169 / 307
第7章 人魔戦争
圧倒的な魔族の力
しおりを挟む……魔族の顔面を狙った、鋭い蹴り。それは魔族の腕に防がれてしまったが、強烈な一撃であったことは見てわかる。
なぜなら、防いだはずの魔族の腕が少し、震えている。もし顔面に直撃していたならば、相当なダメージを与えていただろう。
長いスカートから伸びた白い脚……それを放ったのは、他でもないアンジーであった。
「アンジー……」
「ヤーク、様に……申し訳、ありません。助太刀が、遅れて……!」
アンジーは苦しそうな表情を浮かべたまま、俺に謝ってくる。俺の手首の骨が砕かれたこと、気にしているのだろうか。
だが、アンジーが謝る必要なんてどこにもない。むしろ、結界の影響で苦しんでるはずなのに、俺のためにここまで……
「ほぉ、これは驚きました。その状態で、まだこうも動けるとは。それに、この威力……素晴らしい。この結界の中では動くどころか、立っているのもやっとのはずですが?」
「こんな、もの……全然、大したこと、ないですよ」
「そうですか。実に素晴らしい、あなたの身体能力。エルフ族は魔力にかまけて近接戦などからっきしだと思っていました。この、しなやかに伸びた脚から放たれる蹴り……実に、いいですね」
魔族は、今なにを思って話しているのか……表情が、読めない。
「えぇ、えぇ……これは修正が必要ですね。エルフ族の認識に対する修正が。…………しかし」
「っ、あ……!」
アンジーの蹴りを受け止めた状態で、魔族はアンジーの足首を素早く掴む。
そのまま、アンジーの足首を引っ張るように……体ごと、上空へと打ち上げる。そして……
ドッ……!
「か、は……!」
……アンジーは、背中から地面へと叩きつけられた。
「悲しいかな、エルフ族と人間族の体の構造は、体内に保有する魔力を除けばほとんど同じ。それはつまり……あなた方エルフ族も、いくら鍛えても我々魔族には、敵わない」
「ぐっ……あ、あぁ……!」
まはアンジーを見下し、あろうことかアンジーの腹部を思い切り踏みつける。
その光景に、自分の中で血が頭に上っていくのを、感じた。
「てめぇ、アンジーから離れろ!」
「片手は使えないはずですが……今のあなたには、関係ないようだ。」
片手の骨は砕けているが、そんなこともはや頭になかった。あるのはただ、目の前の魔族に対する怒りのみ、
俺は素早く剣を抜き、魔族に振るう。
「らぁっ!」
「ふむ……」
ガギンッ……
渾身の力を込めて、一太刀を放つ……しかし、それはいとも簡単に、魔族の腕に受け止められてしまった。
いくら力を入れても、これ以上押し進めない……どうなってんだ、こいつの皮膚は……
「くそっ……」
「先ほどはまだ、冷静さも見えましたが……怒りに呑まれてしまっては、動きを読むのも容易い」
「! ぐはっ……」
不意に、体がよろめく。力を込めて腕をぶった斬るつもりだったが、力の流れが変わる。
魔族は、剣を受け止めることから受け流すことに動きを変える。込めていた力の行き先が変わり、バランスを崩してしまったところで……腹部に、魔族の鋭い蹴りが打ち込まれた。
「ヤーク様……! っ、く、ぁあ……!」
「お二人とも、おとなしくしてもらいますよ。無駄な殺生は好みません……っ?」
「ぅ、らぁ!」
俺は、打ち込まれた足先を掴み……魔族を巻き込んで、地面に転がる。その衝撃で、アンジーの上から魔族が退く。
「っ、が……けほ、けほっ……」
「アンジー、無事か!」
俺はそのまま、アンジーの下へと駆け寄る。苦しんではいるが……どうやら、深い傷はないようだ。
あのまま押しつぶされていたら……考えたくもないが、無事でよかった。
「やれやれ……あのまま、私を拘束しておけばよかったものを」
「……俺の力じゃ、あのままお前の動きを止めとくのは無理だ」
「あぁ、よくお分かりで」
立ち上がる魔族は、おもむろに周囲を見回す。その動きにつられ、俺も同じように周囲を見回す。
……出現した無数の魔族に、人々が襲われている。ほとんどは、魔族に拘束されている……それを、人々はなんとか抵抗を試みている状態だ。
「私ひとりに手こずっているようでは、この国の人間を救うことなど、できませんよ? その役立たず……もといエルフは捨てたらどうです」
「……知らねえ誰かより、俺はアンジーの方が大事だ」
ここでアンジーを見捨てて、人々を助けに行く選択肢は、俺にはない。そのせいで大勢死ぬとしても、だ。
アンジーは、打ち所が悪かったのだろう。すぐに起き上がれずにいる。おまけに、腹を潰されかけたんだ……
「はぁ……ヤーク様……そのような、ことを言っては……いけませんよ」
「! アンジー?」
俺の言葉をとがめるような、声。振り返れば、苦し気な表情を浮かべたまま、アンジーが立ち上がっていた。
「アンジー、休んでなって。ここは俺が……」
「なにを、言いますか……ヤーク様は、片手が、存分に使えないじゃ、ありませんか」
アンジーの言うとおり……今の俺は、片手は使えない。使わなくても剣に添えることは出来るかと思ったが、それも難しそうなのでただぶら下げている。
とはいえ、傷の話をするなら……そもそもアンジーは、結界の影響で満足に動けない。
「私のことなら、大丈夫……他の場所も、きっと。旦那様も、います……ですから、今は目の前の、敵のことだけ……」
「……わかった」
こうなれば、早く片をつけて、アンジーを休ませる。それくらいしか、アンジーを納得させられそうにない。
もしも結界さえなければ、この傷をアンジーに治してもらえるのだが……ないものねだりをしても、仕方ない。
「やれやれ、力の差は見せたつもりですが……いいでしょう、存分にお相手差し上げますよ。元より、国の制圧は私がいなくても容易いこと。制圧が終わるまでの間、暇つぶしとさせていただきましょう」
……これが、魔族の力か。それに、威圧感……転生前、魔族と対峙したことはある。だがそのときは、頼もしい仲間がいた。
この体で、魔族と対峙するのは初めて。アンジーは頼もしい、だが俺含め、万全ではない。
だが、そんなもの弱音にすらならない。魔族なんかに、好きにさせてたまるか!
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる