復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
239 / 307
第8章 奪還の戦い

最悪の災厄

しおりを挟む

 ドク……ドクン……ドクンッ……!


 心臓の音が、うるさいくらいに大きくなっているのを感じる。ノアリは、自分の薄い胸を押さえた。

 この音が、聞こえてしまわないだろうか……そんな、気持ちを抱きながら。


「あなた、シン・セイメイよね……?」


 先ほど、驚愕に呟いた名を、今度は確認のために投げかける。

 それを受けるのは、なんの変哲もない少年……ノアリたちの知っているセイメイとは似ても似つかないし、エルフですらない。

 だが……


「カカッ、おぉおぉ、この距離にいてまだ気づかぬようであれば、その目は節穴と思うところじゃったが。そこまで、阿呆ではなかったようじゃな」

「……っ」


 声色こそ違えど、その話し方は、笑い方は……紛うことなく……


「ノアリー、どうし……ぇ……」


 後から追いかけてきたヤネッサが、子供の姿を視界に収めるなり、足を止めた。その顔は、青ざめている。

 彼女も、子供の正体に気づいたようで……


「お二人とも、どうしました? その、子供は?」


 その中で、アンジェリーナだけが、状況についていけず首を傾げていた。

 いや、状況についていけていないのは、ノアリとヤネッサも同じだ。


「な、んで……なんで、あんたがここに、いるのよ!」


 ここに、いるはずのない人物。以前、ヤークワードと協力し、なんとか倒せた人物。エルフの身であり、その実災厄と呼びたいくらいの化け物。

 倒すといっても、最終的にはリーダが隙をついてセイメイの魔力を封じ、彼に委ねたはずだが……


「逃げ出したの……!?」


 あの状態から、どうやって逃げ出したのかは、わからない。でも、それができる力があるだろうことは、わかっている。

 早くヤークワードを助けに行かなければいかないのに、よりによって。ノアリは、戦闘態勢に入るべく、姿勢を落として……


「まあ、待て。主らと争うつもりはない」


 他ならぬセイメイが、手で制すようにノアリを止めた。

 一瞬、魔術でも撃たれるのではないかと警戒したが……特に、なにもない。

 つまり、言葉通り……


「……争うつもりは、ない?」

「おおとも」


 確かにセイメイから、殺気は感じないし……やろうと思えば、ノアリたちの存在を認識した瞬間に、倒すこともできたはずだ。

 それだけの実力差が、悔しいがある。

 とはいえ、今のセイメイと、以前のセイメイとでは感じる力の量が、違う。少なくなっている。


「……其の体、どうしたの?」

「カッ。主らに斬られた傷が、思いの外深くてな。傷を癒やしたはいいが、魔力を大きく消費してしまってのぉ。
 なので、必要以上に消費するのを防ぐため、器を小さくしたのよ。コンパクト、というやつじゃ」

「器……?」

「この体のことじゃ。あぁ、安心せい。別に誰かの体を乗っ取ったわけではない。体を若返らせた……それだけのこと」


 少年の姿で以前のままの話し方をされると、なんだか変な感じがする。

 それだけのこと、とセイメイは言うが……若返らせたって、むちゃくちゃな。そんな魔法聞いたこともない。いや、魔術か。

 というか……大きく、力を消費した? え、これで……?

 セイメイの力は確かに以前より少なくなっている。それでも、以前に比べて……だ。膨大な力であることに、変わりはない。


「……なんで、ここに。なんの目的で。というか、この結界あなたが張ったの?」

「カカッ、質問の多いことじゃ。少しは自分で考えてみんか」


 考えてみろ、と言われても、捕まったはずのセイメイが若返ってこの場に現れた理由なんて、わかるはずもない。

 とはいえ、このタイミングだ……ヤークワード絡みであることだけは、わかった。


「ヤークになにかするつもり? だったら……」

「早まるな、血の気の多い娘じゃ。争うつもりはないと言うたじゃろ、あの男に手を出せば主らとの争いはさけられん」

「……嘘は、言ってないと思う」


 セイメイの言葉の真偽はわからないが、少なくともヤネッサは、彼が嘘をついていないと告げる。

 その意見には、ノアリも同意だが……


「だったら……」


 なぜここに……そう続くはずの言葉は……


「ノーコメント、というやつじゃ」


 口元に人差し指を立てたセイメイの言葉により、遮られた。それ以上、ノアリはなにも言うことができない。

 争うつもりはないとはいえ、なにが彼の逆鱗に触れるかわからない。情けない話だが、あまり強く出ることは、できない。


「じゃがまあ……結界については、答えてやろう。とはいえ、儂以外にこのような結界を張れる者に心当たりはあるのか?」

「……ないけど」

「儂の目的のためには、有象無象は邪魔でな。手っ取り早く、ご退場願ったというわけじゃ」


 結局のところ、この人払いの結界を張ったのは、セイメイであるらしかった。

 なぜ、ノアリたちが結界の中に残れているのか、だが……おそらくは、セイメイと直接交戦した経験があったから。

 ノアリも、ヤネッサも、アンジェリーナも。あのとき、あの場で、セイメイと対峙していた。だから……


「私たち以外が退場したなら……もしかして、城の中は今、ヤークだけ!?」

「それは考えにくいの。学園内に、儂のものとは別の魔力を感じる……そのエルフが、強力な結界を張っておるようじゃな」


 セイメイと対峙したことのある、ヤークワード。彼のみを残して、結界内から人は消えたのではないかと推測したが、そうではなかったようだ。

 もしもそのような事態になれば、もっと楽に……


「あー!」

「な、なに!?」


 突如、声を上げたノアリの姿に、ヤネッサが肩を跳ねさせる。アンジェリーナも同様だ。

 すぐにノアリは、セイメイに向き合って……


「ね、ねぇ……この結界って、どのくらいの、規模を覆ってるの?」

「んん? どのくらいと言われてものぉ……この学園、正確には儂を中心に円を描く形で広範囲を覆っておる、としか……」

「……て、ことは……」


 ノアリの顔が、青ざめていく。とんでもない事態に、気づいてしまったからだ。

 ただ事ではない、その状況に……


「ミライヤ……」


 ぽつりと呟いた彼女の言葉に、ヤネッサもアンジェリーナも気づく。

 裏門からの侵入を試みているミライヤチーム……メンバーは、ミライヤ、アンジー、ロイ、そしてミーロ。

 その中で、セイメイと対峙したことがあるのは、ミライヤだけのはずだ。他のメンバーは、キャーシュと同じように弾き出されている可能性が高い。

 つまり……ミライヤが、結界内に突然ひとり、残されてしまった、可能性だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

処理中です...