260 / 263
死に戻り勇者、因縁の地へと戻る
帰ろう
しおりを挟む王城での騒動が一段落して、数日……俺は、ディアと共に荷物を抱えていた。今日が、出発の時だからだ。
本当ならば、事件が解決したその日にでも出発したかったのだが……俺が無実だと知った人たちへの対応、なによりディアも一緒に来るためその準備期間で日を置くことになった。
魔王を倒しに冒険の旅へ、というわけではない。この国を出て、別の場所で暮らす……移住するのだ。
なので、荷物をまとめる以外にも、仲のいい友達とのお別れとか、いろいろあったみたいだ。
「……行っちゃうん、ですね」
「あぁ」
まだ、日も登ったばかりの時間……俺たちは、そこにいた。
国の入り口にまで見送りに来てくれたのは、リリーとメラさん。それに、ゲルド、ドーマスさん、ミランシェもいる。
寂しげな、それでも必死に表情を固めているリリーの頭に、そっと手を置く。
「今回は、ちゃんとお別れが言えた。こうして見送ってもらえるなんて、思ってなかったよ」
「……私本当は、今日が来ないといいな、って思ってたの。だって……」
「リリー……」
この日までに、俺たちを送り出すと決めてくれたリリーだが……やはり、いざ見送るとなれば気持ちの整理はつかないのだろう。
今にも泣きそうなリリーの肩を、メラさんが優しく叩く。
「お二人共、この度は本当にお世話になりました」
「いや、礼を言うのはこっちだよ。メラさんが危険を知らせてくれなかったら、そもそも俺はここに戻ってきてないんだから」
元々ここに戻ってきたのは、メラさんの『スキル』である分身から、リリーが何者かに刺されたと連絡を受けたからだ。
たまたまラーダ村に来ていた彼女たち。その経由で、リリーの危険を知って……戻ることを、決めたのだから。
だからこうして、みんなに会えたのだ。
「ロアも、シャリーディアも、元気でやれよ。また来たときには、顔出してくれ」
「ドーマスさんこそ、お元気で。今度は、定期的に帰ってきますね」
「……ま、この国から出ても元気そうだったから、心配はしていないけど」
「はは、なんかミランシェらしい言い方だな。そっちこそ心配いらなそうだ」
以前は、逃げるようにこの国を出てきたから……なんだか、こうして見送られるのは、照れくさいな。
ドーマスさんやミランシェとそれぞれ別れを済ませ、ふとゲルドと目があった。
「……まさか、ゲルドまで見送りに来てくれるなんてな」
「ま、気まぐれってやつだよ。てめえのその面も、拝むのは最後かもしれねえからな」
「最後って……言ったろ、ちょくちょく戻ってくるって……」
「どうだかなぁ、シャリーディアとしっぽりよろしくやって、俺たちのことなんざ忘れてるんじゃねえのか?」
「ね、ねえよ!」
なんてことを言い出すんだ、この男は。相変わらず時と場所を選ばないやつだ。
隣でディアが、顔を真っ赤にしているではないか。見ていてかわいいけれども。
「こほん。ったく……じゃあ、そろそろ行くとするか」
「そうだね」
あまり長く居ても、別れがつらくなるだけだ。
荷物を抱え直して、俺たちはみんなに背を向けて……
「二人とも……また、ね」
「……あぁ、また」
「うん、またね」
リリーの言葉を受け、軽く手を上げて、答えた。
振り返って見た彼女の顔は、寂しそうながらも笑顔を浮かべていた。
見送りを受けて、今度こそ俺たちは、歩き出す。
「ここからラーダ村まで、どれくらいかかるの?」
「俺がディアをおぶっていけば、そんなにかからないと思うぞ?」
「……それは、恥ずかしいから別の方法はない?」
恥ずかしいときたか……誰も見ていないし、いいと思うんだけどな。
とはいえ、ここから歩くとなると、さていつになることやら。俺だって全速力で走って移動してきたわけで……さすがに、のんびりと時間はかけられない。
なので、途中モンスターを捕まえて、乗せてもらうことにするか。
2
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる