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第7章 人魔戦争

非難と畏れと

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 室内に響き渡る、人々の悲鳴……それは、クルドが翼と尻尾を現したことによるものだ。

 その姿を見て、人々は……


「な、なんだあの姿……獣人か!?」

「いや、獣人でもあんな翼や尻尾なんて、生えてないぞ!」

「本人は、竜族って……」

「そんなのただの迷信だろ!?」

「あいつこそ魔族じゃないのか!?」


 口々に、クルドのことを好き勝手に言っている。そう、竜族なんて太鼓に滅んだとされる種族……その反応は、別に不思議ではないのだ。

 とはいえ、その反応に俺はムッとする。クルドを、魔族扱いとは……


「あの、クルドは……」

「ヤーク、ここは任せてくれ」


 俺が一歩前に出るが、クルドはそれを止める。……正体を明かす必要はないのに、わざわざ正体を明かしたということは、なにか考えがあるんだろうか?

 俺はおとなしく、下がる。


「ヤーク様……あ、あの方は?」

「ん? あぁ……」


 後ろから不安げに声をかけてくるミライヤ……不安そうにしているのに、他の人と違って声を上げないとは、強いな。

 それとも、俺の知り合いだと悟ったから、怖いのを抑え込んでいるのだろうか。


「クルドは……俺の、友達だよ」


 これは、自信をもって言える。俺の、友達……竜族だろうとなんだろうと、関係ない。


「お友達……」

「ミライヤも、きっと好きになってくれるよ」


 見た目は怖いが、俺たちのためにいろいろな協力をしてくれた心優しい竜なのだ。

 だから、こんなに怖がられるいわれはないというのに……


「が、ガラドさん! あんた、こんな危険な奴をなんとかしてくれよ!」


 しまいには、ガラドにクルドをどうにかしてくれと、懇願する者すらいる。なんて奴らだ。

 正直な話、ガラドとクルドがガチでやり合った場合……クルドが圧勝するのではと、俺は思っている。

 もちろん種族の問題もあるが、何十年しか生きていないガラドと何百年も生きているクルドとでは、そもそもの経験値も違う。それに、クルドが真の姿、竜になれば……それこそ、とんでもない圧迫感だ。

 あと、暴走したノアリを気絶させた場面を思い出すと……とても、勝てるとは思えない。


「……彼は、息子たちの恩人です。それはできません」


 まあ、そんな物騒なことにはならない。この場で、ガラドはクルドを信じているし、クルドだって物騒なことをするつもりは、ない。


「恩人!? なにを訳の分からないことを……」

「今考えるべきこと、やるべきことは、魔族の次なる襲撃に備えること。……違いますか」


 その一言に、場は静まる。ガラドはクルドの隣に立ち、人々を落ち着かせるために、冷静に対処している。

 実力だけでなく、この辺りも勇者と呼ばれるゆえんってわけか……


「……し、しかし、あんな連中、どうしようも……」

「それを今から考えるんです。少なくとも、味方である彼を恐れるより、よほど有意義な時間になるはずですが?」


 さっきまでぎゃあぎゃあと騒いでいた連中は、もう静かになっている。なんだかんだ、自分の身の安全に関わることだから、結局はガラドの言葉に逆らえないのだろう。

 それに、クルドの強大な存在を見たからこそ、彼が味方だと心強いと、みな感じたのだろう。


「な、なんとか落ち着いたみたいですね」

「みたいだな」


 一時はどうなることかと思ったが、これならば心配はいらないだろう。あとは、ガラドに任せておこう。

 俺たちは俺たちで、できることをしよう。


「なあミライヤ。他に、誰か見てないか? ヤネッサや、リィ、アンジェさんたち……」

「あ、リィは向こうで気を失っています。アンジェ様に、リエナ様も。他にも、同じ組の人たち……ですが……ヤネッサ、様は……」

「……いない、か」


 やはりヤネッサは、見当たらないらしい。彼女はどこにいるのか。

 生徒だけでなく教師、この国の人々のほとんどがここに集められている。……いや、そういえば……


「エルフ族が、ほとんどいない?」


 軽く周囲を見回すが……そこに、エルフ族がいないことに気づく。正確には、あまりいない。

 特徴的な髪色、耳……そして、この結界の中では弱っているはずのエルフ族。それが、あまり見当たらない。

 ヤネッサだけではない。他に、頼りになるエルフ族として探したい人物に、クロード先生、がいた。

 彼もエルフ族で、教師だ。この学園でもトップクラスに魔力が高い……ゆえに、今は動けなくなっている可能性もあるが。

 そのはずだが、クロード先生どころかエルフ族自体、あまりいない。まったくでは、ないのだが……数が、少ない。


「……妙だな」


 昔は、人間族とエルフ族が同じ国に住むなんて考えられなかった。だが、勇者パーティーが魔王を倒し、その中にエルフのエーネがいたことで、人々のエルフ族に対する印象は変わった。

 アンジーがウチで働いているように。今やエルフ族は、結構な数がこの国に住んでいるのだ。


「別の場所にでも、捕まっているのか?」


 ヤネッサがいないことも気がかりだし……妙に引っかかる。事前に異変を察知して、身を隠しているのか……それにしては多いような。

 この妙な違和感……しかし、考えても仕方のないことだ。いないならいないで、また別のことに意識を向けよう。
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