死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
250 / 263
死に戻り勇者、因縁の地へと戻る

城内に起こる異変

しおりを挟む


「……ディア?」


 部屋を開けたその先に、ディアの姿はなかった。

 後ろに立つリリーに視線を向けると、リリーはゆっくりと首を振る。部屋の中にいない、その行く先に心当たりはないということだ。

 俺はもう一度、部屋の中を見る。


「……」


 少し躊躇しながら、俺は部屋の中へと足を踏み入れた。

 城内の部屋の内装に俺は詳しくはないが、これは多分普段通りの部屋なのだろう。

 部屋は荒らされた様子はなく、少し乱れたベッドのシーツも先ほどまでディアが寝ていたものだと考えれば、不思議はない。

 その証拠に、シーツに触れると、ほんのりと温かい。


「ディアは、自分からどこかに行った?」


 部屋の様子からも、またディアの実力からも無理やり誰かに連れ去られたとは、考えにくい。

 だが、自分からどこかへ行くとして、いったいどこへ……


「お姉ちゃん、いったいどこに行ったんだろう……」

「あぁ……っ、リリー!」

「え……きゃ!?」


 同じく部屋の中に足を踏み入れたディアが、あちこちと視線を巡らせる……その瞬間だ。

 先ほどまでは感じなかった殺気……のようなものを感じ、とっさにリリーの腕を引く。

 多少乱暴になってしまったが、そこは許してほしい。


「なんだ……!?」


 先ほどまでリリーがいた場所には、鋭く光る剣筋……剣が、振り下ろされていた。

 この暗い部屋の中に、潜んでいたのか。それも、寸前まで気配を感じさせずに。

 これじゃあ、まるでさっきの殺し屋……


「え……?」


 リリーに向けて剣を振り下ろした人物を見て、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。

 なんせ、その顔はつい、先ほど見たものだったから……


「同じ顔……?」


 そこにいたのは、先ほど倒した殺し屋と、まったく同じ顔。

 困惑すると同時に、理解もした。城に来るまでの間、俺はディアやリリー、メラさんの顔をした謎の集団に襲われた。

 あれは、おそらくなんらかの『スキル』により作り出されたもの。だとしたらこれも……


「作り出されたものだから、気配もないってわけか」

「え、あ、えぇ?」

「リリーは、そこから動かないで!」


 こいつの狙いは、間違いなくリリーだ。ならば、リリーを自由に動かさせるわけにはいかない。

 わかっていることは、二つ。

 ひとつは、こいつが『スキル』により作られたものだということ。そして、もうひとつ……作られたものは、コピー元の『スキル』を使えない。

 でなければ、先ほどディアのコピーたちに囲まれた時、もっと苦戦していたからだ。


「『スキル』が使えないなら……!」


 あの殺し屋の『スキル』は、【幻影】。それは直接の戦闘手段というよりは、相手を翻弄するために使われるものだ。

 あれはハマってしまえばこそ厄介だが……その『スキル』さえも使えないのなら!


「なにも、脅威じゃないんだよ!」


 さすがに身体能力は高く、何度か俺の繰り出す打撃をかわされたが……最終的に、その顔面に拳を打ちこんでやった。

 まさか、今の奴にディアがどうにかされた、とは思えないが……


「ろ、ロアお兄ちゃん、すごい……」

「あはは……どうも」


 とはいえ……まずいな。

 ディアだけじゃない、城内で人の気配がしない。メラさんも、ディアも、それ以外も……

 もはや、存在しているのは俺たちだけじゃないのかと、思わせるくらいに。


「リリー、なんか、変だ」

「変……?」


 少なくとも、城の警備はしっかりしているはずだ。侵入した俺が言っても説得力はあまりないが。

 だが、リリーの部屋には殺し屋が、客人のディアの部屋には殺し屋のコピーが……

 本来、ひとりの侵入者も許さないはずの警備が、機能していない。


「他の部屋も見てみよう」

「えっと……大丈夫?」


 リリーが心配するのは、俺の存在についてだ。俺は、この国じゃ手配されている……

 それが、国に戻ってきているどころか城内に居るとなれば、騒ぎになる。


「ま、見つかったらなんとかするさ。それに、騒ぎになったらなったで、人がいることが証明される」


 とにかく今は、現状の把握が必要だ。

 俺とリリーは手分けして、城内を見て回る。ひとつひとつ扉を開け、部屋の中を確認。

 廊下を歩いている間も、注意は怠らない。

 ……その、結果。


「……誰も、いない」


 合流したリリーは、青ざめた表情で言う。

 そう、俺もリリーも、人を見つけることが出来なかった。誰かがいた痕跡はあっても、それだけ。

 痕跡があるだけで、人自体がいないのだ。


「どうして……昨日は、ちゃんと、みんないたのに……」


 昨日……それは、俺の知らない時間での話だろう。

 リリーが眠りにつく前、ディアも、メラさんも、他のみんなも。人は、いたはずなのだ。

 それが……一夜明けて、人っ子一人消えただと?


「あり得るのかそんなこと」


 実際に起こっているのだから、それは疑いようもない事実ではあるが……

 ……俺とリリーは手分けして、城内を探した。残る、探していない場所は……この、王の間のみ。


「開けるぞ、リリー」

「うん」


 王の間……俺を、ゲルドに殺させようとし、指名手配した国王。リリーの父親がいる、部屋だ。自室というわけではないだろうが、この部屋には国王も兵士もいる。

 少なくとも、平時であれば。


「……」


 軽く深呼吸をして、扉を開ける。大きな扉だ、両手を使って、押し開ける。

 開いていく扉。その先に、広がっていた光景は……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...