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第1章 復讐者の誕生
それからの日々
しおりを挟む剣術には、3つの流派がある……と、これまで独学で習ってはいたが剣術についての知識はなかった俺は、初日に先生からあれこれを教わったおかげで、知識はだいぶついたと思う。
功竜派、防竜派、技竜派……この3つが、この世界の主体となる流派。それに加えて、自分の独特な剣術を我流と言う。俺やガラドが我流であるように、例えば王国に仕える騎士なんかも3つの流派のどれかを扱うのだろう。
攻撃、防御、技術……これのどれかではなく、すべての流派を取得することも可能。ただし、複数の流派を覚えるのとひとつの流派を極めるのとは違う。そもそも人には自分の得意とする流派が無意識に存在しているようで、それを知ることがまずスタートとなる。
だから、単純な話自分には合わない流派は覚えようと思ってもすんなりとはいかない。複数の流派を覚えるには、才能というものが必要だ。悲しいことに、その才能を持つ人間はそう多くはない。
才能という面では、悔しいことにガラドのそれはかなりのものだろう。けど、ガラドは3つの流派ではなく我流であった。元々、誰かに教えを乞うていたわけではなさそうだし、やはり独学で鍛え上げたものだろう。
それを見て剣を鍛練し始めた俺も、無意識に我流となっていたわけで……
「ヤーク……ヤーク!」
「え……あ、あぁ」
ふと、名前を呼ばれて考え事を中断する。目の前には、頬を膨らませたノアリの姿。
……あぁ、そうだった。今日はノアリが遊びに来ているんだった。あの日以来、ノアリは親の付き添い以外でも、こうして遊びに来るようになった。おとなしかった性格も、少しばかり積極性が出てきたのか前より喋るようになった。
今ではこうして、中庭や家の中でお喋りをするのがお決まりとなっている。2回目に来たときには、ノアリのオススメの本を持ってきたりもしてくれたっけな。
「もう、聞いてた?」
「ええと……ごめん、なんの話だっけ」
「ダメですよにいさま、女の子の話はちゃんと聞かないときらわれるって、かあさま言ってました」
家に訪れる頻度が多いということは、キャーシュとも顔を会わせていくうちに仲良くなっていった。なかなかにほほえましい光景だ。
それはそれとしてキャーシュよ、いつからそんなことを言うようになったのか。
「キャーシュは偉いね、ちゃんと女の子のことをわかってる」
「えへへ」
ひとりっ子らしいノアリは、キャーシュを弟のように思っているようで、なかなかに甘い。甘いのは俺が言えたことではないが。
キャーシュも人懐っこいし、わりと懐いている。ほほえましい。
「よーしよし……けほ、けほ」
「ノアリ?」
キャーシュの頭を撫でていたノアリが、唐突に咳き込む。
「な、なんでもないよ。ちょっとむせちゃって」
「ふぅん?」
本人がなんでもないというなら、そうなんだろう。咳き込むことくらい、別に不思議なことじゃない。
しかしこうして平和に過ごしていると……復讐のことを忘れてしまいそうにすらなるな。もちろんそれはあり得ないが、それくらいに平和ってことだ。
いずれ来る復讐の日……しかしそれとは別に、この時間を大切にしたいとも、思っている。
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