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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
『剣星』、剣を振るうだけのトレーニング
しおりを挟む今日は訓練の休息日。久々の一日自由時間だ。本当ならば街に出てショッピングとかしたかったのだけど、師匠にしごかれまくった体は残念ながら言うことをきいてくれない。
つまり、外出しようにも思ったように体が動かないのだ。
せっかくの休息日だけど自由には動けない。とはいえ、まったく動けないわけではない。壁を伝えば。つまり、遠出できないってだけだ。
「ふっ、ふっ」
遠出できならできないなりにどう時間を使おうか考えているところへ、男の妙な息遣いが聞こえてきた。
実はこのまま寝てしまおうかとも考え始めていた私にとって、かすかではあるけど確かに耳につくこの息遣いは大問題だ。なので私は、声の正体を突き止めるために声の方向へと足を向ける。
まあ、実はわざわざ確認するまでもないとは思う。息遣いの正体に、察しはついているのだ。
言うことをきいてくれない体も、ゆっくり歩くことに対して大きな支障はないようだ。情けないが一人で歩けないので、壁を伝う。そのまま歩き、角を曲がった先にいたのは……
「やっぱりグレゴか」
「ふっ……ん、アンズか。どうしたんだ、今日は休息日だろ?」
そこにいたのは、勇者パーティー随一……いや、この世界一と言ってもいいだろう剣士。その名を、グレゴ・アルバミア。
彼は『剣星』と呼ばれる、剣の頂点に立つ男だ。硬派で、お堅いイメージ。だけど実際は、とても馴染みやすいのだ。
今はどうやら、見てわかる通り……剣を素振りするトレーニングをしていたようだ。剣といっても、今持っているのは木刀だ。
周りに誰も居ないし、一人で集中していたのを邪魔してしまっただろうか。……いや、先に私の邪魔したのはこいつだよ、うん。
「休息日……そうなんだけどね。体が痛くて動くのやっと」
「ははぁ、ターベルトさんとの訓練の影響か。あの人、かなりきついからな」
「そ。で、ゆっくり休もうと思ってたら、こっちからグレゴがはぁはぁ言っててうるさいから休めなかったの」
「はぁはぁは言ってないだろ!?」
それにしても……うーん。……どう見ても、私と一歳違いとは思えないよなぁ。
「まあうるさいのは二割くらい嘘なんだけど……」
「残りの八割は!? それよりもはぁはぁの方を訂正してくれ!」
私だって、いくら自分が疲れてるからって、人のトレーニングをうるさいとバッサリ切るなんてことはしない。ここに来たのは、まあ……暇だったから。
あれ? それじゃあ結局、グレゴの邪魔をしに来たことに変わりはないのか。
「グレゴは自主的にトレーニングして精が出るよねー」
「アンズはたまに人の話を聞かない所があるよな?」
なんと、失礼な。私だってそういった対応をする相手くらいは選ぶって。グレゴは、まあそういうことしても許してくれそうな相手だしね?
それにグレゴも、諦めたようにため息を漏らしている。
「ちょっとー、ため息吐いたら幸せが逃げちゃうよ?」
「誰のせいだと……いや、いいや」
どうやら、反論は諦めたらしい。妥協は大切だよ、うん。
「グレゴって、いつも剣振ってるよね。そんなに剣が好きなの?」
グレゴの自主トレを遮ってまで聞くことか……と自分でも思うが、この程度遮ることにすらならないらしい。素振りを再開し、答える。
私の存在を認めつつ、なんだかんだ邪魔であるとは認識していないようだ。私だって積極的に邪魔しようとは思ってないとはいえ、さすが本人の意識高いな。
「いつも、ということは……ないっ。ふっ……休息はちゃんと、取っている。ふっ……それに、剣はサボったら、鈍るっ……」
「ほぉーん?」
私は剣のことは、よくわからない。けれど、『剣星』である……一剣士であるグレゴが言うのなら、そうなのだろう。剣は日々振ってこそ、意味があるのだと。
そう語る彼の目に、迷いはない。それだけグレゴは、剣に自分を捧げている。
ただ剣を振るうだけの素振り……こうした小さな積み重ねが、今のグレゴに繋がっているのだろう。地道だけど、それが大切なことなんだ。もちろん、素振り以外もしているのだろうけど。
『勇者』とかもてはやされてる私だけど……純粋な剣の勝負なら、多分グレゴには敵わないんだろうなぁ。
「私はとてもそんな真似はできないなぁ」
「そんなことはない。アンズは、基礎ができてないだけだ……体を慣らせば、筋肉痛で動けなくなることもなくなる。そのために、まずはもっとトレーニングをだな……」
「あー、聞こえない聞こえない。グレゴはそんなんだから筋肉ダルマになるんだよー」
「きん……」
暇潰しに来たのに、なんでトレーニングについての説教されなきゃいけないんだ。聞きたくないと、耳を塞ぐ。そんな私を見て、グレゴはまたもため息。
「……今、こんなのが世界を救う『勇者』なのか、って思ってるでしょ」
「……思ってない」
今の間はなんだ、今の間は。
「私だって疑問だよ。なんで私が選ばれたのか……さ。みんなはわかるよ、『剣星』とか『魔女』とか、すごいかっこいい名前持ってるし。師匠は『剛腕』だっけ……てか、もう師匠だけでよくない?」
今私に、戦い方とかいろいろなことを教えてくれている師匠には、自分がいくら強くなったところで敵うビジョンが浮かばない。
私なんかより、師匠が『勇者』になったほうがよかったと思うんだけど。
「あとは、あの二人か。実は私、まだあんまり話したことないんだよね」
「そうなのか?」
勇者パーティーのメンバーは、私を含めて六人で形成されている。私、師匠、グレゴ、エリシア……そして、残る二人。
サシェ・カンバーナ。『弓射』の名を持つ弓使いの女性で、今まで会ったことのないタイプの人だ。なんというか……落ち着きがなく、エリシアとはまた違った意味で子供っぽい。
ボルゴ・ニャルランド。『守盾』の名に相応しく、一切の物理、魔法攻撃を防ぐ力を持つ男性。どれだけすごいのか、といまいちパッとしなかったが、あの師匠の拳を耐えたのだからもう疑いようもない力だ。
「ボルゴはともかく、サシェとは結構一緒にいないか?」
「まあ……一緒には、いるよ」
なんというか、彼女……パーソナルスペースが、恐ろしく狭いのだ。同じ女同士だから、というわけでもない。男メンバーにも、同じような距離感だし。ちょっとは慎みを覚えてほしい。
野生で育ったと聞いたことがあるから、きっと距離感とか感覚が違うのだろう。
そう、彼女の方から寄ってくるのだ。そこだけ見たら、あまり話したことないとは思わないかもしれないが……
「彼女と、あんまり共通の話題なくて……」
「あぁ……」
サシェは、よくくっついてくる。だけど、そこからの会話はほぼない。せいぜい、今日いい天気だねとか髪型きれいだねとかその程度のことだ。実は、共通の会話がない。
この世界に来たばかりの私と、自分の故郷より外の世界を知らなかったサシェ……共通の話題以上に、距離感がつかめない。
それに、すぐに話題が興味の移ったあちこちに行ってしまうから、話しかけるのすらうまくいかなかったりする。
「ボルゴは、引っ込み思案だしねぇ」
引っ込み思案な年上の男の人……これも、距離感をつかめない一人だ。なのでこの二人とは、グレゴたちほど話せてはいない。
「旅立つまで時間はあるとはいえ、それまでに仲間意識を固めとけよ?」
「わかってるよー」
私だって、仲間とか以前に……ただ、もっと話してみたい。ここにいるみんなと、もっと、もっと仲良くなりたいな。
「……あんまり仲良くなり過ぎても、よくないんだけどね」
そう、あんまり仲良くなり過ぎてしまうと、お別れの時が辛い。魔王を倒して、旅を終え、元の世界に帰るとき……あんまり仲良くなった相手とは、どうしたって情が湧いてしまう。それが、共に冒険した仲ならなおさらだろう。
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うん、私頑張る!
「やるぞぉー!」
「え、あぁ……頑張れ」
「グレゴもだよ! みんなが仲良くならないと!」
私だけじゃない。みんなが仲良くならないと、意味がないんだから!
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