異世界病み記 ~そのヒロイン、好意が行き過ぎに付き~

白い彗星

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第七話 勇者は一つの選択をする

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「そんな……」

 話を終え、リエーラは驚愕に表情を染めている。
 当然だろう、この目で見た英治だって、まだ信じられないのだから。

 勇者パーティーの一人、信頼できるはずの仲間が、裏切り、他の仲間を殺した……
 そんな事実、聞いた話で誰が信じられるだろう。

 リエーラから、そんなの嘘だと糾弾されても、おかしくないだろう。
 だが……

「カリィ、様が……仲間を……」

「……信じてくれるのか?」

「これでも、一国の王女です。相手が嘘をついているかは、わかります。
 それに、エイジ様がカリィ様を貶める理由も、ありませんから」

 こんなバカげた話を、信じてくれた。
 それだけでも、英治にはいくらか救われた気分になる。

 が……問題は、カリィがどうしてそんなことをしたのかだ。

「わからないんだ、なんであいつが、あんなことをしたのか」

「……エイジ様からの話を聞いた限りでは、カリィ様はエイジ様をお慕いしていたように思います」

「……は?」

 その言葉に、英治はあっけにとられた。
 だってそうだろう。自分を好いてくれるのは嬉しいが、それが本当だとして、なんでみんなが殺されなければならない。

 それに、それが本当なら……

「……確かに、虫がどうとか、色目とか、意味わかんないこと言ってたけど……」

 リエーラの推測が当たっていたら……
 みんなが死んでしまったのは、英治の……

「ですが、エイジ様のせいではありません。
 いくら相手のことを恋焦がれていたとしても、それを理由に殺人など行っていいわけがありません」

 英治の中に浮かんだいやな気持ちを、リエーラは真っ向から否定する。
 誰かを好くのは当然のこと……しかし、それを理由に恋敵を殺してしまおうなど、言語道断だ。

 そこまで考えたところで、英治は……

「ところで……あいつは……?」

 思い出したかのように……いや、本当は意識しないようにしていた……この場に居ないカリィの所在を聞く。
 リエーラも話に参加している以上、カリィが隠れてこっそり話を聞いている心配は、ないと思うが。

「カリィ様は、お父様に呼ばれています。
 エイジ様が眠っている以上、詳しい話は彼女からしか聞けませんから」

「そうか」

 もし、カリィが仲間を殺すほどに英治のことを好いていたとしたら……
 この場に居ないのは、本人の意思ではありえない。
 誰かにこの場から離された、と考えるのが自然だ。

 しかし、用事が終わればすぐに、この場に戻ってくることだろう。
 そうなれば……今度こそ、英治は逃げることはできなくなる。

 そう……
 この場にカリィがいないのは、英治にとって逃げられる、最初にして最後のチャンスかもしれないのだ。

「……」

 その可能性に、リエーラも思い至ったのだろう。

 それから、無言の時間がしばらく続いたかと思えば……
 リエーラは、口を開いた。

「エイジ様、今すぐに元の世界に、お帰りになるべきです」

 英治の目を見て、はっきりとそう告げたのだ。

 以前、リエーラは言っていた。
 魔王を討伐する役割を終えた勇者は、元の世界へと帰還する……本人がここでの生活を続けたいなど、一部の例外こそあるが、過去の勇者たちは役割を終えると帰還していった。

 英治も、魔王を倒したあとのことを聞くと、元の世界へ帰ることを選んでいた。
 なので、リエーラも英治たちが帰ってくる頃には、元の世界へと帰れるよう、準備を整えておく手はずだった。

「元の……世界に」

「はい。エイジ様が戻ってきたら、落ち着いたところでお話するつもりでした。
 まさか、こんなことになるとは思いませんでしたが」

 それはそうだろう。
 勇者パーティーの一人が乱心し、仲間を殺して帰ってくるなんて、想像しようがない。

「信じてなかったわけじゃないけど……
 帰れる、のか?」

「はい、すぐに準備はできております。
 本来でしたら、もっと魔王討伐の式典など、開きたかったのですが」

 せっかく世界を救ってくれた英雄を、なんの労いもなしに帰すのは忍びない。
 しかし、状況はそうもいっていられないのだ。

 それに、英治としても式典などは、どうでもいい。
 せいぜい、共に旅をした仲間との別れを惜しむくらいだと思っていた……

 もう、別れを惜しむような仲間は残っていないが。

「最後に、リエーラと話せたしな……
 俺は、思い残すことはないよ」

 そして、決める……
 元の世界への、帰還を。
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