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第2章 エルフの森へ
ジャネビア様
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ルオールの森林……そこへと足を踏み入れた瞬間、少しだけ気温が下がったような気がした。実際に気温が変化しているのか、多々生えている木々に太陽の光が遮られているためか、それとももっと別の理由か……とにかく、少しだけ、肌寒い。
ここが、エルフの森……エルフが暮らしている、エルフだけの……
「それで、ジャネビア様に用事って?」
「えぇ。おじいさまに聞きたいことがあって、ここに来たの」
前方を歩く2人の会話。その中に出てきたジャネビア、というのが、アンジーの祖父の名前のようだ。エルフの、おじいさんか……いったい、どんな感じなのだろうか。やはり、長寿なだけあって落ち着いた雰囲気なのか。
それにしても、実の家族と連絡を取るために、わざわざあの長い距離を歩かないといけないとは……連絡ならば、魔石でそれがあるように、なにか連絡手段がないか、とも聞いてみたのだが……
『魔石は、魔法が使えない人間族が作り出したものなのでエルフ族は基本持っていません。それに、魔法で会話ができるなんて、それこそ一握りしかいませんよ』
と、アンジーは答えた。人間は魔法が使えないから魔石を作った。魔法の使えるエルフには、そりゃ不要だよな。便利だったとしても、もしかしたら人間の作ったものなど使えるか、という声もあったかもしれないし。
結果として、アンジーは家族、同族と連絡を取るには、こうして戻ってこないといけないわけだ。
「……」
久しぶりの再会だからだろうか、会話が盛り上がっている。主にヤネッサから話しかけ、それにアンジーが答える形ではあるが。
アンジーがここに来た目的、その詳細は話していない。ただ、祖父に会いたいとだけ……それでも、ヤネッサは納得してくれるのだから。よほどアンジーに懐いているんだな。
……そのヤネッサだが、さっきから全然こっち見てくれない。後ろを着いていっているから、仕方ないのかもしれないが……それでも、アンジーは時折心配するようにこちらを振り向いている。その心配の理由は、ちゃんと着いてきているのか、という確認と……
「おぉ、アンジーじゃねえか!」
「あら、帰って来てたのねアンジーちゃん!」
「あー、アンジー姉ちゃんだ!」
歩き、誰かとすれ違う度に声をかけられる。アンジーはなにも、、ヤネッサにだけ慕われているわけではない。老若男女問わず、好かれているようだ。それに、笑顔で対応しているアンジー。
……なんか、エーネがウチのお世話係としてアンジーをおすすめした理由、わかる気がする。
そして、そのアンジーの後ろを着いていっている人間にも当然視線は注がれるわけで……直接なにかを言われるわけではないが、「なんだあいつ」「なんで人間がここに」「アンジーとどんな関係だ」と聞こえてくるようだ。
それでも直接なにか言われないのは、アンジーの後ろに着いているおかげと、俺が見た目は8歳の子供だからだろう。人間だが、悪さをするためにここにいるわけではないとわかってくれてはいる。だがそんな俺を、アンジーは視線で心配してくれている。
「ヤーク様……」
「あ、着いたよ、アンジーお姉ちゃん」
アンジーが話しかけようとしてくれたところで、ヤネッサが声を上げる。この子、あからさまに俺を嫌ってるんじゃないか?
とはいえ、目的地に着いたのは事実。わざと会話を遮ったわけではない……と信じたい。
「え、えぇ……」
「ジャネビア様ー、こんにちはー!」
着いたのは、木で作った一軒家。ここにアンジーの祖父が……というか、ここアンジーの実家なのかな。
最初に、ヤネッサが扉を開けて入っていく。
「なんじゃ、また来たのか。毎日毎日飽きんのう」
「まーまー。今日はジャネビア様にお客さんですよー」
「客ぅ?」
続いて、アンジーと俺が家の中に足を踏み入れる。そこにいたのは、ひとりの老人……短めに切りそろえた金髪には白髪が混じっている。その表情には深いしわが刻まれており、相当に年を刻んでいることがわかる。
この人が、アンジーの祖父、なのか……雰囲気や、さっきのヤネッサへの対応を聞くに、気難しそうな感じだ。
「ご無沙汰しています、おじいさま」
「……アンジー……おぉ、アンジー!」
「!?」
アンジーを見た瞬間、目の色が変わった。気難しそうな雰囲気はどこへやら、その場に立ち上がったかと思えば、アンジーに駆け寄り、ヤネッサを押しのけてからアンジーに抱き着く。
「お、おじいさま……」
「なんじゃ帰ってくるなら前もって連絡でもくれれば……いや手段がないんじゃったな! わははは!」
「ジャネビア様、やっぱりアンジーお姉ちゃんにだけ甘々なんだから」
……今、なにが起こっているのだろう。堅物に見えたアンジーの祖父が、めっちゃ笑顔でアンジーに抱き着き、顔や背中やなでなでしている。
ヤネッサの台詞から、これは……孫にだけ甘いってやつだ。
「あ、あのおじいさま。久しぶりで嬉しいのはわかりますが、今日はおじいさまに聞きたいことがあって……」
「おーおー。なんでも聞くがいいぞ」
「まず離してください」
アンジーは離れようとする素振りすら見せない。すでに、この状態では抵抗しても無駄だと言わんばかりに、落ち着いている。
そうして、アンジーを話した祖父の視線が……ようやく、こちらに向いた。今まで、認識すらしていなかったようだ。
「その子は?」
「この子は……」
「初めまして、ヤークワード・フォン・ライオスです。今日は、アンジーのおじいさま……あなたに、話があって来ました」
「ほぅ」
俺に向いていた視線が、鋭くなる。こえぇ……この目、何人か殺ってるんじゃないのか?
いや、怯むな……この人なら、知っているのかもしれないのだから。ノアリを治す方法を、元気にする方法を。
ここが、エルフの森……エルフが暮らしている、エルフだけの……
「それで、ジャネビア様に用事って?」
「えぇ。おじいさまに聞きたいことがあって、ここに来たの」
前方を歩く2人の会話。その中に出てきたジャネビア、というのが、アンジーの祖父の名前のようだ。エルフの、おじいさんか……いったい、どんな感じなのだろうか。やはり、長寿なだけあって落ち着いた雰囲気なのか。
それにしても、実の家族と連絡を取るために、わざわざあの長い距離を歩かないといけないとは……連絡ならば、魔石でそれがあるように、なにか連絡手段がないか、とも聞いてみたのだが……
『魔石は、魔法が使えない人間族が作り出したものなのでエルフ族は基本持っていません。それに、魔法で会話ができるなんて、それこそ一握りしかいませんよ』
と、アンジーは答えた。人間は魔法が使えないから魔石を作った。魔法の使えるエルフには、そりゃ不要だよな。便利だったとしても、もしかしたら人間の作ったものなど使えるか、という声もあったかもしれないし。
結果として、アンジーは家族、同族と連絡を取るには、こうして戻ってこないといけないわけだ。
「……」
久しぶりの再会だからだろうか、会話が盛り上がっている。主にヤネッサから話しかけ、それにアンジーが答える形ではあるが。
アンジーがここに来た目的、その詳細は話していない。ただ、祖父に会いたいとだけ……それでも、ヤネッサは納得してくれるのだから。よほどアンジーに懐いているんだな。
……そのヤネッサだが、さっきから全然こっち見てくれない。後ろを着いていっているから、仕方ないのかもしれないが……それでも、アンジーは時折心配するようにこちらを振り向いている。その心配の理由は、ちゃんと着いてきているのか、という確認と……
「おぉ、アンジーじゃねえか!」
「あら、帰って来てたのねアンジーちゃん!」
「あー、アンジー姉ちゃんだ!」
歩き、誰かとすれ違う度に声をかけられる。アンジーはなにも、、ヤネッサにだけ慕われているわけではない。老若男女問わず、好かれているようだ。それに、笑顔で対応しているアンジー。
……なんか、エーネがウチのお世話係としてアンジーをおすすめした理由、わかる気がする。
そして、そのアンジーの後ろを着いていっている人間にも当然視線は注がれるわけで……直接なにかを言われるわけではないが、「なんだあいつ」「なんで人間がここに」「アンジーとどんな関係だ」と聞こえてくるようだ。
それでも直接なにか言われないのは、アンジーの後ろに着いているおかげと、俺が見た目は8歳の子供だからだろう。人間だが、悪さをするためにここにいるわけではないとわかってくれてはいる。だがそんな俺を、アンジーは視線で心配してくれている。
「ヤーク様……」
「あ、着いたよ、アンジーお姉ちゃん」
アンジーが話しかけようとしてくれたところで、ヤネッサが声を上げる。この子、あからさまに俺を嫌ってるんじゃないか?
とはいえ、目的地に着いたのは事実。わざと会話を遮ったわけではない……と信じたい。
「え、えぇ……」
「ジャネビア様ー、こんにちはー!」
着いたのは、木で作った一軒家。ここにアンジーの祖父が……というか、ここアンジーの実家なのかな。
最初に、ヤネッサが扉を開けて入っていく。
「なんじゃ、また来たのか。毎日毎日飽きんのう」
「まーまー。今日はジャネビア様にお客さんですよー」
「客ぅ?」
続いて、アンジーと俺が家の中に足を踏み入れる。そこにいたのは、ひとりの老人……短めに切りそろえた金髪には白髪が混じっている。その表情には深いしわが刻まれており、相当に年を刻んでいることがわかる。
この人が、アンジーの祖父、なのか……雰囲気や、さっきのヤネッサへの対応を聞くに、気難しそうな感じだ。
「ご無沙汰しています、おじいさま」
「……アンジー……おぉ、アンジー!」
「!?」
アンジーを見た瞬間、目の色が変わった。気難しそうな雰囲気はどこへやら、その場に立ち上がったかと思えば、アンジーに駆け寄り、ヤネッサを押しのけてからアンジーに抱き着く。
「お、おじいさま……」
「なんじゃ帰ってくるなら前もって連絡でもくれれば……いや手段がないんじゃったな! わははは!」
「ジャネビア様、やっぱりアンジーお姉ちゃんにだけ甘々なんだから」
……今、なにが起こっているのだろう。堅物に見えたアンジーの祖父が、めっちゃ笑顔でアンジーに抱き着き、顔や背中やなでなでしている。
ヤネッサの台詞から、これは……孫にだけ甘いってやつだ。
「あ、あのおじいさま。久しぶりで嬉しいのはわかりますが、今日はおじいさまに聞きたいことがあって……」
「おーおー。なんでも聞くがいいぞ」
「まず離してください」
アンジーは離れようとする素振りすら見せない。すでに、この状態では抵抗しても無駄だと言わんばかりに、落ち着いている。
そうして、アンジーを話した祖父の視線が……ようやく、こちらに向いた。今まで、認識すらしていなかったようだ。
「その子は?」
「この子は……」
「初めまして、ヤークワード・フォン・ライオスです。今日は、アンジーのおじいさま……あなたに、話があって来ました」
「ほぅ」
俺に向いていた視線が、鋭くなる。こえぇ……この目、何人か殺ってるんじゃないのか?
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