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最終話 この先もずっと一緒に
しおりを挟むなんで、どうして……
次々湧き出る疑問は、尽きない。
それも、当然のことだろう。
目の前で、ニコニコと笑顔を浮かべて、手を振っているのは……
異世界にいるはずの、カリィなのだから。
「お前、どうして……」
足が、震える。声が、震える。
英治は覚えている……忘れるはずが、ない。
目の前で、まるで踊るように次々と仲間を殺していった姿を……
仲間を殺しているというのに、笑みさえ浮かべていた姿を……
「あー、エイジったら、やっと起きたんだね。
もうっ、心配したんだから」
「……っ」
それは、誰もが見惚れる笑顔……
男であれば、こんな笑顔を向けられれば一発で、落ちてしまうだろう。
しかし、英治の抱いている感情は、そんな甘ったるいものではない。
疑問が、恐れが、絶望が、英治をかき乱す。
カリィがいるのも、もちろんおかしい。が、さらにおかしいのはその姿だ。
今の彼女は、背も伸び胸も膨らみ……全体的に、大人びている。
彼女は……初めて会ったとき、多分高校生くらいだったと思う。
だが、今目の前にいる彼女は、英治と同じ……大学生ほどの容姿になっている。
そんな混乱の中、カリィは気にもした様子はなく……そっと、英治に近づいて……
耳元に、唇を寄せる。
「また会えて、嬉しいよエイジ♪
でも、勝手に居なくなっちゃうなんて、悲しかったよ?」
「!」
ゾワッ……と、背筋が震える。
それは、間違いなく……カリィは、あの異世界のカリィと同一人物であることを、決定づけていた。
他人の空似でも、まして幻想でもない。
しかも、それだけではない……
「お、まえ……どう、して……」
「なあに? 私がここにいる理由? 私がこの世界に来れた理由?
それとも……私が、エイジの幼馴染になってる、理由?」
まるで英治の心を見透かしたかのような、言葉。
どうしようもなく、震えが……止まらない。
今、まさにカリィが挙げたこと。
それらすべてが、英治にとって理解不能なことで、そして最悪だ。
「ふふ、さあ、どうしてでしょう。
あ、でも……あの王女様には、ちょっとお仕置きしちゃったかな? だって、勝手にエイジを帰しちゃうんだもん」
「っ、お前……!」
くすくす、と喉を鳴らして笑うカリィの言葉に、英治は一瞬あっけにとられ……次に湧いてくるのは、怒りだ。
思わず、目の前の女の胸ぐらを、掴み上げたくなる。
だが……
「しーっ?
あんまり変なことすると、カナちゃんに不審がられちゃうよ?」
「!」
指摘するのは、もう一人の……本来、英治にとって一人だけの幼馴染、花奈の存在。
今は小声で話しているが、もしなにか行動を起こそうものなら、花奈にも気づかれてしまう。
現に、今だってすでに、なにを話しているのだろうと気になっている様子。
「カナちゃんは、私にとっても大事な……大事な、幼馴染だから。ね?」
その笑顔は……英治を恐怖に陥れるには、充分だった。
カリィには、大切な仲間を殺したという、前科がある。
世界が違う……とはいえ、カリィがなにかの間違いで、花奈を手に掛ける理由だってあるのだ。
そう……これではまるで……
花奈を、人質にされたようなものだ。
「ねえ、二人してなに話してるの?」
「んー? なんでもないよ。
エイジが無事で、よかったなって」
なんの不信も抱かずに、花奈はカリィと会話をしている。
長年連れ添った……幼馴染として。
あぁ、なんたる悪夢だろう……
花奈の中では……いや、きっとこの世界では。
カリィは、英治や花奈と共に育ち、年を重ねてきた……幼馴染なのだ。
どういう手段を用いてか、この世界にやってきた。
どういう理由があってか、その容姿は英治と同年代へと成長した。
どういう理屈が通用したのか、彼女は英治と花奈の幼馴染として……ずっと、この世界で生きてきた。
記憶が、記録が……英治の知っているものと、変わってしまった。
「そういうカナちゃんこそ、エイジとずいぶん仲がいいじゃない?」
「え、そ、そんなことは、ないよー?」
「そんなことあるよー、幼馴染でも差があるって感じ?
本当……羨ましいよ」
「……!」
もはや、気を緩めることなどできないのかもしれない……
カリィの言動すべてが、英治を刺激する。
かつて仲間にやったように。
英治を手に入れるために、花奈にまで手を掛けることが……ないとは、言えない。
今の言葉に、そういう意図がなかったのだとしても……そう、考えてしまう。
どうして、こうなってしまったのか。
どこから、なにを間違ってしまったのか。
勇者として、あの世界に召喚されてから……もう、逃げられないと、決まっていたのだろうか。
たとえ世界を渡っても、彼女からは……カリィからは、逃げられない。
「英治? どうかした?
なんか、顔色悪いけど」
「え、そ、そんなことは……」
「まだつらいなら、私が付きっきりで看病してあげよっか?
エ、イ、ジ♪」
「!」
……平和な日常に。勇者になる前のいつもの日常に。
帰ってきた……はずだった。
だが日常は、英治の知っているものと姿を変えていた……
もう、逃げられない……それが、わかってしまった。
この先、一生……
「これからも、ずぅっと一緒だからね?
エイジ♪」
カリィからは……逃れることは、できない。
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