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第1章 復讐者の誕生
3つの流派
しおりを挟む先生との本格的な剣の鍛錬が始まり、しばらく打ち合いを続けた後、中庭に設置されたテーブルの席についていた。よく、ひとりで鍛錬するときも休憩に使う場所だ。
そこで、休憩の時間……休憩とは言っても、体は休憩させ剣についての話を聞く、いわゆる座学のような時間だ。
「どうやらヤークは、剣の流派については初耳のようですね」
「はい」
「では、今日は初日ということで、打ち合いは一旦中断して流派の説明をしましょうか。……あ、ありがとうございます」
今日は特別、先生に座学の授業を受けることに。アンジーがお茶を用意してくれたので、それを一口。
流派、か……それがどういったものかわからないが、俺のは我流というものに分類されるらしい。先生も言っていたが、他のどの流派にも属さない、言ってしまえば自分だけの剣術だ。その代わり、他の流派を参考にして技量を上げるのは難しいんだとか。
「もちろん、難しいだけで可能ではありますよ。他の流派の技術を取り入れ、独自の剣術を編み出す……それが我流の強みでもあります」
「なるほど」
「ちなみに、ガラド殿も我流ですよ」
「……そうですか」
まったく必要のなかった情報だな。
……いや、俺はガラドの剣を参考に見よう見まねで鍛錬していた。だから、我流を参考にした俺も我流になったのだろうか。
「普通、我流は人に教えることには適していません。その人の動きひとつひとつ、呼吸の仕方でさえ剣に与える影響は大きいので、他人が真似しようと思っても無理です。さすがは親子と言うべきでしょうか」
「あはははー」
まったく嬉しくない。ともあれ、我流が特別なんであって、この世界には主に3つの流派にわかれるのだという。
ひとつが、功竜派。
これは攻撃を主体とした剣さばきで、そのほとんどを相手の剣を弾き飛ばすことに特化している。文字通りの攻撃的な流派。この世界では、基本的に剣を持った者が戦う時、相手の剣を弾き飛ばせば勝敗は決するという。それが貴族の流儀なんだとか。間近で見ていたガラドの剣も、魔物を倒すために振るわれていたから人相手にそんなルールがあるなんて知らなかった。極めれば岩も軽々斬るとか。
ひとつが、防竜派。
これは防御を主体とした守りの剣。いかなる攻撃も剣で弾き、相手の消耗を待ち、隙を狙い突くという、功竜派に比べるとやや地味な防御の流派。だが、守りに徹すれば剣を弾き飛ばされる危険も減り、さらに腕を上げ極めれば相手の攻撃に対し、カウンターを打てるようになるらしい。もちろん極めるのは並大抵のことではなく、いろいろと相手の動きを読む力が必要だ。
ひとつが、技竜派。
これは技術面に特化した剣術で、変則的な動きが特徴的だ。3つの流派の中で一番我流と似てはいるが、技量を磨けば大きな力の差がある相手にも勝つことが可能だ。相手の攻撃を防ぐではなく受け流し隙を作る、相手の防御の僅かな隙を突く……そういった繊細な技術が必要な分、あくまで自分だけの剣の我流とは違いはある。極めた者はまるで剣舞でも踊っているように見えるという。
以上3つがこの世界の剣の流派だ。わざわざ竜と流派をかけているのだろうか……『竜王』からもじっているのか。『竜王』なんて昔話やノアリが好きだという本に登場したり、この世界にとってなんか影響のあるものなんだろうか。まあいいが。
「先生は、どの流派なのですか?」
「一応、3つとも会得してはいますよ。流派はどれかひとつ、という決まりはないですからね。とはいえ、ひとつの流派を極めるか、2つ3つも流派に手を出すか……どれかひとつを極めた者には、敵いませんよ。それに、3つともの流派を極められた者は歴史上ひとりしかいませんしね」
3つの流派を使えるのか、それはすごいな。
とはいえ、3つとも使えるようになるのとひとつを極めるの、どちらがいいのかはわからないが……それぞれの流派を使えるというのは、それだけで先生のように先生としての仕事もあるだろうし。
その後も俺は、流派についての話や俺の打ち込みの具合の指摘、さらには足運びや体重移動の効率の良いやり方など、学んでいく。
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