上 下
65 / 307
第3章 『竜王』への道

回復

しおりを挟む

 口移しにより、ノアリに『竜王』の血を飲ませていく。意識のはっきりしない状態であるものの、なんとか飲んでくれて……血は、体内へと摂取された。

 クルドが言うには、とにかく血を体内に与えればいいようだ。その言葉通り、行動して……結果として、ノアリの容態は安定していった。


「ノアリ……!」


 その様子に、ほっと一息。黒く変色していたノアリの肌は健常なものへと戻っていき、見ていて痛々しかった浮き出た血管も、元の状態へと戻っていく。

 それを見守っていた俺とアンジー、母にノアリの両親は喜びに胸躍らせる。ここに来るまで状況を聞いているだけでしかなかったヤネッサとクルドも、安心したように笑みを浮かべていく。

 もちろん、見た目が元に戻っていったとはいえ、本当に呪いが解けたのかはまだ調べてみないことにはわからない。それでも、見た目から危険な状態から脱したのは、よかった。


「ヤークワードくん、ありがとう」

「へ? いや、俺は……」


 ふと、ノアリの父親からお礼を言われる。母親は涙を流しながら、俺を抱きしめてくれる。

 ま、まだ完全に治ったかわからないんだけど……それでも、こうしてお礼を言われるのは照れくさい。


「俺は、別になにも……アンジーやクルドが、いてくれたから……」


 これが俺の手柄、というには手放しに喜べない。なんせ、旅の道中ではアンジーに頼りっぱなし、エルフの森ではアンジーがいたからこそみんな協力的になってくれたわけだし、ジャネビアさんの孫であるアンジーがいたからこそ、クルドもすんなり力を貸してくれて……

 ……あれ、俺思った以上になにもしてなくないか。


「私は、ヤーク様がひとりでも事を成す覚悟だったから、ついていっただけです」

「我も、お前が必死なのが伝わったから協力したんだ」


 俺をまるでフォローするような、アンジーとクルドの言葉。その表情は慈愛に満ちていて、その温かさに思わず泣いてしまいそうになる。

 そうだ、2人の協力がなければ、俺はなにもできなかっただろう。まずは、俺こそが2人にお礼を言わないと。


「2人とも、ありが……」

「わたしはー!?」

「ごふぅ!」


 感謝の思いを伝えるために口を開いた……ところで、横から衝撃。横腹に走る痛み。それはまるで誰かに衝突されたようで……いや、実際に衝突されたのだ。

 少し吹っ飛び倒れてしまうが、俺の上に誰か乗っているために動けない。


「ごほっ、な、なにが……」

「ヤークー、私のことは!?」

「おふっ」


 俺の上に乗るヤネッサは、俺の胸ぐらを掴み顔を上下にぶんぶん振っている。せ、世界が揺れる……!

 いきなりなにをするんだこの痴女は……あー、アンジーとクルドのおかげと言ったがそこにヤネッサも入っていないから、拗ねているのか?

 まったくかわいいところもある……がこのままじゃ服が伸びちゃう!


「ヤネッサ、やめなさい」

「あう」


 アンジーに止められ、ヤネッサは立ち上がる。うぅ、頭がぐわんぐわんする。

 まあ、ヤネッサの気持ちも、わからんでもない。ヤネッサだって、心強い手助けになってくれた……


「……」

「なんで目をそらすの!?」


 考えてみれば、ヤネッサの鼻って帰り道に発揮されただけで、道中まったく役に立たなかったな……結局転移石とクルドのおかげで、行き帰りの道中モンスターと遭遇することもなかったし。

 まあでも、場を和ませるような空気は、作ってくれた……のかな?


「ぅ、ん……」

「!」


 ヤネッサも役に立ってくれた……そのフォローを考えていたが、小さくも確かな……聞きたかった声が、聞こえる。

 それはベッドの方から。そう……ノアリの、ものだ。


「ノアリ!?」


 俺は、ベッドを覗き込む。先ほどまで苦しそうだった表情は和らいでいる……その口は、小さく動いている。

 俺は、アンジーは、母は、ノアリの両親は……みんな、言葉を発することも忘れ、望んだ未来が訪れることを願う。そしてそれは、すぐに訪れることとなった。

 ゆっくりと……しかし確実に、ノアリのまぶたが開いていく。


「ん……」

「ノアリ!」

「…………ヤー、ク……?」


 その瞳に、なにを映しているのか……たまらず声を上げた俺の方を向く瞳は、虚ろだったものが徐々に光を取り戻していく。

 小さく、だが俺の名前を呼んでくれた……それだけで、今までの苦労が報われたような気がして。ノアリの瞳に映った俺は、涙を流していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

処理中です...