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第6章 王位継承の行方
決着の後
しおりを挟む「……ク……ヤー…………ヤーク!」
「んぁ……?」
眠っていた意識の中、誰かが俺を呼ぶ声がして、意識が覚醒する。ゆっくりと目を開いていくと、目の前には俺の顔を心配そうに覗き込む、2人の少女の顔があった。
2人とも、泣きそうなくらいに顔を歪めていた。
「ノアリ……ミライヤ……」
「! よかった、目が覚めたんですね……!」
「心配させないでよ、このバカ!」
「あたっ」
起きていきなり、ノアリに額を叩かれてしまう。とはいえ、その力は弱々しく、別に怒っているわけではない、というのはわかった。
ミライヤも、ほっとため息を漏らしているようだ。
俺は……そうだ、セイメイ。あいつを倒すつもりが、結局のところでこっちの方が先に力尽きてしまって……やられそうに、なったところに……
「……リーダ、様は?」
「ええと……わからないわ、起きたらいなくなってて」
……リーダ様の手によって、セイメイは捕らえられた。協力者の依頼で、捕らえたと言っていたが……その、リーダ様がどこにもいないという。
それに、セイメイも。あの拘束から、自力で抜け出したとは考えにくい。となると、リーダ様がどこかに連れて行ったと考えるべきか。
「ヤーク、目が覚めたか」
「! シュベルト……」
少し離れたところに、シュベルトがいた。もう体は動くようになったのか、アンジェさんとリエナの側にいた。2人は、まだ気を失ったままだ。
……とりあえず、みんな生きてる。それがわかって、ほっとした。
「俺、どれくらい寝てた?」
「そんなに長くは寝てないよ。せいぜい十分くらい」
シュベルトが言うには、俺はあれから十分は寝ていたらしい。思った以上に、意識を失っていた時間は短かったようだ。
だが、そのくらいの時間では体も休まってないようだ。まだ全然、体が動かせない。
「リーダは、どこへ言ってしまったのか。あのエルフを連れて、私の質問にも答えず」
シュベルトは、どこかへ行くリーダ様をただ見ているしかできなかったのだろう。その行き先は、誰にもわからない。
結局、セイメイを捕まえるために俺たちは利用されて、ここに放置されたってわけか。俺たちとセイメイをぶつけて、セイメイが弱ったところを捕らえる……と。
リーダ様は、セイメイこそが『魔導書』事件に関わり、ビライス・ノラムに魔石を渡し事件のきっかけを作った人物だ、と予想していた。
もしも、それを知った俺が激昂し、セイメイを襲うだろうことまで計算に入れていたとしたら……
「食えない、人だな」
年下ながら、その狡猾さが恐ろしい。まんまと、リーダ様に使われたってことだ。
……まあ、いろいろ考えるのは、後だ。今は、疲れ切ってしまったこの体を、癒やしたい……
「ヤーク様ー!」
「ヤークー!」
……そこへ、俺の名を呼ぶ声があった。体は動かない、ので、首だけ動かして声がした方向を見た。
……2人の女性が、こちらに走ってきていた。
「あ、アンジー? それにヤネッサ」
よーく知っているエルフの2人の姿があった。なぜ、2人がここにいるのか?
ノアリと、ミライヤを見る。2人は首を振る。どうやら、2人がこの場所を知らせたわけではないようだ。
そうしているうちに、2人は側へ。
「あぁ、ヤーク様! なんとおいたわしい……」
「え、え。2人とも、どうしてここに……」
「リーダ、って子から、教えてもらったの」
詳しい事情を聞くと、アンジーとヤネッサをここに呼んでくれたのは、リーダ様らしい。俺の後輩だと名乗り、俺たちが動けないから助けに行ってほしいと。結界は、解除されていたため、2人は入ることができた。
リーダ様は、放置していったわけじゃなかった。ちゃんと、助けを……傷を治してくれる頼りになる人たちを、呼んでくれてたんだ。
「待っててください、今治します……私は、向こうを診てくるわ」
「了解!」
ヤネッサが俺、ノアリ、ミライヤを。アンジーがシュベルト、アンジェさん、リエナをそれぞれ治しに行く。俺は傷が深いというより、なんだか疲労感がすごい……
ノアリは服が溶けている箇所もあるが、そこから見える肌には目立った傷は見受けられない。ミライヤは、頭から血を流しているが平気だと笑みを浮かべている。
とはいえ、場所が場所だ。ミライヤから、真っ先に治療してもらう。
「……あんまりジロジロ見ないで」
「悪い悪い」
どうしてかノアリとミライヤは、すぐに動けた。それを考えれば、シュベルトたちの方が重傷だ。だから、アンジーがあっちに向かった。
元々ヤネッサは回復の魔法が下手なわけではない。だが、片腕を失くし、その魔力は大きく減ってしまったのだという。
なので、わりと軽い怪我な俺たちにヤネッサをあてがい、アンジーはシュベルトたちの方へ。的確な、判断だ。
「あ、はいノアリー」
「あ、ありがとう。……でも、もうちょっと早く欲しかったわ」
ミライヤの治療を終え、ヤネッサはノアリに上着を渡す。用意がいいな、リーダ様に状況を聞いていたのだろうか。
次に、ヤネッサは俺の治療にかかる。そして、ノアリだ。3人分の治療を終え、ヤネッサはふぅと息を漏らす。
「ありがとう、ヤネッサ。助かったよ」
「ふふん、いいってことよ!」
向こうでは、アンジーによる治療も終わったようだ。とりあえず、これで一安心、か。
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