沈む太陽 ~生と死を奪い合え、極限サバイバルゲーム~

白い彗星

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兼原 陸也3

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「【ギフト】ねぇ……なんだこりゃ」

 波乱の出来事が去り、落ち着きを取り戻した場で陸也は、岩上に腰を下ろしスマホを操作していた。
 届いていたメッセージ、アイテムボックス……それ以外にも、未確認のものがないか探すためだ。

 そんな中、見つけたのがメッセージに書かれていた【ギフト】なる存在。どうやら、デスゲーム参加者には一人一つ、【ギフト】というものが与えられているらしい。
 ギフト……プレゼント、か。

「はっ、バカにしてやがるな」

 こんな状況下でのプレゼントなど、ろくなものではない。文面から察するに、おそらくは武器のようなものだ。
 これを駆使して勝ち抜け、などと。デスゲームという名の通り、ゲーム感覚で楽しんでいるのだろうか、これを送ってきた奴は。

 陸也は、自身の【ギフト】を確認すべく指先を動かす。そんなわけもわからないものに頼るより、自分の鍛えた肉体のほうが信用できる……
 が、武器は武器だ。与えられたものなら、ありがたく使わせてもらおうではないか。

「……っと、これか」


【ギフト名:空間移動テレポーション
 :頭に思い浮かべた座標に瞬間移動することができます。効果は五メートル、連続使用には三秒のインターバルが必要です。自分以外のものには使用不可能。

・注意点
 指定場所を間違えると自身の身に危険を及ぼします。また、焦ると座標が狂うことがあります。


「……なんだこりゃ」

 そこに書かれていたのは、なんともバカバカしい文章だ。空間移動、イメージは容易い。
 つまりは、自分がここからあそこに、瞬時に移動できるというものだろう。だが、そんなものにわかには信じがたい。

 なので、さっそく実践だ。イメージするのは、少し離れた場所……そこに、移動するイメージを浮かべて……

「……おっ」

 ふっ、と、景色が変わった。今まで見ていたものから、まったく別の景色へ。
 確認してみれば、確かに場所も移動している。まばたきの間に、五メートルもの距離を移動したのだ。

 これは使える、と陸也は直感した。元々、妙な武器さえなければ、肉弾戦で自分が負けることはない。
 そこに、この空間移動の【ギフト】。これは、下手な小細工よりもよほどいい。ただ自分の体を移動させるだけで、相手の攻撃を避けるのに容易いし、相手の不意をつくこともできる。

 自身の肉体を活用したい陸也にとっては、これ以上ない【ギフト】と言える。

「ただ、使えるのは自分だけか……それに、連続で使用はできない」

 【ギフト】が及ぼすのは、己の体のみ。他のものには使用できない。つまり、これを利用して誰かを、崖の上に空間移動させ突き落とす……なんてことはできないわけだ。
 それに、先ほどの獣も、空間移動が通用するならば追い出すこともできたが。

 そして、連続で使用するには最低でも三秒のインターバルが必要だ。
 三秒……短いようで、命のやり取りの中では致命的な長い時間だ。

 使いどころを、誤ってはいけないということだ。

「っははは、いいじゃねえか!」

 しかし、陸也は笑う。便利なようで、しかし欠陥も見当たる【ギフト】。これでいい。完璧でチートなプレゼントなんて、おもしろくもなんともない。
 空間移動、そしてこの鍛え上げられた肉体……あとは、敵がどのような手段を使ってくるか。

 おそらくは参加者全員に、別々の【ギフト】がある。その中に、陸也の想像を超えたものは確かにあるだろう。瞬間移動なんて現実的でないものがあるのだ、ありえないものなんて考えるだけ無駄だ。
 それに、アイテムボックスで数々の武器もある。陸也は、自分が異常者だと理解はしているが、自分以上の異常者がこの島にいないとは限らない。
 そんな人物がいたとして、いったいなにをするか……

 考えただけで、ぞくぞくする。

「さて、と。ここはいい場所だが、ここに留まり続けるってのもな……
 せっかくのショー、存分に楽しまねえと」

 ここは見晴らしもいいし、絶好の場所だ。だが、いつまでも安全圏にいては、デスゲームに参加しているとは言えない。
 現実にいてはありえない、ひりひりしたような感覚……それを、陸也は求めてやまなかったのだから。

 もっとも、迂闊に移動してもいい結果にはならない。
 まずは、このマップを駆使して、他の参加者を……

「んん?」

 ふと、マップを確認すると、近くに参加者が居るのがわかった。しかし、マップの中の点が指す先は、崖の向こう。
 どうやら、この点……参加者は、崖の下にいるようだ。このマップは、平面に映し出されているため立体的にはわからない。
 崖下にいる相手が、自身の目の前にいると表示されている。

 陸也は、崖の下を確認する。その先は、深い森のようだが……人影が、二つ動いているのが見える。
 自衛隊として様々な訓練を行った陸也の視力は、遠くだろうが夜だろうが森の中だろうが、判別できる。

「ガキ……男と女……そんなに急いで、なにかから逃げているのか?」

 走っているのは、二人組の男女。高校生……いや、片方は大学生か社会人か。
 ああも急いでいるのは、なにかに追いかけられて、それから逃げている可能性が高い。他の参加者か、それとも獣か……姿は見えない。
 うまく木々に隠れて移動している。これが、遠くから見られる危険性を考慮して動いているのなら、獣ではありえないだろう。森に慣れた、参加者か……

 それに、他の場所でも動きが見える。すでに、殺し合いは始まっているのだ。

「こうしちゃいられねえな……俺も、混ぜてくれよ」

 始まっているデスゲームに、陸也は歪んだ笑顔を浮かべ……殺戮の世界へと、足を踏み入れていく。
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