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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~

旅の準備

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 異世界『ライヴ』。その中のマルゴニア王国に召喚された私熊谷 杏。世界を救うために、『魔王』を討伐することになり……五人のメンバーと、共に旅に出ることになった。

 実は不安だった、勇者パーティーメンバーとの顔合わせ。それは考えていたほどお堅いものではなく、それに怖い人なんておらず、みんないい人たちだった。

 『剣星』、『魔女』、『剛腕』、『弓射』、『守盾』……個性的なメンバーが一人一人いて、不思議とみんなと話があった。特に、同姓のエリシアとは。サシェとは、時折噛み合わないときもあったけど。

 例えば……


「ねえねえ、アンズって誰か好きな人いないの?」

「な、なにいきなり……エリシアってそういうことに興味ある人だったの?」

「あるよー、女の子だもん。で、で、いないの? グレゴにボルゴ……ターベルトさんなんか、いつも一緒にいるじゃん!」

「いるけど! 師匠は師匠っていうか、お父さんみたいなものだし! ていうか、私もう彼氏いるからね!?」

「え、うそ! それって元の世界の?」

「そうそう。そりゃもうかっこいいんだから……って、エリシアこそどうなの? それこそグレゴとか。結構一緒にいるじゃん?」

「えー、やだよ筋肉ダルマなんかー。ボルゴも、なんか……ビビってこないしさー」

「うわー、ひどいや」

「二人ともなに話してるのー?」

「恋ばなだよ恋ばなー。サシェは狙ってる男はいないの?」

「コイバナ……? 狙ってる、男……二人は、狩りでもするの? 私もやりたい!」

「「…………」」


 こんなことがあった。これほどの知識の差なのだ、サシェとは。狙ってるというのは、野生で育ったサシェにとって物理的な単語でしかない。

 師匠とはほぼ毎日の修行の中で語り尽くせないほどの会話をしたし、グレゴとは男友達感覚で話していたし、ボルゴとは他のメンバーほどではないけど人並みには、話していた。

 会話をする中で、一人一人が相当な実力者であることもわかった。他の人の実力を計れるようになるなんて、私もどんどん成長していくなぁ。なんにせよ、これだけのメンバーがいれば、旅も安心だ。

 それと同時に、これだけのメンバーを集めないといけないほど、『魔王』というのはとんでもない相手なのか……そう、考えると背筋が寒くなる。

 旅を開始するまでの三ヶ月間。私は、『剛腕』ターベルト・フランクニルに修行をつけてもらい、日々訓練に励んだ。彼は、私が勝手に師匠と呼ぶほど、なんていうか熱く強くたくましい人だ。

 師匠の教えのおかげか、私は自分の実力が上達していくのを自覚することができた。今までより、体が身軽になったし走るスピードも上がったし握力も強くなったし。

 これも全部師匠のおかげ……と思ったが、師匠曰く、これほどまでに上達が早いのは、私の筋がいいかららしい。

 実はお母さんが、昔アスレチックの大会に出ていたらしく……筋がいいのは、お母さんの血のおかげではないかと、思ってたりする。

 代わりに、その日が終わる度に体の痛さと付き合うはめになったけど。翌日の筋肉痛は、さらにすごい。ので、訓練が休みの日はベッドにばたんきゅーだ。

 驚いたのが、私のために用意してくれたという宿。そこは私の世界で言うホテルと大差ないものだった。そこではベッドや大きなキッチン、お手伝いさんなんかもいる。至れり尽くせりってやつだ。

 もしかしてこの世界の宿自体がこんなに豪華なのか……と思ったが、こんなに豪華なのは勇者待遇の私だから、らしい。

 この世界の暮らしはそれなりに楽しく、充実していた。訓練はつらかったけど自分が強くなっている実感があったし、充実感はあった。それに、他の勇者パーティーメンバーも優しく面白い人ばかり。

 この世界での暮らしも、悪くはない。

 けれど、私は帰るのだ……元の世界に。そのために、ここでこうして訓練をして、仲間との親睦を深めているだけだ。あまりここに馴染みすぎても、いけない。

 深く踏み込みすぎては、いけない。ここを離れるときに、寂しくなってしまわないように。楽しくて元の世界のことを忘れることがあっては、いけない。

 そして……長いようで短かった三ヶ月が、経った。三ヶ月前、この世界に召喚されたばかりの私と、今の私は確実に違う。そして、それは他のみんなも同様だ。

 師匠も、グレゴも、エリシアも、サシェも、ボルゴも。みんな、出会った三ヶ月前とは違う。その雰囲気も、実力も。私だけではない……訓練したのは。みんな、世界を救うために自分にできることをしてきたのだ。

 基本的に、自分の力を上げることに疑問のない師匠、グレゴ、エリシアはともかく。消極的だけど自分の役目を果たそうと必死なボルゴや、自分がなぜここに連れてこられたのかよくわかっていないサシェも。

 みんなが、強くなった。それは、誰かに強制されたわけではない……みんなが、自発的に強くなろうと思った結果だ。


「……なんか、あっという間だったなぁ」


 訓練をしたり、ご飯を食べたり、お話ししたり、女の子だけで恋ばなをしたり……うん、ここでは思い出がいっぱいできた。踏み込みすぎちゃいけないのにな……

 思い出ができたこの場所だけど、次に戻ってくるときは……元の世界に、帰るときだけだ。


「じゃあ、行ってきます」

「あぁ、気をつけて。ご武運を」


 旅の準備が完了し、マルゴニア王国王子のウィルを始め王国騎士団や、魔法術師団、それに私達が関わった多くの人が、見送りに来てくれている。


「アンズちゃん、これ、持っていきな」


 そう言って、日持ちする食料を渡してくれたのは、この三ヶ月の間でお世話になったお店のおばちゃんだ。


「おねーちゃん、いってらっしゃい」


 そのおばちゃんの孫である、小さな女の子。よくお店に行く私に、なついてくれたっけ。それに……


「うん、いってくるね、アン」


 その子の名前はアンと言って、私と名前が似てるからと、余計になついてくれたものだ。今だって、泣きそうなのを必死に抑えている。私としても、妹と同じ名前なのでかわいがっていた。

 こうして、送り出してくれる人がたくさんいる。まっかく……これじゃ、旅に出る際のお別れですら、寂しくなっちゃうじゃないか。


「……行ってきます」


 各々別れを済ませ、改めて出発の挨拶を告げる。一度歩きだしたら、もう振り向かない……名残惜しくても、泣き声が聞こえても、振り向かない。次にみんなの顔を見るのは、胸を張ってこの場所に帰ってきたときだけだ。

 私は五人の仲間を連れ、旅に出た。男三人、女三人で六人のパーティーだ。私達で、世界を救うんだ!
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