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第7章 人魔戦争
現状把握の一手
しおりを挟む俺たちは魔族にいいように遊ばれ、そのうちに城は落とされた。
気を回せば、周囲ではすでに人々の悲鳴すらも聞こえない。それは、誰もが魔族に拘束されたっていうことなのか。
「さて。あなた方も、共に来てもらいましょう」
「……共に、だと?」
「えぇ。あなた方も、他の皆さんが心配でしょうから」
……つまり、俺たちも捕らえて、捕らえられた他のみんなと一緒に固めておこう、ってことか。
みんなの安否を確認するには、その方がいいのかもしれない。だが……
「断る。制圧だなんだと言っても、要はお前を倒せばいいんだろ」
「……やれやれ。あまり手荒な真似はしたくないのですがね」
俺は、剣を構え直す……が、魔族は構える様子すらなく、肩をすくめる。
そして……指を、鳴らした。
「なにを……わっ?」
魔族の行動の意味が、わからない……そこへ、突然後ろから、誰かに押し倒される。なんだ、なにも気配を感じなかったぞ?
正体を確かめるために、なんとか首を動かし、後ろを見る。そこにいたのは……
「ま、ぞく……?」
魔族だ……人々を襲っていた、魔族。それが、俺をうつぶせに押し倒し、腕を押さえ動けないようにしている。
こいつ、どこから……? 気配も、足音もしなかったぞ。
「先生……アンジー……!」
先生とアンジーも、同じように魔族に押し倒されている……が、俺は見た。
魔族が、先生の、アンジーの、影から出てきたのを。
「まさか……影に、潜んで……?」
そう考えれば、国中に魔族が現れた理由も、説明がつく。どういう手段かは知らないが、魔族は俺たちの影に、潜んでいた。
くそっ、油断していたわけじゃないのに……! 多分、あの魔族よりは弱いだろうに……強い力で、振りほどけない!
「では、行きましょうか。大丈夫、殺しはしません。我々は平和的話し合いを持って、あなた方にもわかってもらいたいだけです」
……平和的とか、どの口が言うんだ。
アンジーも、先生も、もう動けない。なら、俺がなんとかしないといけないのに……魔族一体にすら、なにも出来ないのかよ。
無理やり立たされ、歩かされる。このまま抵抗も出来ずに、こいつらに従わないといけないのか……
……シュッ!
「がっ……」
……音も聞こえないほどに、鮮やかな一閃。それが、俺を捕らえていた魔族を襲う。視界に映ったのは、ただ銀色に光る剣だけだ。
突然の出来事に、俺は解放されるもそのまま倒れそうになり……誰かに、支えられた。
「! これはこれは……思わぬ人物が現れましたね」
「……」
「どうも、お初にお目にかかります。『勇者』ガラド・フォン・ライオス殿」
俺を支えているのは……俺を助けたのは、ガラドだった。
「ガ……父上?」
「よぉヤーク。少し遅くなってしまった」
かつて魔王を討ち、『勇者』と呼ばれた男……なぜ、こんなところに?
そりゃ、国中で異変が起こっているのはわかるだろうが……どうして、ここに。
「立てるか、ヤーク」
「え、えぇ。父上……あの……」
「まあ、聞きたいことはあるだろうが。それは後だ」
ガラドは、魔族から目を離さない。そうだ、今は魔族の対処が先だ。
情けない話だが、ガラドの力があれはこの場を切り抜けられる。ガラドの力は、俺が一番よくわかっている。
「隙を作る。そのうちに逃げるぞ」
「はい。……はい?」
思わず、聞き返してしまう……今、この男なんて言った?
逃げると、そう言ったのか? この状況で?
「なんで……! 父上なら、この場を切り抜けることだって……」
「買いかぶり過ぎだ。あの魔族相当出来る……それに、情けない話だが……」
言って、ガラドは右腕を見せる。そこからは、おびただしいほどの血が流れている。
転んで怪我をした……なんて、かわいいものではない。
「それ……まさか、魔族に?」
「あぁ、ここに来るまでに随分と手こずってな。このざまだ」
万全ではない……それが、逃げる理由なのか。いや、それだけではないのか?
というか……魔法が使えない結界の中でも、母上なら、『癒やしの巫女』と呼ばれるミーロなら、これくらいの傷治せるはずだ。
……ミーロは、どうした?
「詳しい状況も、まだ呑み込めていない。それを理解するためにも、ここは一旦引く」
「けど……なら、アンジーと先生も……」
「……殺すつもりなら、すでにそうしてるはずだ」
つまり、今は放っておいても、すぐに殺されるわけではないと……言わんとすることは、わかるが。
だが、すべてを納得して逃げに徹したところで……逃げられるのか? こいつらから。
気づけば、すっかり魔族に囲まれている。国中の、人々の影から出てきた魔族が集まっているのか。本当に、みんな捕まったのか。
「今は悔しいが、逃げるしかない。お前も、その手、万全じゃないだろ」
「っ……」
「この場の魔族を倒せたとして、それですべてが解決するとは、俺は思えん。逃げとは言っても、現状把握のための撤退だ。……逃げるくらいなら、なんとかやれる」
現状把握のための、撤退か……悔しいが、それが一番の手か。
この場は、嫌だが……本当に、嫌だが。ガラドと、協力して、逃げるしかない。
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