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第7章 人魔戦争
魔術というよりもそれは
しおりを挟む「クルド、お疲れ」
「ん」
戻ってきたクルドを、俺はねぎらう。自ら種族を明かしてまで、人々の不安を消し去ってくれた。
まあ、あれで不安がきれいさっぱり消えた者は多分いないだろうが……それでも、先ほどよっぽどマシになったはずだ。
今は、ガラドが人々を纏めている。あちらは、任せておくとしよう。
「いやはや、たくさんの人間の前に姿を晒すなど、初めてのことで緊張してしまったよ」
「……あれで緊張していたのか」
むしろ、緊張していたからこそ、あんな大声をあげて自分も鼓舞していたのだろうか?
竜族と人間族、まさかこんな形でかかわることになるとは、誰も思わなかっただろうしな。
「あ、あの!」
「む?」
「ひっ……み、ミライヤと、も、申します! や、ヤーク様と、その、よ、よき友人関係を、き、築かせていただいて……」
俺の後ろから出てきたミライヤが、誰にもわかるくらいにガチガチでクルドに挨拶している。
怖くない……とは言っても、やはり初めて見る種族に、動揺は隠せないか。しかも、外見だけ見ると恐ろしい生物だし。
それでも、悲鳴も上げずに挨拶しているあたり、ミライヤ本人も成長したと言うか。ただ、文章が変なことになっているが。
「あぁ、これはご丁寧に。我はクルド。同じくヤークの友だ。お互い、仲良く出来ると嬉しい」
「は、はい!」
柔らかい物腰で応え、手を差し出すくクルドはやはり紳士だ。
ミライヤは嬉しそうに笑顔を浮かべると、その手を取った。手の大きさは違うが、2人は握手を交わす。
「……」
「……あの?」
「いや、なんでもない」
なにやらじっとミライヤを見つめていたクルドだったが、なんでもないと目をそらした。どうかしたのだろうか。
簡単に2人の自己紹介も終わったところで、今後の動きを考えることにする。
「次はいつ、魔族が攻めてくるか、だな」
「そもそも、魔族はなんで一旦帰ったんでしょう。助かり……は、しましたが……?」
魔族が去った理由が、わからない。それでも素直に助かったとは言えないのは、現状の被害を思えばこそだ。
わかる範囲で、人死には出ていない。だがそれ以外の被害は大きい。
その中でも、とりわけ大きな被害が……
「気を失った人たち、起きないよな」
たくさんの、気を失った人たちだ。母上やキャーシュを含め、国中の人間のほとんどは眠っている状態だと言っていい。
気を失った人間と、そうでない人間……そこに、なにか違いはあるのか。なんらかの耐性でも、あるのか。
それに、気を失った人たちは、いくら呼びかけても起きないのだ。
「試しに、俺が殴り起こしてみようか」
「それだと確実に死んじゃうので、荒っぽいのはなしで」
いくら呼びかけても、体を揺らしても、軽く叩いても起きないのだ。
ひとりや2人ならともかく、こうも起きない人ばかりとなると……
「普通に呼び起こすのは、無理と考えてよさそうだな」
「魔族の使う、魔術の類いか、はたまた別の方法か……原因も、わからぬとはな」
「魔族が去った理由、みんなが寝ちゃった原因、それにエルフ族が見当たらない理由ですか……」
「加えて、次いつ魔族が攻めてくるか……あー、考えてもわからん!」
考えること自体はそう多くなくても、考える規模が大きすぎる。俺たちが少し考えたところで、わかるはずもない。
「クルドは、心当たりないか? 人々を無作為に眠らせる魔術とか」
「……そういう魔術はなくはない。が、そういった魔術は、十中八九術者を倒さねば、魔術は解けん。だが……」
ふむ、だよなぁ……そういう魔術の存在は考えられる。俺が知らないだけで、魔術にはいろいろあるだろうし。
しかし、術者を倒さないと解けない、か……なんか、同じようなものに覚えがあるな。
なんだったっけ、あれだ、あの……
「魔術というよりは、これは呪術に近いな……」
「これって魔術ってより、呪術に近いんじゃ?」
俺とクルドの声が、重なる。まさか、同じことを考えていたとは。
そうだ、術者を倒さないと解けない……それは、『呪病』事件を思わせるもの。つまりは呪いだ。結果的に、『呪病』自体はただひとりを除いて、術者が死んだことで呪いは解けた。
そのただひとりは、竜王の血を飲むことで呪いは解けた。これも同じ呪いだと言うのならば、気を失った人たちに竜王の血を飲ませれば目を覚ます可能性はある。
だが……
「現実的じゃない、な」
「どうしたヤーク、なにかいい手でも?」
「いや、馬鹿馬鹿しい手さ。気にしないでくれ」
自分で考え、その考えを自分で否定する。ここにいる人たち全てに竜王の血を? 馬鹿馬鹿しい。
あの頃だって、ひとり分の血を貰うので精いっぱいだったんだ。この数は無理に決まっている。
仮にそれが可能だとして……この数全部に竜王の血を飲ませれば、そのうち何人かは必ず、先ほどのノアリのような症状(?)が出てしまうだろう。
「なんにせよ、術者を倒さないと問題は解決しないか」
「そういうことに、なりますね」
参ったな……この状況では、呪いをかけたのは確実に魔族だろう。そしてそれは、あのリーダーっぽい魔族の可能性が高い。
いくらクルドがいてくれるとはいえ、魔族は相手の影を自分の戦力にする術を使う。クルドは、クルド自身の影に抑えられるだろう。
あんな不気味な連中、もう戦いたく……いや会いたくないのだが。それだと、気を失った人たちは元に戻らない。
「魔族には会いたくない。けど、呪いを解くには魔族と会うしか、ないのか……」
なんとも、複雑な気持ちだ。まあ、その中にキャーシュもいるし助けるためならなんでもするわけだが。
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