前で笑いあっている二人は、本当に仲がいいんだなと実感させられる。ううん……男の友情ってやつかな、悪くないよね。
パッと見の印象は、すごく強面で怖い人。しかし実際には、初めて会った私たちにも、すごく優しく接してくれる人。人は見た目じゃわからないってのは、このことだなぁ。
「とりあえず、俺の家に案内するよ」
ヴラメさんの案内についていき、私たちは改めて集落内を見学する。
そこにはみんなが笑いあってる、素敵な光景があった。道行く人は、見知らぬ私たちであろうと笑顔で挨拶をしてくれる。
ははぁ、すごいなぁ。私のいた世界じゃ、道行く人に常に挨拶なんてこと、なかったよ。大抵がなにもなしに通りすぎるか、やって会釈……少なくとも、笑顔で挨拶なんてなかった。
ここは、人の温かさに溢れている。
「ヴラメ・サラマン……聞いてた通りの人だな」
「うん?」
周りの様子に、なにかに納得したようにうなずくグレゴがいた。なにを勝手に納得してるんだよぅ。
グレゴは、『剣星』と呼ばれる前、王国の騎士団に所属していた過去がある。そこで、ヴラメ・サラマンという人物について噂を聞いていたらしい。
曰く、戦場に出ると一騎当千の鬼となる。曰く、人々をまとめあげる力に長けており、彼が入隊するまでバラバラだった騎士団が一つにまとまった。曰く、優しすぎる鬼。
この集落でも、人々をまとめあげる力が光り、今ここにみんなの笑顔が広がっているのだろう。師匠曰く、この集落を作り上げたのはヴラメさんのようだし。
『剣豪』『一騎当千の鬼』『優鬼』……いろいろな呼ばれかたをされていたようだが、どこか矛盾を感じる呼び方もある。
「お前のその優しさは、美点だが弱点でもあるぞ?」
師匠がヴラメさんにそう言ったのは、ちょうど同じようなことを考えているときだった。
ヴラメさんは優しく、そしてかなりのお人好しだ。曰く、味方はともかく敵にも情けをかけるほど。それを甘いと言うのか優しいと言うのかはさておいて。
彼が騎士団をやめ、王国を去ったのは……つまるところそういうことだ。実力は、誰よりもあった。努力だって、誰よりしてきた。それでも、たとえ敵であっても、人を傷つける行為に限界を感じていた。
この事実は、公にはされていない。戦場で負った傷が原因、とされているらしい。
ヴラメさんは別に、事実を隠すつもりはないが……ヴラメさんを想う師匠が、そういう話にして広めたのだ。少なからず、ヴラメさんに非難の声が飛ぶのを恐れたからだろう。師匠も優しいんだから。
世界は違っても、このご時世だ。騎士団の団長を勤めるほどの実力者が、騎士団をやめた理由が敵を倒せないから、ではなに言われるかわかったもんではない。
「結局俺には、騎士は向いてなかったってことさ」
「そんなことないだろう。かつて『剣豪』と呼ばれた男の冗談にしちゃ笑えんぞ?」
「はっは、懐かしい呼ばれかただなぁ。ここじゃ俺をそんな風に呼ぶ人はいないからな」
案内された一軒家に入り、用意されていた席に座らせてもらう。とはいっても、私たちは六人だ。いくらこの集落は人の交流が盛んとはいえ、一人暮らしのヴラメさんの家に六人分の椅子はない。
なので、私とエリシア、そしてサシェが座らせてもらうことに。私は、師匠を差し置いて座ることに抵抗を感じて辞退はした。それにせっかくの友人相手だ。
けど、結局は座るように押しきられてしまった。やっぱり師匠は優しい。
「しかしまあ、『勇者』殿の師匠がお前とはなぁターベルト。責任重大じゃないか」
「まあなぁ、はっはっは!」
「あのぅ、勇者なんて仰々しく呼ばなくていいですからっ。それも師匠のご友人さんにっ」
「くかー……」
「寝てる!? ……そ、それにしても笑顔が溢れてて、落ち着く……」
「ここは皆さん仲良しでとても素敵です。私の村も、こうだったらなぁ……」
つかの間の休息の時間。師匠の友人がいるからだろうか、今までよりもリラックスできている気がする。
私たちは話に花を咲かせ、この集落のことはこれまでの旅のことを、互いに語り合って……
「あの!」
……語り合っていたところへ突然、声を上げる者がいた。
これまで会話に参加してこずに、どこか緊張した面持ちの……グレゴだ。声を張り上げる彼に、自然と視線は注目する。
「グレゴ?」
「え、なに? どうしたの?」
「え? え?」
「んん……むにゃ?」
「どうしたグレゴ……」
「あの……ヴラメさん。いや、『剣豪』ヴラメ・サラマン」
「…………」
静まり返る室内。部屋の空気が変わり、唇が渇く。なんだろう、このピリついた空気……これは、知っている。グレゴが戦いの中でだけ見せる、気合いのようなもの……剣気だ。
ゆっくり深呼吸して、グレゴは言葉を選ぶように。視線をただ一点に集中させ、次なる言葉を吐いた。
「俺と、手合わせをお願いします。手加減なしの、真剣勝負で」
『剣豪』ヴラメ・サラマンに対し、『剣星』グレゴ・アルバミアが一対一の真剣勝負を申し入れた。
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