268 / 307
第8章 奪還の戦い
気になる動向
しおりを挟む騎士学園の校長となり、ゼルジアル・フランケルトは、日々業務に追われていた。
忙しくはあるが、やりがいはある。少なくとも、ただ怠惰に余生を過ごしていた頃より、全然マシだ。
数日、数ヶ月、数年……時が経つにつれ生徒も増えていく。騎士学園には入学の規定年齢はなく、ある程度であれば誰でも入学試験を受けられる。
これまでは、ゲルド王国には王城の兵士や、冒険者くらいしか戦力と呼べる者はいなかった。それは、同時にこの国が平和であることを意味していた。
だが、これからはどうなるかわからない。子供のうちから武を鍛え、来る災厄に備える。それが、国を守ることに伝わるのだ。
『ふぅ……』
騎士学園設立から……そしてゼルジアル・フランケルトが校長の座についてから、実に9年もの月日が経っていた。
この日、また新たな学生が入学することとなる……正確にはその試験であるが……毎年この日が、実は彼にとって楽しみだったりする。
一応、入学試験を見学するのが恒例の楽しみだ。内緒で、気になった会場を回るのだ。
『さて、今回は……』
入学受験者、その名が書いてある名簿をざっと見つめる。ふと、彼の目が止まったのは、その中に気になった名前を見つけたからだ。
……ヤークワード・フォン・ライオス。『勇者』の息子であり、生徒であるロイが剣を教えていたという、人物。
その名を見つけ、これは見に行かねばならないと心に決め……時間を作るために、仕事をそそくさと進めていった。
『……あれが、勇者の息子か』
いつよりもキリキリと作業をこなし、仕事を終わらせた彼はすぐに、ヤークワード・フォン・ライオスの試験会場へと向かった。
実技試験では、実際に剣を使っての試合。入学者同士が戦うことになるが、重要なのは勝ち負けではなく、諸々を含めたものが審査対象になる。
体の動かし方、剣のキレ、今後の成長性……もちろん、勝ち負けも対象にはなるが、さほど重要ではないのは確かだ。
ゼルジアル・フランケルト自らがそういった審査をすることは少ない。今回のはあくまで純粋な興味だ。
会場に立つ、対峙した試験者のうちのひとりを、見る。
『……ふむ』
見たところ、彼が持っているのは学園で貸し出している、ごく普通の剣。対して、彼と対峙するガルドロ・ナーヴルズは、自身の剣を持っている。
試験では、自分で剣を持ってくるのもいいし、学園のものを借りてもいい。ほとんどの生徒、というか貴族は、自前のを持っているものだが……
『ナーヴルズ家は名家、だがライオス家はそれ以上のはずだが』
自前の剣を持っているガルドロはわかるが、ヤークワードは貸し出しの剣。ロイに教えてもらっていたなら、自前の剣くらい持っていそうなものだが。
さて、その腕前はどれほどか……
『……ふむ』
結果的に言うならば、試合の結果はヤークワード・フォン・ライオスの圧勝だった。
ガルドロの攻めは荒々しく、どこか本来の調子を出せていないようにも見えて……剣筋が見えていたのだろうヤークワードはそれをかわしていき、武器を弾き……
ただ、試合が決した後に斬り掛かったのだけは、いただけなかったが。
『ま、期待株といったところですか』
他にも、ノアリ・カタピル、シュベルト・フラ・ゲルド、アンジェリーナ・レイ、リエナ……中々に、今後の成長が楽しみな人材が集まっている。
それに……だ。ゼルジアルは手元の紙に視線を落とす。
この騎士学園に貴族も平民も階級による差別関係はない……としているが、どうしても平民は貴族に比べて気後れしてしまうきらいがある。
だが、このミライヤとリィという生徒は、平民でありながら入学試験で騎士を破った数少ない生徒だ。
『なかなか、面白いですね』
結果の合否に勝敗は大きく左右されない……とはいえ、この2人の実力や姿勢は、目を見張るものがあった。
今まで見てきた平民の心構えとは、違うものを感じるのだ。
……その後、ゼルジアルは校長という立場故に直接彼らと対面することはなかったが、彼らの動向には注意していた。
学園で、ひとりの生徒を巡って起こった『魔導書』事件。それを解決したのが、友人であったヤークワードという。
それに、何年か前に国中で起こった『呪病』事件にもヤークワードが関与……というか表向きではガラドが解決したことになっているが、本当はヤークワードが大きく関わっているらしい。
『大きな事件の中心には、彼がいる……か』
それは、偶然……であろうか。それとも、考えすぎなだけだろうか。
どうやら学園内でのヤークワードは、貴族という立場であるが平民にも隔てなく接し、王族であるシュベルトとも仲良く交流しているらしい。
なかなか、コミュニケーション能力の高い人物と言えるだろう。
『勇者』の息子であり、教え子の教え子……彼の動向はいちいち驚かされる。見ていて、飽きないものだ。
……そして、それからまた時間は過ぎて。彼らがすっかかり学園に馴染んだ、その時だった。
ゲルド王国国王ゲオハルト・フラ・ゲルドから、衝撃の告白があったのは。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
紅雨-架橋戦記-
法月
ファンタジー
時は現代。とうの昔に失われたと思われた忍びの里は、霧や雨に隠れて今も残っていた。
そこで生まれ育った、立花楽と法雨里冉。
二人の少年は里も違い、家同士が不仲でありながらも、唯一無二の親友であった。
しかし、里冉は楽の前から姿を消した。それも里冉の十歳の誕生日に、突然。
里冉ともう一度会いたい。
何年経ってもそう願ってしまう楽は、ある時思いつく。
甲伊共通の敵である〝梯〟という組織に関する任務に参加すれば、どこかで里冉にも繋がるのではないか、と。
そう思っていた矢先、梯任務にも携わる里直属班・火鼠への配属が楽に言い渡される。
喜ぶ楽の前に現れたのは───────
探していた里冉、その人であった。
そんな突然の再会によって、物語は動き出す。
いきなり梯に遭遇したり、奇妙な苦無を手に入れたり、そしてまた大切な人と再会したり……
これは二人の少年が梯との戦いの最中、忍びとは、忍道とはを探しながらもがき、成長していく物語。
***
現代×忍びの和風ファンタジー創作『紅雨』の本編小説です。
物語の行く末も、紅雨のオタクとして読みたいものを形にするぞ〜〜!と頑張る作者の姿も、どうぞ見届けてやってください。
よろしくお願い致します。
※グロいと感じかねない描写も含むため一応R-15にしています

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる