沈む太陽 ~生と死を奪い合え、極限サバイバルゲーム~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
26 / 32

激化していくデスゲーム

しおりを挟む


「ヒャッハァ、殺せ殺せぇ!」

「てめえが死ねや!」

 ……もう、何人の人間がこの島で命を落としただろう。この島で目を覚ましてから、それほど時間は経っていないはずなのに……数え切れないくらいの、声を聞いた。
 それは人間の悪意を混ぜ、煮詰めたようなもの。それは自分たちに対して、そして関係ない人間に対して。

 今も、周囲では様々な憎悪がぶつかり合っている。そのほとんどが、人を殺してでもデスゲームを生き残り、生きて帰るという目的から。

「! あぶねっ!」

「きゃっ!」

 ドゥンッ、と体の芯にまで届く音に、昇はとっさにレイナの手を取り、引き寄せた。それは、先ほど拳銃を撃った昇だからこそわかったもの。
 放たれた銃弾は、レイナを撃ち抜くはずだった。それは空振り、太い木に命中する。

 レイナは、自分の手を見つめた……なんの躊躇もなく、自分の手を握っている、昇の手を。
 ナイフで抉られた傷が痛むが、それどころではなかった。救ってくれたとはいえ、直接手を握るなんて。レイナは、必死に心を押し殺した。
 なにかを感じてしまえば、その瞬間、昇を殺してしまうかもしれない。

「おい、ボサッとすんな!」

「!」

「ギジェエエ!」

 敵は、人間だけではない……見たことがある、しかし異形な姿をした化け物が、そこかしこに現れる。
 さすがに、最初に見た化け物ほど大きくはないが……それでも、脅威に変わりはない。

 辺りは、暗くなっている……本来なら、こんなときに動くのは危険すぎる。だが、そうも言ってられない状況だ。
 興奮した人々は関係なしに暴れまわるし、おそらく夜行性だろう化け物もいる。

 せめて森の中に入らないことを念頭に入れ、ただ走っていた。

「っづ!」

 しかし、周囲に気を配ったまま走っていればつまづいたり、足をぶつけることも。他の参加者の流れ弾が当たることもある。
 ほとんどの参加者は、アイテムボックスで拳銃を購入していた。一番使いやすいと判断されてのものだろう。

 もちろん、陸也が言っていたように素人が簡単に扱える代物ではない。が、素人でもただそれを持っているだけで、立派な凶器と変わる。
 しかもこれだけ人が集まれば、流れ弾は誰かに当たってもおかしくはない。

「おら、死ね!」

「! やめろっ!」

 死角から飛び出してきた男を、昇は反射的に突き飛ばす……その先に、ワニを思わせる生き物が、大きな口を開けていた。
 男は、バランスを崩してなすすべもなく、ワニの口へと放り込まれ……その鋭い牙が、男の体を串刺しにした。

 肉が裂け、骨が砕ける音が、耳にいやに響いた。

「ぐっ……!」

 ただ突き飛ばしただけ……初めての殺人のときと、同じだ。自分にその気がなくとも、結果として相手を死に至らしめてしまった。
 込み上げてくる吐き気を抑え、とにかく走る。

 走って、なんになるのか。どうせ手を汚したんだ、こちらから積極的に他の参加者を殺してしまえ……そんな囁きが、自分の頭の中に響いている。
 ……もはや、この段階で人殺しをしないなどと、綺麗事を述べるつもりはない。

「っ、人が、どんどん減ってる……!」

 マップを確認し、点が……人が減っているのを、確認する。
 ある者は参加者同士で殺し合い、ある者は化け物に襲われ、ある者は流れ弾に命を奪われ……

 まだ、この島に来てから一日も経っていない。なのに、人がどんどん死んでいく……
 いったい誰が、なんの目的でこんなことをしているのか……考えるだけ、無駄なことだ。

「っ、くそ……!」

 ただ一人の生き残りを賭けたデスゲーム……この前提がある限り、参加者同士が手を組むことはまずない。それが、一つの救いではあった。
 もしも手を組まれて襲われでもしたら、あっという間に囲まれて終わりだっただろう。

 ……一人しか生き残れない。それがわかっていながら、昇もレイナも、繋いだ手を話すことはなかった。

「てめぇらの賞金よこせ!」

「!」

 もはや、人の命など問題ではない……ただ賞金欲しさに、命を狙ってくる者もいる。
 反射的に、昇は声のした方向へと腕を振るう。その手には、陸也への脅しに使った爆弾が握られていた。

 放られた爆弾は、数秒のカウントを刻んだ後……大きな音を立てて、爆発した。それに巻き込まれ、声を発した者と、おそらくそれ以外も巻き込んでいく。

「……くっ」

 こうしないと、生き残れない……もはや、殺し合いもせずに、みんなで協力して島を出ようなんて提案するという考えは、失われていた。
 誰も彼もが、理性を失った獣と同じだ。もう、言葉など通じない。

 殺そうとしてくる相手には……相応の覚悟を持って挑まないと、こちらが殺されてしまう。

「! どいて!」

「うぉ!」

 突然昇は突き飛ばされる……それは、レイナが繋いでいた手を振り払ったからだ。
 いきなりの出来事に、何事かと振り向くと……そこには、昇を死角から狙おうとしていた女。そして女の手首を掴んだレイナの姿があった。

 手首を掴まれた女は、手首が、そして全身が捻じ曲がっていき……ボギンッ、と音を立てて、絶命した。
 昇を突き放したのは、明確に守ろうと思ったから……そして、手を繋いだままでは、女への殺意を通じて昇も殺してしまうかもしれないから。

「お前……」

「……借りの作りっぱなしは、ごめんだから」

 言ってレイナは、包帯を巻かれただけの手を擦る。治療とも言えない、簡易的な処置。
 そんなもの、借りとも思うものでもないとは思うが……とにかく、助けられたことに違いはない。昇は、礼を言う。

 先ほどよりも、いつの間にか騒ぎが収まっていたところへ……マップを、確認する。
 ……残っている点は、残り四つ。

「あと、四人……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

ストーカー【完結】

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
大学時代の元カノに地獄の果てまで付きまとわれた話

ルッキズムデスゲーム

はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』 とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。 知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

怪物どもが蠢く島

湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。 クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。 黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか? 次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。

怪奇短編集

木村 忠司
ホラー
一話完結の怪談奇譚です。と思っていたんですが、長編になってしまった物語は、5分くらいで読めるくらいに分割してます。 いろんな意味でゾワりとしてもらえたらありがたいです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...