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第二話 勇者は異世界召喚に応じる

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 ……園原 英治そのはら えいじ。彼が異世界であるカサドランラに召喚されたのは、時を遡る。
 それは、突然のことだった。

 高校二年生、そんなごく平凡な学生だった彼が、下校中に地面からの謎の光に包まれ、気がついたらまったく違う世界にいた。
 まあよくある、話だ。少なくともフィクションの、中ならば。

「はじめまして、勇者様」

 混乱する彼にかけられたのは、鈴のように透き通る美しい声。聞く者すべての注意を、一挙に惹きつけるだろう声。
 英治もその例に漏れず、声の主を追い……目を、疑った。

 桃色のドレスに包まれた、麗しき少女。
 肩まで伸ばされた銀色の髪は、なにがなくとも輝いており、思わず触れてしまいたくなる。
 同時に、触れてしまうのはためらわれるほど。
 同じく銀色の瞳は、まるで見る者すべての心を見通すかのような、危うさを秘めていた。

 およそ、この世のものとは思えない人物に、英治は言葉を失った。
 が、彼女は英治のことを、こう言った。

「ゆ、うしゃ……?」

「はい」

「えっと……きみ、は?」

「これは、申し遅れました。
 私、このトロダンタ王国の王女である、リエーラ・フェル・トロダンタと申します」

 にっこりと、少女は……リエーラ・フェル・トロダンタは微笑みを浮かべた。
 心の臓が、高鳴るのを感じた。

 彼女の話は、どこかで聞いたことのある物語のようだった。
 世界を滅ぼす魔王が現れ、それを阻止するために異世界から勇者を召喚した……と。

「この世界では、数百年に一度、世界を滅ぼそうとする魔王が、現れるのです。
 その度、我ら一族は、異世界より勇者様を、召喚してきました」

「はぁ……」

 いきなりそんな話をされても、現実感がない。
 そもそも、どうして俺なのだ。

 飛び抜けて頭がいいわけでもない、運動神経がいいわけでもない、趣味といえばネットサーフィン……そんな、平凡な男だ。

 勇者に選ばれる理由など、見当たらない。

「俺なんかが……」

「なんか、ではありません。貴方だから、です」

 不思議と、その言葉には説得力があった。
 なんでもできるような、そんな気持ちにさせられる。

 なるほど、これが王女の器という、やつなのだろうか。

「けど、俺一人で?」

「無論、勇者様とてそのような無茶は言いません。
 現在、各地より魔王軍に対抗する人材を、集めているところです」

 リエーラが言うには、魔王を討伐するための勇者パーティーなるメンバーを、各地から集めているらしい。
 もちろん、リーダーは勇者である英治。

 彼と同行を共にする者として、それぞれの分野のエキスパートを集めている。
 剣士、魔法使い、神官……そういった、各面を極めた者たち。


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 ……そして、その数日後。

 勇者パーティーのメンバー選別は以前から行われていたのだろう、英治が思っていた以上に早く、メンバーは集められた。

「それではエイジ様、紹介します」

 召喚した頃は英治のことを勇者様、と呼んでいたリエーラだったが、本人の希望もあり今ではエイジ、と名前で呼ぶようになった。
 英治の前に立ち並ぶのは、四人の男女。

「私は、カリィ・ドラヴェール。よろしく」

 まず目を引いたのは、腰まで伸びた美しい金髪だ。
 剣士としての実力は折り紙付き。

「……リヤ・コネラ。よろしく」

 彼女は魔法術師。小柄ではあるが、身長ほどもある杖を握りしめ、無口な様子だ。
 黒いトンガリ帽子を目深に被り、黒いマントを羽織っている英治のイメージする魔法使いそのものといえる。

 魔法を使い、その道のエキスパートだという。

「俺は、ダニー・レオンハット。よろしくな」

 ガタイのいい、日焼けした肌が眩しいこの男は、気さくに笑いかけてくる。丸太のような腕は、抱きしめられれば骨が粉砕してしまうだろう。

「は、はじめまして。ぴ、ピアミア、です。よ、よろしくお願いします!」

 どこかおどおどした様子の彼女は、その実高位の神官だ。
 彼女には、家名がない。つまりは、平民だ。本来神官には貴族しかなれないらしいが、彼女の場合特例として、神官になることが認められた。

 おどおどした性格は、元からか、それとも周りが貴族ばかりだから萎縮してしまったのか。実際、平民である彼女を快く思わない者は多い。

「カリィ、リヤ、ダニー、ピアミア、ね。
 俺は園原 英治。よろしく!」

 ともあれ、彼女たちが、共に旅をする……勇者パーティーメンバー。
 今日ここに、勇者パーティーが結成された。
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