復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

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第4章 騎士学園での騒動

魔導書

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「魔導書?」


 それは、食事中のことだった。目の前の皿に乗った品を口に運びつつ、一緒の席に座ったノアリ、ミライヤと会話を楽しんでいたときのことだ。

 昼食の時間、俺たちは昨夜同様食堂にいた。昨夜のように、またシュベルト様たちと集まれればよかったのだが、さすがに待ち合わせもしていない別組の相手ではどこにいるかわからず、今回はノアリとミライヤのみと一緒だ。

 先ほど聞いた講義の内容を思い出しあっていたり、会話に華を咲かせていたのだが……どんな流れだったか、『魔導書』と聞き覚えのない単語を発したのが、ミライヤだった。


「はい。それが、私の家にあるんです」

「ふぅん……魔導書って、なに?」

「さ、さあ。なんでも、貴重なものとくらいしか」


 会話の流れはさておいて、聞き覚えのない単語に興味をそそられた。だが、それは持ち主であるはずのミライヤも、どういったものなのかわかっていないらしい。

 だというのに、貴重だというのはわかっている。


「なんでも、昔から継がれてきたもののようで。両親も、中身はよくわかっていないんです。ただ、それが『魔導書』という書物だけは伝わっていて……中身は、私にも読めません」

「読めない、か。ノアリはわかるか? 魔導書って」

「……うーん、聞いたことあるわね」


 おぉ、さすがはノアリ。なにやら高価そうなものの正体に、心当たりがあるという。

 ミライヤからしても、得体の知れない書物の正体を知りたい……その気持ちから、俺たちに話してくれたのだろうし。


「確か……そう。なんでも、人間でも魔法が使えるための本、だったかしら」

「魔法?」


 魔導書、という響きから、予想していたひとつではある。ノアリは、声を潜めるようにして言葉を話し、さらに続ける。


「魔法、についてはちゃんと理解してる?」

「あぁ。人間には使えない、エルフ族にのみ使えるっていう、あれのことだろ。そこまでバカじゃないっつーの」


 そう、魔法とは、人間には扱えない。エルフにのみ扱うことのできる力のことだ。家にアンジーがいたおかげで、魔法については結構詳しいつもりだ。

 というか、アンジーがいたことを知っているくせにそんな質問をしてくるとは……俺、バカと思われてない?


「私も、そういう力のことは聞いたことあります」

「よろしい。魔法は本来エルフ族にしか使えない……けれど、魔導書を読めば、人間でも魔法が使えるようになる。そういう代物があるって、聞いたことがあるわ」


 人間でも魔法が使えるようになる書物……か。そんなものがあるなんて聞いたこともないが、ノアリが『聞いたことがある』レベルなのだからこういう存在自体あまり広まってないのかもしれない。

 そんなものが、どうしてミライヤの家にあるのかも疑問ではあるが。


「ミライヤは、よくそれが魔導書だってわかったな?」


 どうやら、中身はよくわからないらしい代物。読むこともできないようなそれを、よく魔導書だと判断したものだ。

 よほど、伝えられていた魔導書の特徴がその書物と一致したのか。それとも、表紙に魔導書とでも書いてあったのか。


「あ、実は表紙に魔導書って書いてあったので」


 書いてあったんかい! 存在自体曖昧な代物なのに、普通に表紙に魔導書って書いてていいの!?


「ん? ということは……表紙は読めたけど、中身は読めなかったと?」

「はい。なんというか……文字だなというのはわかるんですが、内容が頭に入ってこないんです。表紙に書いてある文字は、いつも目にする文字と同じものなんですが」


 読める文字と、読めない文字……どうしてそんな面倒な仕様にしたのか。それが魔導書だとわかっても、読めなければ意味はない。

 あるいは、中身は誰か特定の人物にしか読めないとか? 表紙は誰にでも読める文字にしといて、人伝にしてそれを読める人物が現れるのを待っているとか。考えすぎかな。

 とはいえ、表紙も読めない文字ならば、それがなにか説明しようもないし、あながち外れてもいないとは思うんだけどな。


「けど、その話は誰彼言っちゃダメよ」

「ダメ、ですか?」

「えぇ。魔法を使えるようになる本、なんて明らかに怪しいもの、変な奴に狙われたら心配だもの」

「心配なのは本が、じゃなくミライヤが、とちゃんと言った方がいいと思うぞ」

「! ちょ……別にそんな……」

「ノアリ様……!」


 ふむ……まあ、ノアリの言わんとすることもわかるな。真偽はどうあれ、それが貴重なものであるならば、それを狙った奴がミライヤに危害を及ぼす、なんてことも考えられる。その本を今持っているにしろ持っていないにしろ。

 今度、その本を見せてもらおう。で、危ないようだったら俺たちが預かってもいいわけだし。


「……魔法、か」


 そういや、結局『呪病』の件以来、エルフ族のみんなに会いに行ってないな。アンジーの里帰りは年に何回かあったものの、どれも運悪く家の予定と重なってしまった。

 他にもいろいろ忙しかったり、余裕がなかったというか……あれ以来、いっそう剣の稽古に打ち込んだり、キャーシュがくっついてきたり、なぜかノアリが離れなかったりしたもんな。

 ヤネッサ、ジャネビアさん……ついでにエーネもいたか。近いうちに、エルフの森へ行ってみるのも、悪くないかもな。
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