沈む太陽 ~生と死を奪い合え、極限サバイバルゲーム~

白い彗星

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人間の本能

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 その後、昇とレイナは急いで身を隠すことにした。あんな大きな化け物が暴れまわったのだ、人目を引くには充分。
 それに、暴れていた音はピタリとやんだ。つまり、化け物は死んだと、そう思う者は多いだろう。

 ともなれば、化け物を殺した参加者を、他の参加者が狙いに来るのは、必然のことだ。

「! いた、死にやがれ!」

「てめえこそ死ね!」

 離れ、充分に距離を取ったところで、後ろから怒声が聞こえた。
 化け物の周りに集まり、他の参加者同士がぶつかっている。互いに、聞くに堪えない罵倒を繰り返しながら、爆音まで響かせている。

 おそらくは、アイテムボックスで爆弾類のものを買ったか……それとも、【ギフト】によるものか。そんなものは、どちらでもいい。
 とにかく、時期に他の参加者も集まるだろう。それよりも、一刻も早くここから離れて……

「おいおい、どこへ行こうってんだ?」

「!」

 降って聞こえた声に、昇はとっさに立ち止まり……後ろへ、飛ぶ。
 その直後、さっきまで昇が立っていた場所には、拳が突き刺さっていた。太く、大きな拳だ。素手であるはずなのに、あんなものに殴られれば骨がイカレてしまう。

 昇は、すぐに前を見て……

「ははっ、よく避けたな。悪くない運動神経だ」

 愉快そうに笑うのは、大柄の男だ。その姿に、昇は眉を潜める。
 この男は、いったいどこから現れたのか。それに、ここは砂場だ……足元は、踏みしめれば砂利の音が響くはず。

 こんな巨体が、音もなく現れたのだ。しかも……

「なんの、つもりだ?」

「あぁ?」

「声をかけなきゃ、俺に攻撃を避けられることもなかった……違うか?」

 男は、攻撃を仕掛ける際に、律儀にも昇の声をかけた。
 そのおかげで、昇は九死に一生を得たわけだが……

 攻撃を仕掛ける前に声をかけるなど、自分の存在を知らせるだけだ。問答無用で攻撃を仕掛けてきたあたり、相手はデスゲームをなんとも思っていない可能性が高い。
 だというのに、昇に自分の存在を気付かせた。

「簡単なことだ……俺は、刺激が欲しいのよ」

「……は?」

 答えは、返ってきた……しかし、その意味が、昇にはわからない。
 それに構わず、男は話す。

「せっかくの、楽しいショーなんだ! 一方的な虐殺はつまんねえだろ!?」

「……ショー?」

「この【ギフト】を使いやぁ奇襲が仕掛けられるが、さすがにそれだと面白くねえだろ?
 だから、てめえの反応を見てた。それだけのことだ」

 男の言葉が、昇には理解できない……ショー、このデスゲームを、男はショーと言ったのだ。
 こんな、ふざけた……人の生き死にを持て遊び、ゲームと称するようなこれを、ショーだと。

 昇の困惑など、しかし男は知ったことではない。

「他のプレイヤーは、あの化け物に寄せられているが……しょせん、目先の金しか見てねえ馬鹿どもだな。
 マップを見りゃ、化け物から離れている奴がいると、すぐにわかる」

「!」

 マップの存在がある限り、逃げられはしない。隠れても、意味のないこと。
 それでも、あの巨大な化け物が暴れたためにほとんどの参加者の意識はそっちに移り、マップを見ることも忘れる。

 だというのに、この男は……冷静に、見極めている。

「待て、俺は殺し合いなんてするつもりはない。ただ、この島を抜け出す方法がないか調べて……」

「なら、スマホを……てめえの所持金を見せろ。
 殺し合いをしない、つまり誰も殺してねえってことは……当然、てめえの所持金は一億のままだろ?」

「っ……」

 男の指摘に、昇は肩を震わせる。男の言葉は道理だ……殺し合いの意思がないならば、誰も殺していないはず。
 殺していなければ、賞金は開始時の一億円から変動はない。

 だが、昇は不可抗力とはいえ、一人殺している。そのため、所持金は二億円。
 それが事故だと、この男が果たして信じてくれるだろうか。

「てめえもだ、女。
 こいつと組んでるってことは、てめえも同じ考えだな?」

「! わた、しは……」

 男の標的は、レイナにも向く。その視線に、レイナは自分の体を抱きしめるように、体を震わせた。 

 レイナは……もっと、ダメだ。今の彼女の所持金は、四億円。
 内に億円は化け物を殺した結果手に入ったもの……それだけなら言い訳のしようもあるが、残りは不可抗力で殺してしまった一人のものだ。

 それを、素直に信じる男ではない。

「やましいことがないなら、そんなに渋る必要はねえ……
 はっ、とんだピエロだぜ。俺の油断の誘い、殺すつもりか」

「! ちが……!」

 昇もレイナも、スマホを見せようとしない。それが、男にどう映ったかは説明するまでもないだろう。
 人殺しはしないなど甘い言葉で誘っておいて、隙を見せれば後ろから刺すつもりなのだ。

 仮に、もし本当に人殺しをしたくないというつもりなら……

「甘いんだよ、この環境で、そんな甘い言葉が通じると思うか?
 食料、見ず知らずの土地、数ある武器、そして化け物……人間は、追い込まれるとなんでもするぜ?」

「なん……でも……?」

「あぁ。盗みでも、殺しでも。
 考えても見ろ。法で規制された世界でも、日々殺しは絶えない。相手への恨みから行動に移した奴もいれば、ただ殺してみたかったなんてほざく馬鹿もいる。
 それが人間の本質だ……そんな人間が、法も正義もないこんな空間に放り込まれたら、どうなると思う?」

「……!」

 男の言葉は、どこか真に迫るものがあった……その迫力に、昇もレイナもなにも言えない。
 二人とも、この短時間で人間の本質を垣間見た。壊れてしまった人間、元々壊れていた人間……自分のために、誰かを殺そうとする人。

 先ほど刻まれた恐怖が、忘れられない。

「それに、お前らがどう考えたところで、状況は変わらねえぞ。わかってんだろ」

「なに、を……」

「俺がお前らを見つけられたように。それだけ逃げようが、マップがある限り逃げられない。俺じゃなくても、必ず最後の一人になるまで、追い続ける。
 これはつまり、こういうことさ……このデスゲームを仕掛けた奴は、デスゲームを長引かせるつもりはない」

 スマホにマップを表示し、男はそれを見せつける。
 それは、昇も考えていたことではある……このマップというものは、嫌でもみんなに居場所を伝えてしまう。このため、隠れることも奇襲も困難となった。

 かくれんぼにならないかくれんぼ……こんな機能を付けた【運営】の目的は、一つ。
 【運営】は、デスゲームを長引かせるつもりなどない。逃げることも休憩すらも許されない状況で、もがく参加者を見て楽しんでいるのだ。
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