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第6章 王位継承の行方
派閥とカリスマ性
しおりを挟むゲルド王国第二王子、リーダ・フラ・ゲルド……彼は、兄シュベルトに勝るとも劣らない美貌の持ち主で、またたく間に異性の注目を集めていった。どこか物腰やわらかく、紳士的な振る舞いもウケる理由のひとつらしい。
もちろん、男どもはそれを良しとしない。特に、彼と同じ学年となった者はだ。とはいえ、相手は王族……わかりやすく、手を出す者はいなかった。
第二王子という肩書……いや、第一王子という肩書以外は、実のところあまり国民の心には響かない。王位継承権が、例外を除けば第一王子にのみ存在していると知っているからだ。次期国王と知ってゴマを擦る者はいても、次期国王でなければ特に気にする者はいない。
といっても、王族は王族。そこらの貴族なんかよりよっぽど位の高い存在であるわけで。また、第一王子と同じように、第二以下の王子にも侍女のような使用人がついている。扱いは、変わらないのだ。第一王子じゃないからといって、蔑ろにしていいわけではない。
まあ、そこまで難しく考えている者はいない。第一だろうが第二だろうが、王族だから軽々しく手は出さない……それが、ほとんどの人間が考えるところだ。
……だが、世の中にはその"ほとんど"に含まれない人間もいるわけで。
『ちっ、調子に乗りやがってチビが!』
俺は、その場に居合わせたわけではない。だが、結構有名な話。
とある学生が、第二王子に絡んだ。きっと第二王子が注目されていて気に入らないとか、そんな感じだろう。5人の取り巻きを引き連れて、リーダー格のリーゼント男は、第二王子がひとりのところを狙ったらしい。
第二王子には、常にとは言わないものの女生徒が数人はついている。別に彼の使用人ではない、要はファンのようなものだ。そして、彼の側付きは常に彼の側にはいない。
まあ、遠くから見守っているだけかもしれないし、シュベルトとリエナのように、学園だからそう気を張っているわけではないのかもしれない。とにかく、その時第二王子はひとりだった。
囲まれた、第二王子。背は平均よりも低く、喧嘩なんてしたことがなさそうなほどに華奢な体。暴力なんて知らないであろう爽やかな美貌。助けを呼ぼうにも、近くには誰もいない。誰もいないのに、なぜこの話が広まったかはまた説明するが……
なんにせよ、たったひとりの第二王子はピンチだ。そのまま囲まれボコボコにされてしまう……それが、訪れるはずだった未来だった。
……が。
『リーダ様、こちらお持ちしますよ!』
それから間もなくして。その男は、リーダの隣に立っていた。それも、初対面の時の刺々しい表情はどこにいったのだ、と思うほどの、すっきりとした顔で。彼の5人の取り巻きも、同様に。
さて、この話が広まったのは、単純な話。目撃者がいたからだ。その目撃者曰く、6人もの男に囲まれた第二王子は、次々襲われるもあっさりと6人を返り討ちにしてしまったらしい。
そして、その目撃者は怖がりながらもそっと、声が聞こえる距離まで近づいた。
『ぐ、くそっ』
『キミ、面白いね。僕の友達にならない?』
王族に喧嘩をふっかけた……いや、チビなどと暴言を吐いた時点で、一族打ち首でもおかしくない。だが、第二王子はそれを許すどころか、友達になろうと手を差し伸べたのだ。
以降、男たちは6人とも、第二王子の仲間となった。それは友達というより、舎弟に近いものがあったが、そこは本人たちの関係性に口を挟むべきではない。
さて、この話。本当ならばいろいろすごいことである。王族に喧嘩をふっかけた男たち、6人を素手で返り討ちにした第二王子、その後彼らと良好な関係を築く……それは、すごいことだ。
一方、多くの疑問点も囁かれている。まず、目撃者の存在。目撃者はひとりしかおらず、そんな決定的場面を都合よく目撃するかという疑問。しかも、その目撃者は未だ見つかってはいない。
それに、いかに頭が悪いとはいえ、王族に喧嘩をふっかけるような奴が本当にいるのか。町中の、路地裏とかならあるかもしれない。だが、人目のつかないところとはいえ学園の敷地内だ。自分だけでなく家にまで迷惑がかかる行為を、する奴がいるのか。
『リーダ様!』
『リーダ様!』
とはいえ、それを機に第二王子の周りに人が増え始めたのも事実。異性だけでなく、同性も。凄まじい力の持ち主、それを自慢しない謙虚さ、別け隔てなく接する器のでかさ……それらが、人が惹きつけられる要因だ。
噂の真偽はともかくとして、第二王子は入学試験で優秀な成績を収めたのは事実だ。剣術は少なくとも、他より一歩抜きん出ている。それに、たくさんの人を惹き付けるカリスマ性も、本物だ。
そんな第二王子の周りに集まる人々、彼らはいつしか"リーダ派"という派閥として呼ばれるようになった。
……そうして、比較されるのが、兄であり第一王子である、シュベルトだ。第二王子であるリーダ様にはリーダ派なるものがあるのだから、シュベルトにもそのような派閥があって然るべき……そう、勝手な期待があった。
『……』
だが、シュベルトと仲良くする人は少なからずいるが、親密にしている者といえば、身内を除けば俺、ノアリ、ミライヤ、リィ、ヤネッサくらいのものだ。しかも、ヤネッサは学園の生徒ではない。
もちろん、シュベルトの人望が少ないわけではない。入学した当初ならともかく、1年も経てばそれなりに接し方も変わってくる。だが、あくまで"話しかけにくい"から"話しかけやすくなった"程度だ。積極的に話しかける者は、いない。
その一方で、リーダ様は"こちらから話しかけよう"という、気安い雰囲気がある。もちろん、シュベルトもフレンドリー王子なのではあるが……
こうした、話しかけやすさの違いには、やはり王子としての立場の違いがある。次期国王扱いである第一王子、シュベルトには、なんだかんだ気安く話しかけるのはためらわれてしまうのだ。王族とのコネクションは欲しいが、だからといって次期国王に積極的に話しかけられる者は少ない。
対して、第二王子であるリーダ様は……第二王子とは、言葉を選ばなければ、基本的には国王にはなれない立場。だから、王族ではあっても次期国王でない分、どこか話しかけやすさがあるのだ。本人の雰囲気にもよるのだろうが。
第一王子であるシュベルトには、話しかけにくい。だが、第二王子であるリーダ様には、話しかけやすい……今現在、このような構図が生まれている。
「はぁ……」
そして、現在部屋で、軽いため息をついているのが当の、シュベルトだ。
「いや、別に派閥が欲しいとか、そんなんじゃないんだよ。だけど、もう少しみんなと、仲良くなりたいっていうかさ」
「まあ、わかりますが……」
母親違いの弟、リーダ様に、派閥と呼ばれるほどたくさんの友達ができたのだ、と嬉しそうに嘆いている。どっちだ。
「シュベルト、あの、お酒飲んでます?」
「飲むわけがないだろう!」
「ですよねー」
そう、テーブルの上にはすでに5本の空き缶が転がっているが、もちろんお酒ではない。なのになんでこの人、こんな酔ったみたいになってるんだ。
弟に友達ができて嬉しい一方、弟に先を越されて悲しい複雑な思い、といったところか。
「……」
さっきからぶつくさ言っているシュベルトは……年齢のわりに、純粋だ。だから派閥というのも、単に仲のいいグループができたのだな、くらいにしか考えてないのかもしれない。実際、そうなのかもしれない。
だが、俺は考えてしまうのだ。第二王子を取り巻く、派閥……これが、シュベルトによくない影響を与えないかと。
この国の王位継承権は、第一王子のものだ。第一王子が死去した場合を除き、それは変わらない。だが、それはこの国の情勢がこれまでそうだっただけだとしたら?
例えば、リーダ派の派閥が、リーダ様こそ次期国王にふさわしいと訴える。国民の支持により変わる王位継承権ではないとされているが、今までそんな強い反対はなかったのかもしれない。リーダ様を中心に、リーダ様が認めた派閥ならばどうだろう。ただ国民が訴えるのとは、わけが違う。
そう、リーダ様がその気になれば、シュベルトの立場を貶めることだって……
「ヤーク?」
「! あぁ、なんでもないですよ」
いかんいかん、マイナスな方向に考えすぎだ。相手はシュベルトの弟、派閥があるのだって、リーダ様が進んで作ったわけじゃなく周りに集まった人の数が、多くなったからだけだ。
それに、話したこともない相手だし、勝手な想像で人物像を作るのはよくないよな。
時期が来れば、話すときも来るだろう。シュベルトにも、気を落とさないようにとフォローしておいて、考えを切り替えることにする。どうにも俺は、疑り深くなってしまっているようだしな。
……そして、リーダ様と話す時期、というものは、唐突にやってきた。
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