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第7章 人魔戦争

魔族と魔王と……それから

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 話し合いは、続く。


「クルドは、魔族のことをよく知ってるんだよな?」

「あぁ。以前は、魔族も普通に生息していたからな」


 クルドの言う以前、とは、何年でなく何十、もしかしたら何百年前の出来事だろう。

 俺も、ライヤの頃に魔族と直接会ったことはあるが……魔族と戦い、倒していたのはガラドやヴァルゴスが担当していた。エーネは2人のサポートとして。

 俺は、直接魔族と対峙したことは、ないのだ。


「奴らは、人間族よりも遥かに高い身体能力を持っている。それに、奴らはエルフ族ほどでないにしろ魔術の使いに長けている」

「体内に魔力を持っているのが、エルフ族と魔族だけだっけか」


 魔法……それを使えるのは、エルフ族と魔族だけだ。セイメイ曰く、魔法は体内の魔力を、魔術は大気中の魔力を使っているとのことだが。

 にんげんたちも、本来なら魔術を使えるはずだ。だが、その術は長い歴史の中で、忘れ去られた。


「クルド、俺たちでも魔術が使える方法知らないかな」

「さあ……我々は、魔の力を完治は出来るが、扱いに長けているわけではないのでは」


 ふむ、教えてもらうのは無理か……どうやら竜族は魔術の使い方を分からないらしい。まあ、人間に近い姿をしてあの戦闘能力だ……そこに魔術なんて加わったらとんでもないよな。


「それに、知っていてもおそらく時間がないだろう」


 クルドが魔術の使い方を知っていたとして、それを教える時間はおそらくない。

 魔術に限らず、なにをするにも……次にいつ魔族が攻めてくるかわからないことには、なににしても時間がない。


「俺たちも魔術を使えればどうにかなると思ったんだが……そううまくはいかないか」


 くそ、こんなことになるならあの時、『魔導書』を斬って捨てるんじゃなかったな。

 あれのためにミライヤの両親が殺されたことを思えば、あの行為自体に後悔はない。だがセイメイ曰く、『魔導書』には人間も魔術を使える術が書いてあったとのこと。


「……そういやあいつも、この結界の影響受けてるのかな」


 頭の中に浮かんだ人物のことを思い、ひとり呟く。俺たちでなんとか倒して……はないが、封印とやらでどっかの地下に閉じ込められたとのこと。当事者だけど居場所を知っているのは一部だけだ。

 魔族が張った結界は、魔族が去っても健在だ。そのおかげでエルフ族は魔法も魔術も使えない。使えれば、折れたこの手も治してもらえるんだが。

 加えてこの結界は、エルフ族が弱る仕様だ。ならば、あのおっさんも弱っているのか。


「……想像できないな」


 まあ、こんなときではあるがまだ捕まったままなのだろう。そんな相手のことを考えても、仕方がない。


「あの、クルドさん……魔族の、弱点とかって、ないんですか?」

「弱点、か」


 ミライヤが、聞く。それを受け、クルドは腕を組んで考え込んで……


「強いて言うなら、魔族は魔王と呼ばれる存在を倒せばすべて消滅する。弱点と言えば、魔王がそうか」

「でも……魔王って言うからには、魔族の頂点的な?」

「無論」


 奴らの弱点が、奴らの一番強い存在だとは、笑えない。

 弱点はないって考えた方がいい。だが、それとは別に気になることも。


「魔王が消えたら魔族も消える……じゃあ、その逆も然り、ってこと?」

「あぁ。だが、魔王が復活したならば、わからないはずがない」


 魔王が消えれば魔族も消えるし、逆に魔王が復活すれば魔族も復活する。それは、俺の中に色濃く残っている。

 なぜなら……


『ははは、21年の月日が経った後、我は再び甦る……その時が、楽しみだよ』


 それが、魔王が残した最後の言葉だからだ。あの時は、ただの負け惜しみだとも思っていたが。

 魔王が蘇るイコール魔族も蘇るのなら、その言葉は現実を帯びていることになる。

 だが……問題なのは、あの時から『20年』しか経っていないということ。正確には、20年と半年か。


「……半年早い、か」

「ヤーク様?」

「え、あぁ……なんでもない」


 21年の月日まで、残り半年。そう考えると、この程度の時差は誤差と考えるべきか?

 ……いやいや待てよ。そう言えばあの魔族、初めて会った時になんて言っていた?


『……おや、まだ、でしたか』

『ふむ……なるほど。どうやら時期を間違えてしまったようですね』


「……!」


 そうだ、あの魔族は……確かに、そう言っていた! まだだの、時期を間違えただの!

 もしも、半年早すぎた……という意味ならば。筋は、通る。


「あの、さ。クルド」

「ん?」


 だが、その場合わからないことが……いや、そもそもの問題として、分からないことがある。


「魔王が復活すれば魔族は復活する……その逆って、あると思う?」
単語ルビ
「……逆?」

「あぁ。魔王が先じゃなく、魔族が先」

「つまり……魔族が復活したから、魔王も復活する、ということですか?」

「そういうこと」


 まおうが先か子供まぞくが先か……ということだ。どちっらが先に生まれたか、それは俺たちの考えだけで、実際には違う見解もあるんじゃないか?

 魔王は復活していないのに魔族が活動している。これがそもそもの前提を、ひっくり返すんじゃないだろうか。


「なるほど……魔王は復活していない、しかし現実として魔族は復活している。聞いただけの話と、直接見た光景……どちらを信じるか、だな」


 クルドは明言はしない。だが、俺の言った可能性もあると、考えている。

 実際に魔族が活動している。これは真実だ。なにを考えたところで、変わらない。


「じゃあ、これから魔王が復活する可能性が……」

「ある……いや、高いだろうな」


 ただの魔族だけでここまでひっ迫しているのに。そこにまおうまで加わるのか……まったく、いやになるな。


「しかしヤーク、魔王と魔族、よく逆の可能性に気がついたな」

「へ? いやあ……たまたまだよ」


 俺が気づけたのは、あの魔族の言葉……なにより、魔王の最期の言葉を聞いていたからだ。

 『21年』という時間があったからこそ、そこから考えることが出来た。魔族の言葉は2人にも話したが、魔王の言葉がなければこの2点は繋がらない。

 そしてそれが繋がったのは俺が、転生者だからだ。殺される前の記憶を、持っているからだ。


「……」


 俺が転生者であること。クルドとミライヤになら、話してもいいんじゃないだろうか。生前、俺は勇者パーティーに入っていた平民で、魔王と会ったことがあって……殺されて……

 ……いやいや。ただでさえ今後の方針を決めかねているんだ。そこに、個人的な話を持ってきてどうする。


「ま、いろいろと考えるのはあとにしよう!」

「そうだな。今は、次の襲撃に備えることだ」


 俺の事情は、俺の信頼できる人になら……隠す必要は、ない。でもそれを話すのは、今じゃない。

 この戦いが終わったら、話してみてもいいかもしれないな。もちろん、俺の目的ふくしゅうのことは伏せてな。


 ……この時の俺は、魔王と魔族の言葉の繋がりに気を取られて、肝心なことを考えていなかった。

 あの時の魔族が、なぜ俺の前に現れたのか。なぜ俺の前に、膝をついたのか。
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