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第8章 奪還の戦い

進むその先にあるもの

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 肩を貫かれたヤネッサであったが、その傷は完治していた。

 先ほどの、謎のエルフ。シン・セイメイの関係者である、彼のおかげだ。

 共に行動することは叶わなかったが、敵ではない。それだけでも、ノアリたちにとっては助かる展開だった。

 そして、今……


「! ヤークのにおいが、移動してる……?」


 ヤネッサを先頭に、彼女が追うヤークワードのにおいを頼りに、進んでいたのだが……ふと、ヤネッサが足を止めた。

 そして、つぶやいた言葉に、ノアリとアンジェリーナは眉を潜めた。


「移動……もしかして、私たちの侵入がバレて、ヤークワード様を別の場所に移しているのでしょうか」

「うーん、そうかも」


 アンジェリーナの危惧することを、ノアリも肯定する。

 これまでに、教師に見つからないように移動してきたが、結果としては何人もの教師に見つかった。

 それらはすべて倒した……と思いたいが、そうできなかった者もいるかもしれない。というか、一度囲まれた状態から逃げてきたのだから、その可能性が高い。まさか先ほどのエルフが全部倒してくれているわけでもなし。

 ノアリたちの姿を目撃した者が、上に報告でもして……とりあえずヤークワードを、移動させようと考えた。


「でも……」


 2人の予想を、しかしヤネッサは首を振る。


「一緒にするにおい…………このにおい、リィ」

「……リィ?」


 くんくんと鼻を動かし、口を開くヤネッサ。その口から出てきた名前に、ノアリは目を丸くする。アンジェリーナも、同様だ。

 リィ……騎士学園に通う数多くの生徒の中で、たった2人しか存在しない、ミライヤと同じ平民。

 ゆえにミライヤと仲良くなり、彼女を通じてノアリたちとも交流を深めていった人物だ。


「リィ……え、なんで……?」


 そのリィが、ここに来ている? それどころか、ヤークワードと共に移動している? それも、おそらくはヤークワードを助け出した、ということだ。

 彼女にもできることならば声をかけたかったが、時間がないのと居場所がわからないのとで断念した。


「ねぇ……本当に、リィ、なの?」


 今更、ヤネッサのことを疑うわけではない。ヤネッサの鼻は、この広い学園内であっても正確に、機能する力を持っている。とはいえ、結界の中では普段通りの力が出せないのも事実……知ったにおいだからこそ他よりはわかるかもしれないが、油断は禁物だ。

 それに、あまりに信じがたいことだ。リィが単身でここにいること、ヤークワードと共にいること、そもそもヤークワードの居場所がわかったこと。

 その手際……リィだけではないだろう、他にも協力者がいるのだろうか?


「うん、間違いないよ」

「……そっか」

「なんで、リィさんが……」


 なんでリィが……その理由としては、今行動している通りヤークワードの救出だろう。なんで、というのは理由ではなくて……

 わからないことだらけだ。このことを、ミライヤは知っているのか? 誰が他に協力しているのか?


「……どっちにしろ、ヤークと合流することに、変わりはないわ」

「そう、ですね」


 考え方を変えよう。リィがここにいる不思議よりも、リィがヤークワードを連れ出してくれたのだと。

 とはいえ、あまり移動されても、こちらが見つけるのが難しくなってしまう。ヤネッサ曰く、どうやらにおいは下にいっているので、降りてきているようだが。

 ならば、登っている自分たちと、うまくかち会えるだろうか。


「リィさんが、すでに学園内にいるということは……先ほどの爆発も、リィさんが起こしたなんてことは?」

「いやぁ……さすがにないと思いますけどね」


 しかし、仮にそうであれば……その謎の爆発のおかげで、警備は手薄になっているし。うまくヤークワードを連れ出すこともできたのだろう。

 ただの平民の女の子であるはずだが、まさかたったひとりで、乗り込みヤークワードを連れ出してしまうとは。

 正直に言ってしまえば、目立たない子だ。学園に2人だけの平民、という意味ではこれ以上なく目立ってはいるけれども。


「でも、ヤークを連れて逃げられたってことは、ヤークを捕まえてた部屋に見張りとかいなかったのかしら」

「正門の騒ぎや、爆発の騒ぎでそれどころではないのかもしれませんね」


 意図せず、シン・セイメイの行動はノアリたちにとってプラスに働いていたようだ。

 この状況においては、味方に近しい関係と言えるだろう。


「私たちにとっていい風が吹いてる、ってことね! ならこのまま、突き進むわよ!」

「あ、ノアリ声抑えて」


 昂ぶる気持ちを抑えきれず、思わず大声を上げてしまったノアリ。反省。

 改めて、進む。頼りはヤネッサだ、ヤークワードたちも逃げたはいいが、その道中ですれ違うことになったら目も当てられない。

 ヤネッサにばかり頼るのではなく、ノアリたちも、周囲に気を配って……


「……っ、止まって!」

「え……」


 先ほど大声を上げたことを反省したノアリだが、それも構わずに口を開く。同時に、ヤネッサとアンジェリーナの首根っこを掴み、後ろに引っ張る。

 乱暴だが、勘弁してもらいたい。

 直後、右側からなにかが猛スピードで迫り……ノアリたちの目の前の壁へと、激突した。


「きゃっ……なに!?」


 竜族の血が覚醒した、ノアリだから気づけた……なにかが視界に映り、ざわっと悪寒がしたのだ。

 目の前、壁になにかが……誰かが、激突した。吹きとばされて、きたかのようだ。

 そこにいたのは……


「う、うぅ……」

「くっ……」

「み、ミライヤ!?」

「リエナ!?」


 別行動を取っていたはずの、ミライヤとリエナであった。
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