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第7章 人魔戦争
想定を超えて
しおりを挟む「……なるほど」
魔族が、俺を見てなにかを納得したかのように、うなずいている。その意味がわからないが……
「勢いが来ているうちに、このまま攻める……!」
魔族に攻撃が通用した理由はともかくとして、今勢いは来ている。勢いだけで戦いには勝てないが、勢いがなければ戦いは優位には進まない。
構え、地面を蹴り、剣を振るう。素手よりもリーチが長い分、魔族の動きよりも先んじて攻撃を放てる。
「!」
「にゃろっ……」
攻撃の有効打がある……とはいえ、それを効果的なものにするには当たらなければ意味がない。
魔族は先ほどまでの、防御と回避の繰り返しとは違い、今度は回避に専念している。当たらないのは悔しいが、魔族も攻撃を警戒しているってことだ。
「な、めるな!」
踏み込み、助走をつけてから一気に飛び出す。魔族の左肩を狙って振り下ろした一撃は、回避が間に合わずに剣が直撃する。
「よし!」
「甘いですよ」
喜ぶ俺を尻目に、魔族は俺を蹴り飛ばす。いくら素の力であろうと、魔族とはそもそもの体の造りが違う。
もろに、魔族の蹴りを受けてしまい俺は、その場に膝をつく。
「げ、っは……!」
「ふむ……回復魔術が効きませんね」
俺が倒れ込んだのをいいことに、魔族はのんきな態度を崩さない。
そうか、せっかくダメージを与えても回復魔術でダメージを回復されては、意味がないことだと思っていたが……この魔族も、どうしてか回復魔術に通常の効果を得られないらしい。
セイメイのときと、同じだ。
「やれやれ、これは……予想以上だ」
「!」
なにやら、またも意味深なことを告げるセイメイは……その手に、いつの間にか漆黒の剣を持っていた。禍々しい気配を放つその剣は、昨日見たそれと同じものだ。
先生と戦ったときのように、なにもない空間から出したものだろう。俺も、あの剣を引き出したことを喜ぶべきか、脅威度が上がったことを残念がるべきか。
「では、打ち合いといきましょうか!」
「!」
今度は魔族が、剣を構えて迫ってくる。その威圧感に、嫌でも警戒心が引き上げられてしまう。
迫る一閃を、なんとかかわしていく。まともに受け止めれば、残念ながら俺の方が力負けしてしまう。攻撃を受け止めるでない、受け流せ!
金属の弾きあう音が響き、火花が散る。なんとか魔族の剣撃を弾けているが……剣を打ち合うだけでも、重さが伝わってくる……!
「いい動きですね。やはり、才能はあるようだ」
「さっきから、訳のわからんことを……言うな!」
剣の打ち合い、魔族の持つ漆黒の剣を受け止めつつ、渾身の力を込める。クルドや、ノアリに……頼り切っているだけでは、だめだ!
こいつを、倒すことができれば……!
「む……」
徐々に、魔族を押し込んでいく。ずっと渾身の力で挑むことはできないが、一時的に力を込めれば……魔族にも、通用する。
しかし、魔族の方も黙ってはいない。
「く……!」
「悪いですね」
漆黒の剣に、魔力が込められる。そのためか、魔族の力も上昇し……あっという間に、力関係が逆転してしまう。
押し切られないように、踏ん張るが……こいつ……!
「っ、しまっ……」
押し切られないことに気を取られすぎていたためか。いつの間にか片手のみで剣を握っていた魔族……その逆側の手で、俺の手を弾かれ、剣を手放してしまう。
いくら力の差があるとはいえ、片手で……!?
いや、それよりも……
「ふっ!」
「!」
ズバッ……!
魔族の振り上げた、漆黒の剣……それが、無防備となった俺の体へと、振り下ろされる。
魔族のように硬い体を持っているわけでもない……刃は、俺の皮膚に食い込み、一気に振り下ろされた。
「! がぁ……!」
まずい……もろに、食らった……! くそ、気をつけていたのに……!
血が、吹き出す。あぁ、自分からこんなに血が、流れているなんて……これは、ヤバいかも、しれない……
「は、ぁ……!」
足元が、ふらつく。視界が、ぶれる。脳が、揺れているような感覚。自分の中から、大切ななにかが流れ出していく。
それだけじゃない。大切ななにかが流れ出し……逆に、なにかが、自分の中に、入ってくるような……
……入って、くる……?
「さて、ではあなたも捕らえさせてもらいましょう」
パチン、と魔族が指を鳴らすと……俺の影から、なにかが出てくる。それは、俺と同等の力を持った魔族だろう。
まずい、体がうまく、動かない。こんな形で捕まって、そうなれば残されたクルドも、影と魔族とを相手にしては……
そうなったら、学園に残してきたみんなも……
ザワッ……
「……まだ」
「はい?」
「じゃま、だ……!」
ザンッ……!
……いつの間にか手に持ち直していた、俺の剣。それを、振り向きざまに振るう……俺を捕まえようとしていた、影の魔族は胴体が2つに分かれ……その場から、消滅した。
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「おや……どうなさったのですか?」
「……じゃ、マダ……!」
自分の中で、力が湧き上がってくるのを感じる。不思議な感覚だ。
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「やれやれ……あなたには、驚かされてばかりだ」
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