復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
133 / 307
第6章 王位継承の行方

ゲルド王国王位継承者

しおりを挟む


 ……突然だが、このゲルド王国の現国王、ゲオハルト・フラ・ゲルドは、現在病に侵されている。病とはいっても、病気ではない……老化という名の、病だ。それは、この国に住む者ならば誰でも知っている。

 現国王が亡くなれば、次期国王として王位継承権を持つ王子が選ばれるのは、必然だ。

 そのうちの最有力候補として、シュベルト・フラ・ゲルドがいる。騎士学園に通う生徒にして、このゲルド王国の第一王子だ。

 第一王子……それは、次期国王を約束された存在ということである。なにをせずとも……というわけではないが、順当に行けば、シュベルトが次期国王になるのは約束された道だ。王位継承権を持つ第一の存在であり、また絶対の存在でもある。

 第二、第三王子と続いてはいても、次期国王を狙うために争いを行うのは禁止している。身内での争いなど見たくはない、このような理由から作られた、ルールのようだ。

 ただ、第一王子の身になにかが起こった場合、次の王位を継承する者がいなくなるため、その場合は第二王子へと引き継がれる。そして、第二王子にも同様のことがあれば、第三王子へ。

 なんらかの理由がない限り、王位継承権が移動することはない。たとえ国民からの支持が割れていようと、国王自身が王位を移そうとしても。王位が移るのは、第一王子が自ら王位継承権を放棄するか……もしくは、暗殺等で王子が亡くなった場合だ。


『ヤーク、これは、誰にも内緒よ』


 ……さて、第一王子であるシュベルトが次期国王になるのは、約束された未来と言える。本来ならば。ふと脳裏に、ノアリの言葉が思い出された。

 このゲルド王国は、一夫多妻制が認められている。特に王族などは、本妻を迎えた後に側室として、女性を何人か迎えている。この国の法がそうであれば、なにも問題はない。

 ……ただし、暗黙のルールというものはある。国王は、自らの後継者となる王子……正式に王位継承権を持つ者を、育てなければならない。

 そのために、国王が世継ぎを産ませるのは、まず本妻が最初だと決まっている。夫婦の営みに誰がなにを言う権利もないが、国王に関しては、本妻との間に第一子を設け、その子を第一王子とする。

 それこそが、暗黙のルール。国王の第一子を、第一王子とする。その後、側室と子を成すなど、自由にすればいい。

 ……さて、ここからがノアリに聞いた話だ。


『それでね、これはアンジェさんから聞いた話なんだけど……』


 正確には、シュベルトの婚約者であるアンジェさんの話であるが。彼女たちは、1年前に秘密を共有した。

 第一王子であるシュベルトは、正式な王位継承権を持っている。国王の第一子として、大々的に発表されたからだ。

 ……だが、その発表には実は裏がある。シュベルトは第一王子と言うには、実は少々難しい立場にあったのだ。シュベルトが国王の子であることは間違いではない、だが……

 母となる人物は、本妻ではなく、側室の女性であった。

 暗黙のルール……国王は本妻との間に第一子を設け、その男の子を第一王子とする。ちなみに女の子なら、第一王女として次期王女になる。……さて、暗黙のルール、それが蔑ろにされ、国王は本妻と子を設けるより前に、側室との間に子を設けてしまった。

 そして、生まれたのが……シュベルト・フラ・ゲルドだ。シュベルトは国王と本妻の子ではなく、国王と側室の子であった。


『それは、王族の中でも一部しか知らないらしいわ』


 それは、そうだろう。こんなこと、世間にバレたらどんな反応を受けるかわからない。側室との間に作った子を第一王子として挙げた国王や、シュベルト自身にも良からぬことを言う者が出てくる可能性もある。

 アンジェさんはこれをノアリ、そしてミライヤとヤネッサにも話したらしい。それは信頼の証だと。もちろん、シュベルトにも事前に許可を取った上でだ。

 俺も、ノアリからその話を聞いたことは、シュベルトに報告した。シュベルトは、いつか自分から言おうと思ってた、と悔しがっていたが。


『……ヤークは、こんなボクを蔑むか?』


 そう聞いてきたシュベルトは、不安そうだった。

 国王と本妻の間に生まれた子なら、なんの問題もなかった。だが、生まれた子の親は側室の女性……本来、本妻との間に子を設けるまでの間、控えていなければならない。

 そのため、シュベルトは自身の出生の真実を知り、ひどく落ち込んだのだという。言ってしまえば、父親が性欲に負けて側室の女性と致し、本妻より先に子を産ませてしまったのだから。

 しかし、シュベルトはなにも悪くないではないか。


『そんなこと、あるわけないじゃないですか』


 俺の言葉は、本心だ。同じようなことを思う者は、他にもいるはずだ。シュベルトは、ほっとした顔をしていた。

 しかし、これにはややこしい話が続く。シュベルトが生まれたその後のこと、今度は国王と本妻との間に、男の子が誕生したのだ。国王と本妻との第一子、それはシュベルトが生まれなければ、本来第一王子となるはずだった子。

 王室では、次期国王の扱いについて大きく2つの意見に割れた。いかに側室との子とはいえ、国王の第一子であるシュベルトを第一王子とする意見。生まれたのが2番目だったとしても、本妻との第一子を第一王子とする意見。

 様々な議論がなされたようだ。結果として、シュベルトは第一王子として発表された。しかし、そのことを快く思わない者が多いのも、確かだ。公にはシュベルトが第一王子としては発表されているが……

 ……どうしてこんな話をすることになったのか。それは、シュベルトもアンジェさんも、懸念材料があるからだ。王位のあれこれを俺たちに話したところで、所詮蚊帳の外な俺たちにはなにもできはしないが……


『ボクの弟……第二王子が、来年、この学園に入学するんだ』


 シュベルトの弟である、王位の立場としては第二王子である人物。しかし、国王と側室の子であるシュベルトとは違い、こちらは国王と本妻の子。

 つまり、第二王子という肩書ではあるが、本来であれば彼が次期国王となる存在だったのだ。

 シュベルトは、弟に対し申し訳ない気持ちも持っているという。だが、弟がシュベルトにどんな気持ちを持っているのかは、わからない。恨んでいるのかもしれないし、それとも……

 ……兄弟とはいえ、気軽に会える立場ではない。おまけに、シュベルトはこの1年、騎士学園の寮暮らしをしていた。たまに城には戻っていたらしいが、そこでどんなやり取りがあったのか。

 ……そしてこの年。シュベルトの言う通り、その人物は入学してきた。それも、新入生代表として、入学式のその日、教壇に立ったのだ。確か、俺たちが入学した時、代表の挨拶はあったが、シュベルトではなかったはずだ。


『……初めまして皆さん。新入生代表、リーダ・フラ・ゲルドと申します』


 その人物は、シュベルトと同じく金髪に水色の瞳、そして爽やかな表情であった。どこか、落ち着いた雰囲気……背は低いが、どこか見上げたくなってしまうような迫力があった。同時に、その笑顔は……どこか、含みがあるような。純粋と呼べるシュベルトのものとは正反対の、ものを感じた。

 ゲルド王国第二王子、リーダ・フラ・ゲルド。彼は、それから間もなくとして、自分を中心とした派閥を、作っていくこととなる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...