上 下
66 / 307
第3章 『竜王』への道

目覚め

しおりを挟む

 ノアリが目を覚まし、『竜王』の血の効果が表れたことでほっと胸を撫で下ろす。ノアリの意識も、徐々にはっきりしてきたようだ。

 まだ体を動かすのは怖いから、ベッドに寝かせたままだが……それでも、会話ができるまでには、回復したようだ。


「よかった、ノアリ……!」


 ノアリの両親、特に母親は泣いて喜んでいた。その気持ちも、わかるつもりだ……なんせ、これまで会話もできなければ、触れあうのもためらわれていたのだから。

 弱々しくもしっかりと手を握り、娘の体温を、感触を確かめているようだ。ノアリは、そんな母親の姿に苦笑いを浮かべている。


「よかったな、ヤーク」

「! クルド……」


 俺の肩を叩き、優しく話しかけてくれるクルド。クルドには状況を口でしか説明してなかったから、さっきまでの状況を見てさぞ驚いたことだろう。なんせ俺も驚いたんだし。


「うん、ありがとう。クルドのおかげだよ」

「我はなにもしていない。さっきも言ったが、お前が必死だから協力しただけだ」


 なにもしていない……なんてことはないんだけどな。けど、それを蒸し返しても謙遜するだけだろう。

 ……家を出てから、結構時間が経った気がする。けど、こうして命の期限に間に合ってよかった。

 アンジーも俺について家を出ていったわけだし、父上も1日中側についていたわけではない。今だって姿が見えないし。だから、母上にはずいぶんと苦労をかけただろう。ノアリのことはもちろん、キャーシュのことだって……


「……ん?」


 そういえば、キャーシュはどこにいるのだろう。夜も遅いし、寝ているのではと思ったが、外も含め結構騒がしくなっているのに、まだ寝ているのだろうか。

 キャーシュの居所を母上に聞くと、どうやらキャーシュはロイ先生が引き取って預かっているらしい。母上はノアリの面倒や他の『呪病』患者にかかりっきりだったし、ならばとキャーシュを預かってもらったのだという。

 キャーシュには寂しい思いをさせているから、早く会いたかったが……そういうことなら、仕方ない。


「さて……ヤネッサもクルドも、ついてきてくれてありがとう」


 この問題には関係ないはずの2人……けれど、最後までついてきてくれた。改めて、お礼を言う。

 ヤネッサはエルフの森に、クルドは竜族の村に帰らなければならない。2人と過ごした時間は短くはない。ヤネッサには、会いに行こうと思えば行けるだろう。だが、クルドはそうもいかない。

 竜族の村なんて、転移石で到達した『王家の崖』、その結界を抜けなければいけない。そう簡単な話ではない。


「何度も頭を下げるな、笑っていろ」

「そうだよー。大事な子を救えて、よかったね!」

「……うん!」


 ノアリを助けられたのは、2人がいてくれたおかげだ。ヤネッサはなんだかんだで、気分が下がりそうなときに盛り上げてくれたり、励ましてくれた。クルドだって力になってくれた。

 2人には、感謝してもしたりない。改めてなにかできないかな……そうだ、エルフの森に転移石を返しに行くから、ジャネビアさんにもお礼を言わないと。

 ……転移石を渡してくれたエーネにも……うーん……一応、感謝は、している……


「……」


 母上に、エーネに会ったと言ったらどんな反応をするだろう。いや、どうも思わないか……少なくとも、俺の正体を知らないうちは、なんとも思うまい。

 エーネは、俺の正体を内緒にしてくれると約束はしてくれた。それを俺が100%信じられるかはともかくとして、本人は嘘を言っているようでは、なかった。

 だがまあ……今は、いいだろう。今は……


「ヤーク……」


 小さく、しかし確かに俺の名前を呼ぶ声。それは未だベッドに眠るノアリのもので、俺はゆっくり近づいていく。

 ノアリが、俺に手を伸ばしている。俺は、そっとその手を取る。


「なに、どうした?」

「あの……ありがと、うね」


 まだ体調は完全には戻っていないのか、弱々しい様子でそれでも笑顔を向けてくれる。その笑顔を見ただけで、声を聞けただけで、今までの疲れや考え事が、全部吹っ飛んでいく気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...