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第5章 貴族と平民のお見合い
ノリのいい2人
しおりを挟む「こちらノアリ、対象は楽しそうに買い物中でありますどうぞ」
「こちらキャーシュ、実にいい笑顔でありますどうぞ」
「……」
今俺たちは、ミライヤとビライス・ノラムのデートを尾行している。正確には、ノアリに半ば強制的に付き合わされたという方が正しいだろう。
しかも、途中久しぶりに会ったキャーシュまで巻き込んでだ。キャーシュには、知り合いを尾行しているなんて言いたくはなかったのだが、流れでバレてしまった。
キャーシュに失望されることになったら、とひやひやしていたのだが……
「なんで、こんなことに」
帽子とサングラスで変装したノアリは、物陰からミライヤとビライス・ノラムを見張る。その横で、妙にノリノリなのがキャーシュだ。
サングラスこそノアリに付けさせられたものだが、その口調……というかノリは完全に、素だ。
あと、どうぞって言うほど距離は離れていない。隣にいるだけで、ただそれっぽく言っているだけだ。
「キャーシュ、どうしてしまったんだ」
「あら、男の子ってこういうのが好きなものよ。ねえ」
「あはは……まあ、否定はしませんが」
知らなかった……キャーシュにも、探偵ごっこを楽しいと思えるような感性が備わっていたなんて。そしてそれをノアリに見抜かれたことが悔しい。
一緒の家に暮らしていても、知らないことはあるもんだ。
これじゃあ、俺がしっかりとノアリとキャーシュを見ておかないと……あまりのめり込みすぎて、なにをし出すのかわかったもんじゃないからな。
「さ、行くわよ」
「はい」
「へーい」
その後も結局尾行を続けたが、たいして得る情報はなかった。ビライス・ノラムはミライヤをエスコートし本人も楽しそうだったし、ミライヤも時折頬を赤くするなどまんざらでもない様子だった。
ミライヤ本人は、お見合いの申し込みどころかああいったデート自体が初めてだと言っていたからな。初めてで緊張していると思ったが、ビライス・ノラムの紳士ぶりに心を許している感じだ。
こうして尾行はしているが、その心配もなかったと思えるほどだ。
「んー、ここのデザート美味しい♪」
「……お前目的忘れてないか?」
スイーツ店に2人が入ったとき、ずっと外で待っているのも退屈なので俺たちも中に入り、適当にスイーツを頼んだが……ノアリがまあ、幸せそうな顔で食べていたのだ。
本来の目的を忘れてるんじゃないかと思えるほどに。
「わ、忘れてなんかないわよ。あむっ……んー♪」
「あの、僕お邪魔なのでは?」
「そ、そんなことはないわよ!」
キャーシュとノアリも、久しぶりだっていうのにすっかり以前のように気軽に会話をしている。『姉様』呼びはともかくとして、キャーシュがノアリを姉のように慕ってたのはまあ事実だしなぁ。
ともかく、仲が良いのはいいことだ。
「ところで……兄様たちは結局、どうしてあの2人を尾行してるんですか?」
「あー……」
紅茶を一口口に含み、飲み込んだキャーシュについに聞かれてしまう。探偵ごっこに付き合わせておいて、その理由を話していなかった。
理由を聞かずに付き合ってくれるキャーシュはとてもいい子だが、そんなに純粋だとお兄ちゃん心配だ。
「実はだな」
「ちょっと、いいの?」
「ここまで付き合わせといて理由を話さないのも悪いだろ。てか、お前だからなキャーシュを巻き込んだの」
ミライヤにはあまりこの話を広めないでと言われている。それはそうだ、学園内でこんな話が広まったらとんでもないことになる。が、キャーシュは騎士学園の人間ではない。
なにより、キャーシュをここまで付き合わせておいてなにも話さないというのは、それに嘘をつくというのは、俺が俺を許せない。
「実はだな……」
詳細を語るには時間がないため、要点だけを摘まんで説明することに。ミライヤは騎士学園の生徒、同じ組の友達、学園内では数少ない平民の女の子、その彼女にお見合いを申し込んできた男がいる……
それらを、話す。
「……つまり、そのミライヤさんが今日デートするけど、心配で尾行してたと。しかも本人に内緒で」
「そうなる」
「……娘の初デートを心配する親じゃないんですから」
はぁ、とキャーシュがため息を漏らす。あぁ、これはあきれているときのため息だ。
うーん、実際俺もそう思ったから、なんとも言えない。
「やだ、子供を心配する親だなんて……」
「なんか悪いな、こんなことに付き合わせて」
なんか頬に手を当ててくねくねしているノアリは放っておいて、キャーシュには悪いことをしたな。探偵ごっこに乗り気だったとはいえ、完全にこっちの予定に付き合わせたしな。
それに、キャーシュにとってミライヤはまったく知らない人だ。
「お見合い、か……平民にも、そういうのあるんですね。大変だな」
「あぁ、驚いたよ」
「僕も、最近は毎日のようにお見合いの誘いがあるから、少し気持ちはわかるかも」
「……んん?」
ミライヤの今の状況を聞き、キャーシュは腕を組みながらうんうんとうなずいている。だが、俺にとって聞き逃せない単語があった。
キャーシュが昔から、お見合いの話を受けているのは知っていた。昔からとはなんとも早いと思ったが、むしろ貴族としては子供の頃からでもそういう話がある方が普通なのだとか。
俺は、そんなもの必要ないと突っぱねていたが……いや、俺のことよりもだ。
「ま、毎日?」
最近は毎日のように……それは、知らなかった。確かにキャーシュはかわいい顔立ちだったものが成長するにつれかっこよくなっているし、性格も最高だ。世の女性たちが放っておかないのも無理はない。
だが、毎日のようにお見合いの話があるとは……これが普通なのか? キャーシュがすごいのか?
「キャーシュが結婚なんて……」
「話飛びすぎよあんた」
「まあ、僕を選んでくれたのは嬉しいんですが、なんて言うか……その……」
「うんうん、キャーシュにはまだいろいろと早い。それに、変な女に騙されるかもしれない、純粋だからな。そこがキャーシュのいいところでもあるが、心配なところでもある。変な女に騙されるなんてお兄ちゃん許さないからな!」
「弟好きすぎるでしょあんた。いろいろとっ散らかってんのよ。どんなテンションなのよ、いい加減気持ち悪いわ」
キャーシュがお見合い、なんてことになると俺も対象を念入りに調べあげるだろうから……うーん、あんまり今回のノアリにあれこれ言えないかもしれない。
ミライヤを心配するノアリ、キャーシュと俺に置き換えれば……なるほど、わかる。
「悪かったなノアリ、俺もお前ときっと同じなんだな」
「なにを謝られて納得されたのか知らないけど、ものすごい不本意な気がするんだけど」
そういうわけで、俺もミライヤを改めて観察することに。ふむ、やっぱり楽しそうだよなー。あの笑顔が嘘とは思えんし。
きっと、今日のデートの報告を後日してくるだろう。その時、本人の口からどうだったか、ちゃんと確かめてみようか。
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