復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
37 / 307
第2章 エルフの森へ

止まれ略奪者

しおりを挟む


 移動に使えるモンスター、ライダーウルフ。通常のウルフよりも乗りやすいし、なにより速くそして持久力もある。冒険者は移動手段として活用するというライダーウルフ、そのいったいをゲットした。

 アンジーの拘束魔術から解かれたライダーウルフは、アンジーに頭(こうべ)を垂れている。額から生えた角は赤色から青色へと変化しており、それはアンジーに忠誠を誓った証拠だ。

 拘束されている最中はあれほど敵意を見せていたのに、今やすっかりおとなしくなっている。触っても大丈夫だろうか……


「グゥアウ!」


 手を伸ばし毛並みに触れようとしたら、思い切り怒鳴られてしまった。アンジー、2人一緒に乗ればいいと言っていたが……触れるのすら嫌がられるんだ、乗るなんて無理じゃないか?


「ふふ、元気ですね。でもその方は、とても大切な人です……危害を加えたら、許しませんよ?」

「!」


 今のやり取りを見て、アンジーが呟く……なんだかそれはとても冷たく、寒気のするほどの声色だ。その迫力をもろに受けたライダーウルフは、肩を震わせ、俺に頭を垂れた。

 アンジー、キミはいったい……怖いというか、たくましいというか……

 その後、ライダーウルフの背中に乗っても吠えられることはなかった。まずは俺が乗り、その後ろにアンジーが乗るというスタイルだ。


「さて……行きますよ!」


 2人を乗せ、ライダーウルフは走る。そもそも生き物の背中に乗せてもらうのが初めてではあるが、これは……すごいな。人の足で走るのよりも断然に速いのはもちろん、正面からぶつかる風が気持ちいい。

 これならば、普通に歩いて行くよりも目的地に到着するのは、断然早くなるはずだ。


「ヤーク様、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、うん……」


 あまりの速さに、アンジーが顔を寄せて耳元で話しかけてくる。くすぐったい。

 俺を落とさないために、そして自分が落ちないように、俺のお腹に腕を回している。密着しているわけだ。そうすると、そう……アンジーの、柔らかなそれが押し付けられる形になるわけで。しかも、声を届かせるために屈むと、より押し付けられる。

 むぅ、いつもメイド服だからあまりわからなかったが、意外と……って、いかんいかん。自制しろ俺!


「あ、アンジー、もう少し離れて……」

「え、なんです?」

「も、もう少し離れて!」

「ダメに決まってます」


 こんな近距離でも、それなりに声を張り上げないと声は届かない。伝わっても、俺の頼みは却下される。

 アンジーとしては、危ないから離れられないのだろう。そもそも、男とはいえ8歳でこんなこと考えているなんて思っていないのだろう。

 背中は、柔らかい。正直天国だ。だが、天国であり地獄だ、これは。


「速いですね、さすがはライダーウルフ……私も、名前しか聞いたことがなかったので、驚きです」


 そんな俺の葛藤など知るよしもない。アンジーは、俺が退屈しないようにか声を張り上げて、話しかけてくれる。ありがたいが、忘れた頃に胸を押し付けられるのでたまったものではない。

 早く、目的地に着いてくれ……!


「……今日は、ここまでにしましょうか」


 途中、見かけた村に寄ってから、食料を補充。主にライダーウルフ用のものだ。村には基本モンスターは入れないが、青色の角を持ったライダーウルフのように、危険がないとわかるものなら大丈夫だ。

 その後再び出発。暗くなってきたので野営のために足を止め、食事の時間。ついでに両親に定期報告と、ノアリの安否確認。ノアリの方は進展なしだが、こっちはライダーウルフを手に入れたことを伝えると、驚いていた。


「ここまで走ってくれたんですし、明日も頼むことになるんです。しっかり養ってあげないと」


 アンジー曰く、とのことなので、ライダーウルフの食事はわりと豪華だ。まあ、こいつのおかげで今日はかなりの距離を進むことができた。なので、それも納得だ。

 寝ている間にライダーウルフが逃げてしまわないかとも心配になったが、主(アンジー)が指示しない限り勝手に離れることはないらしい。


「では、おやすみなさい、ヤーク様」

「うん、おやすみ」


 ライダーウルフのおかげで、移動時間がぐんと減ったことに加え、モンスターとも出くわさなくなった。正確には、モンスターがいてもライダーウルフの速力には追いつけないため、そのまま引き離せるのだ。ライダーウルフに追いつけるのはライダーウルフだけだ。

 モンスター相手に戦えないのは残念だが、こうして移動手段が確立された以上、早い段階での目的地への到着を確実にするべきだ。モンスターに邪魔されないなら、わざわざ戦う必要もない。この旅が終わった後、好きなだけ戦いに出掛ければいい。


「……んぅ」


 気がついたら、眠っていた。起きた時には、日が昇り始めたあたり……アンジーもまだ寝ているし、ようやくアンジーよりも早く起きれたな。


「……あと、どれくらいなのかな」


 同じく眠っているライダーウルフの頭を、そっと撫でる。寝ていると、かわいいものだ。

 アンジーが言うには、元々歩いていた分に加え、ライダーウルフのおかげでかなり進めたらしい。明日か明後日……いや、もう今日か。今日か明日には、着けるだろうということ。エルフの森に。


「ルオールの森林、か」


 そこは転生前でも、俺は行ったことがない。仲間だったエーネの故郷だと聞いたくらいで、エルフの森の正式名称もアンジーに聞いて知ったくらいだ。

 エルフとは魔術を使う生き物……俺はエーネとアンジーしか知らないが、どんな連中なんだろう。人間のように、いい奴もいれば嫌な奴もいるんだろうか。

 ……いや、やめよう。エルフの森が目的地ではあるが、そこはあくまでノアリの『呪病』を治す手がかりを手に入れるための場所だ。もちろんエルフの森自体に手掛かりがあるのなら別だが……まずは手掛かりを持っているであろう人物、アンジーの祖父に会わなければ。


「ん……ぁ、ヤーク様……?」

「アンジー、おはよう」


 アンジーが、目覚める。こうしてアンジーの寝顔を見るのも、起きる瞬間を見るのも初めてだな。家で雇われてはいても夜には帰ってしまうから、アンジーのそんな姿を見たことがない。

 そう指摘してやると、アンジーは珍しく顔を赤らめていた。


「ほ、ほら、行きますよ」


 ライダーウルフも目覚め、軽く食事を済ませて、出発。心なしか昨日よりもライダーウルフの足取りが軽く思える。


「昨日食べたお肉が、良かったのかもしれませんね」


 アンジーの見解を聞いて、なるほどと思った。ライダーウルフは、というかモンスターは野生だ。そこでなにを食べるか……あまり、上等なものは手に入れられないだろう。だから、昨日食べたお肉がかなり美味しくて、張り切っているのかもしれない。

 そのおかげも、あってだろうか……


「! 見えましたよ、ヤーク様」


 アンジーに言われ……いや、その前から思っていた。あれがそうではないか、と。だから、アンジーの言葉に確信した。

 まだ『そこ』までは距離がある。それでもわかるほどに、巨大な木々……存在感のあるそれらは、まさしく森林だ。大自然の力だろうか、これだけ離れていてもその大きさ、高さが相当なものだとわかる。力強く、幾本もの木が立っている。さらに、近づくにつれただの平地にも変化が訪れ始めた。野菜や果物を育てているのだろう、やけに生活感のあるものになってきた。

 これほどの大自然、国ではもちろん転生前の旅ですら、見たことがないかもしれない。ここが……


「ルオールの……」

「止まれ!」


 周囲に注意がいっていたせいだろうか、事前に気付けなかった。声は正面から。

 見れば、そこにはひとりの女の子が立っていた。身に付けているのは、胸や局部を隠すような最低限の布地……その輝くような金髪や宝石のような緑色の瞳から、エルフだとすぐにわかった。

 なんと過激な格好……しかし、それに目を奪われている暇はない。なぜならその手には弓矢を構えており、すでに矢を射る手前。その目は敵意に満ちていたのだから。


「止まれ略奪者め!」

「ちょっ、ちが……」

「死ね!」


 ライダーウルフの速力はすさまじい……だからだろうか、ぐんぐん彼女との距離が縮まる俺の話を聞こうともせず、少女は吠える。直後その手に構えていた矢が、射られた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...