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第3章 『竜王』への道
回復
しおりを挟む口移しにより、ノアリに『竜王』の血を飲ませていく。意識のはっきりしない状態であるものの、なんとか飲んでくれて……血は、体内へと摂取された。
クルドが言うには、とにかく血を体内に与えればいいようだ。その言葉通り、行動して……結果として、ノアリの容態は安定していった。
「ノアリ……!」
その様子に、ほっと一息。黒く変色していたノアリの肌は健常なものへと戻っていき、見ていて痛々しかった浮き出た血管も、元の状態へと戻っていく。
それを見守っていた俺とアンジー、母にノアリの両親は喜びに胸躍らせる。ここに来るまで状況を聞いているだけでしかなかったヤネッサとクルドも、安心したように笑みを浮かべていく。
もちろん、見た目が元に戻っていったとはいえ、本当に呪いが解けたのかはまだ調べてみないことにはわからない。それでも、見た目から危険な状態から脱したのは、よかった。
「ヤークワードくん、ありがとう」
「へ? いや、俺は……」
ふと、ノアリの父親からお礼を言われる。母親は涙を流しながら、俺を抱きしめてくれる。
ま、まだ完全に治ったかわからないんだけど……それでも、こうしてお礼を言われるのは照れくさい。
「俺は、別になにも……アンジーやクルドが、いてくれたから……」
これが俺の手柄、というには手放しに喜べない。なんせ、旅の道中ではアンジーに頼りっぱなし、エルフの森ではアンジーがいたからこそみんな協力的になってくれたわけだし、ジャネビアさんの孫であるアンジーがいたからこそ、クルドもすんなり力を貸してくれて……
……あれ、俺思った以上になにもしてなくないか。
「私は、ヤーク様がひとりでも事を成す覚悟だったから、ついていっただけです」
「我も、お前が必死なのが伝わったから協力したんだ」
俺をまるでフォローするような、アンジーとクルドの言葉。その表情は慈愛に満ちていて、その温かさに思わず泣いてしまいそうになる。
そうだ、2人の協力がなければ、俺はなにもできなかっただろう。まずは、俺こそが2人にお礼を言わないと。
「2人とも、ありが……」
「わたしはー!?」
「ごふぅ!」
感謝の思いを伝えるために口を開いた……ところで、横から衝撃。横腹に走る痛み。それはまるで誰かに衝突されたようで……いや、実際に衝突されたのだ。
少し吹っ飛び倒れてしまうが、俺の上に誰か乗っているために動けない。
「ごほっ、な、なにが……」
「ヤークー、私のことは!?」
「おふっ」
俺の上に乗るヤネッサは、俺の胸ぐらを掴み顔を上下にぶんぶん振っている。せ、世界が揺れる……!
いきなりなにをするんだこの痴女は……あー、アンジーとクルドのおかげと言ったがそこにヤネッサも入っていないから、拗ねているのか?
まったくかわいいところもある……がこのままじゃ服が伸びちゃう!
「ヤネッサ、やめなさい」
「あう」
アンジーに止められ、ヤネッサは立ち上がる。うぅ、頭がぐわんぐわんする。
まあ、ヤネッサの気持ちも、わからんでもない。ヤネッサだって、心強い手助けになってくれた……
「……」
「なんで目をそらすの!?」
考えてみれば、ヤネッサの鼻って帰り道に発揮されただけで、道中まったく役に立たなかったな……結局転移石とクルドのおかげで、行き帰りの道中モンスターと遭遇することもなかったし。
まあでも、場を和ませるような空気は、作ってくれた……のかな?
「ぅ、ん……」
「!」
ヤネッサも役に立ってくれた……そのフォローを考えていたが、小さくも確かな……聞きたかった声が、聞こえる。
それはベッドの方から。そう……ノアリの、ものだ。
「ノアリ!?」
俺は、ベッドを覗き込む。先ほどまで苦しそうだった表情は和らいでいる……その口は、小さく動いている。
俺は、アンジーは、母は、ノアリの両親は……みんな、言葉を発することも忘れ、望んだ未来が訪れることを願う。そしてそれは、すぐに訪れることとなった。
ゆっくりと……しかし確実に、ノアリのまぶたが開いていく。
「ん……」
「ノアリ!」
「…………ヤー、ク……?」
その瞳に、なにを映しているのか……たまらず声を上げた俺の方を向く瞳は、虚ろだったものが徐々に光を取り戻していく。
小さく、だが俺の名前を呼んでくれた……それだけで、今までの苦労が報われたような気がして。ノアリの瞳に映った俺は、涙を流していた。
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