死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁の地へと戻る

城内に起こる異変

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「……ディア?」


 部屋を開けたその先に、ディアの姿はなかった。

 後ろに立つリリーに視線を向けると、リリーはゆっくりと首を振る。部屋の中にいない、その行く先に心当たりはないということだ。

 俺はもう一度、部屋の中を見る。


「……」


 少し躊躇しながら、俺は部屋の中へと足を踏み入れた。

 城内の部屋の内装に俺は詳しくはないが、これは多分普段通りの部屋なのだろう。

 部屋は荒らされた様子はなく、少し乱れたベッドのシーツも先ほどまでディアが寝ていたものだと考えれば、不思議はない。

 その証拠に、シーツに触れると、ほんのりと温かい。


「ディアは、自分からどこかに行った?」


 部屋の様子からも、またディアの実力からも無理やり誰かに連れ去られたとは、考えにくい。

 だが、自分からどこかへ行くとして、いったいどこへ……


「お姉ちゃん、いったいどこに行ったんだろう……」

「あぁ……っ、リリー!」

「え……きゃ!?」


 同じく部屋の中に足を踏み入れたディアが、あちこちと視線を巡らせる……その瞬間だ。

 先ほどまでは感じなかった殺気……のようなものを感じ、とっさにリリーの腕を引く。

 多少乱暴になってしまったが、そこは許してほしい。


「なんだ……!?」


 先ほどまでリリーがいた場所には、鋭く光る剣筋……剣が、振り下ろされていた。

 この暗い部屋の中に、潜んでいたのか。それも、寸前まで気配を感じさせずに。

 これじゃあ、まるでさっきの殺し屋……


「え……?」


 リリーに向けて剣を振り下ろした人物を見て、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。

 なんせ、その顔はつい、先ほど見たものだったから……


「同じ顔……?」


 そこにいたのは、先ほど倒した殺し屋と、まったく同じ顔。

 困惑すると同時に、理解もした。城に来るまでの間、俺はディアやリリー、メラさんの顔をした謎の集団に襲われた。

 あれは、おそらくなんらかの『スキル』により作り出されたもの。だとしたらこれも……


「作り出されたものだから、気配もないってわけか」

「え、あ、えぇ?」

「リリーは、そこから動かないで!」


 こいつの狙いは、間違いなくリリーだ。ならば、リリーを自由に動かさせるわけにはいかない。

 わかっていることは、二つ。

 ひとつは、こいつが『スキル』により作られたものだということ。そして、もうひとつ……作られたものは、コピー元の『スキル』を使えない。

 でなければ、先ほどディアのコピーたちに囲まれた時、もっと苦戦していたからだ。


「『スキル』が使えないなら……!」


 あの殺し屋の『スキル』は、【幻影】。それは直接の戦闘手段というよりは、相手を翻弄するために使われるものだ。

 あれはハマってしまえばこそ厄介だが……その『スキル』さえも使えないのなら!


「なにも、脅威じゃないんだよ!」


 さすがに身体能力は高く、何度か俺の繰り出す打撃をかわされたが……最終的に、その顔面に拳を打ちこんでやった。

 まさか、今の奴にディアがどうにかされた、とは思えないが……


「ろ、ロアお兄ちゃん、すごい……」

「あはは……どうも」


 とはいえ……まずいな。

 ディアだけじゃない、城内で人の気配がしない。メラさんも、ディアも、それ以外も……

 もはや、存在しているのは俺たちだけじゃないのかと、思わせるくらいに。


「リリー、なんか、変だ」

「変……?」


 少なくとも、城の警備はしっかりしているはずだ。侵入した俺が言っても説得力はあまりないが。

 だが、リリーの部屋には殺し屋が、客人のディアの部屋には殺し屋のコピーが……

 本来、ひとりの侵入者も許さないはずの警備が、機能していない。


「他の部屋も見てみよう」

「えっと……大丈夫?」


 リリーが心配するのは、俺の存在についてだ。俺は、この国じゃ手配されている……

 それが、国に戻ってきているどころか城内に居るとなれば、騒ぎになる。


「ま、見つかったらなんとかするさ。それに、騒ぎになったらなったで、人がいることが証明される」


 とにかく今は、現状の把握が必要だ。

 俺とリリーは手分けして、城内を見て回る。ひとつひとつ扉を開け、部屋の中を確認。

 廊下を歩いている間も、注意は怠らない。

 ……その、結果。


「……誰も、いない」


 合流したリリーは、青ざめた表情で言う。

 そう、俺もリリーも、人を見つけることが出来なかった。誰かがいた痕跡はあっても、それだけ。

 痕跡があるだけで、人自体がいないのだ。


「どうして……昨日は、ちゃんと、みんないたのに……」


 昨日……それは、俺の知らない時間での話だろう。

 リリーが眠りにつく前、ディアも、メラさんも、他のみんなも。人は、いたはずなのだ。

 それが……一夜明けて、人っ子一人消えただと?


「あり得るのかそんなこと」


 実際に起こっているのだから、それは疑いようもない事実ではあるが……

 ……俺とリリーは手分けして、城内を探した。残る、探していない場所は……この、王の間のみ。


「開けるぞ、リリー」

「うん」


 王の間……俺を、ゲルドに殺させようとし、指名手配した国王。リリーの父親がいる、部屋だ。自室というわけではないだろうが、この部屋には国王も兵士もいる。

 少なくとも、平時であれば。


「……」


 軽く深呼吸をして、扉を開ける。大きな扉だ、両手を使って、押し開ける。

 開いていく扉。その先に、広がっていた光景は……
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