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第8章 奪還の戦い
許せない悲しみ
しおりを挟むバチバチッ……と、まるで稲妻が迸るかのごとく、魔力が弾け飛ぶ。
身体中から雷が走る……この現象は、鬼族の特徴によく似ている。現に、鬼族の血が覚醒したミライヤも、迸る雷を操っている。
だが、そもそもとして雷と、雷のように見える魔力という違いがあり……なにより……
「う、うぅ……!」
今のヤネッサは、怒りに呑まれてしまっている。抑えきれない魔力が、あふれ、周囲に被害を及ぼしている。
なにがあったのか、ノアリたちにはわからない。だが、尋常でない事態であることは、確かなのだ。
「ヤネッサ……!」
暴走……その経験は、ノアリにもある。そのときは、ヤークワードとクルドが必死の思いで止めてくれた。
が、今のヤネッサは、単なる暴走とも違う。
目からは涙を流し、歯を食いしばり……まるで、なにかを悲しんでいるようにも、見えるのだ。
「ねえ、どうしたの、ヤネッ……」
「ゆる、さない!」
ノアリの声も、届かない。ヤネッサはついに、その場で叫ぶ。
感情の昂りに呼応するように、あふれる魔力も激しさを増し……周囲を、傷つけていく。
このままでは、ヤネッサの魔力で学園が崩壊してしまうのではないか……そう、思われたとき。
「ぁ、ぐっ……!」
「!?」
突如、ヤネッサの体がよろめく……鮮血が、舞う。
まるでスローモーションのように、ヤネッサの体が倒れていき……
「ヤネッサ! ヤネッサァ!」
見えた……ヤネッサの肩が、撃たれたのだ。狙撃手は、先ほどヤネッサが倒したのではなかったのか。
いや、新手が現れたのだ。それが、ヤネッサを狙撃した。
魔力があふれ出しているとはいえ、無防備であることには変わりはない。近づかなければ、被害もなく狙い撃ちすることができる。
「くっ、そ……!」
再び向かってくる弾丸を、今度は弾くノアリ。先ほどヤネッサに助けてもらったばかりだ、ここで全滅することは避けたい。
ヤネッサ野介抱はアンジェリーナに任せ、ノアリは弾丸の飛んできた方向を見つめる。
「うぅう……らぁあああい!」
「!?」
ノアリは、己の中に流れる竜族の血に意識を集中させ、身体能力を向上させる。
こちらへ狙いを定めている狙撃手を、逆に見定め。瞬間的な移動で、まるで消えたかのように錯覚。
狙撃手の目の前に現れたノアリは、その顔面を容赦なく蹴り飛ばした。
「げはっ……!」
間抜けな声を漏らし、吹き飛ばされるのはやはり教員。
大丈夫だ、殺してはいない。ただ、少しの間じっとしておいてもらうだけだ。
「ここは、もう危ない」
図らずも、先ほどの狙撃により、ヤネッサの暴走は多少の落ち着きを見せた。
とにかく、ここに自分たちがいることがバレている。このままにしていたら、また続々と新手が来ることだろう。
「アンジェさん、ヤネッサ! ここから移動するよ!」
「え、えぇ……わぁ!?」
言うや、ノアリはアンジェリーナとヤネッサ、それぞれを抱える。
本来、ノアリが2人を抱える……ましてやその状態で移動するなど、不可能であるが……
「の、ノアリさん、その姿は……!?」
視線を動かし、ノアリの姿を認めたアンジェリーナは、驚愕に声を震わせる。しかしそれは恐怖からではなく、純粋な驚きから。
「あはは……そういえば、アンジェさんには見せたこと、なかったでしたっけ」
そう苦笑いを浮かべるノアリの皮膚は、朱色の鱗に覆われ……気のせいではないだろう、翼や尻尾のようなものまで、生えている。
これは、竜人たるノアリの姿……思い返せば、この姿を見せたことがあるのはごく限られた人間だけだ。
「説明は、後! 舌噛まないでくださいよ!」
「えっ……あぁ!?」
瞬間、アンジェリーナは風になった……いや、そう錯覚しただけだ。
アンジェリーナとヤネッサを抱えていては、ノアリは得物を持つ手が塞がってしまう。だが、ノアリひとりが対応するより、2人を連れてこの場を離脱するべき……そう、判断した。
その速度は凄まじく、アンジェリーナは思わず悲鳴を上げそうになってしまう。だが、そのために口を開くことすら、ためらわれる。
「……っ」
……騎士学園は広い、とはいえ、これだけの速度で走れば、すぐに行き止まりに突き当たる。
軽く息を整え、ノアリは2人を下ろした。元々気を失っていたヤネッサはともかく、アンジェリーナはとても見せられない顔をしていた。
「う、うぅ……気持ち悪い、です……」
「あはは、すみません……」
酔ってしまったのか、その場で軽く咳き込み、アンジェリーナは息を整える。そして、その視線はノアリへ。
改めてじっと見つめられると、照れる。
「とりあえず、ここまで来たら安心だと思うけど……っと、ヤネッサ!」
場所は移した、ここは先ほどよりは安全なはずだ。なので、次はヤネッサの治療だ。
幸いにも、被弾したのは肩……命に別条はない。ノアリは迷うことなく、スカートを少しちぎり、切れ端で傷口を押さえる。
自分にも魔法が使えれば、こんな怪我すぐに治せるのだが……
「よし、っと」
ヤネッサの応急処置は済んだ。
しかし、道案内に頼みのヤネッサは気絶し、起きてもまた暴れないとも限らない。その上、道を適当に走ってきてしまった。
ここは、どこだろう。そしてヤークワードは、どこにいるのだろう。
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