死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁の地へと戻る

警戒を続けて

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「自分を囮に犯人を誘きだす……その意見は、却下です」

「ぐぬぬぅ……」


 俺たちが考えていたことは、見事に当たっていたようだ。

 みんなのために、と考えるリリーらしいといえば、リリーらしいのだが……

 そんな危険なことは、させるわけにはいかない。


「で、でも、犯人の手がかりはなにもないんだし。だったら、少しリスクをおかしてでも……」

「リリー様、あなたはこの国の王女なのですよ。ご自分の立場を、よく理解してください」

「ん……」


 メラさんの言葉に、リリーは押し黙る。

 王女という立場の人間に、囮などという危険な役目を任せるわけにはいかない。

 いや、王女でなくとも、だ。俺にとっても妹のような存在……そんな子を、これ以上危険にはさらせない。


「リリーが危険な目に遭う可能性があるくらいなら、手がかりゼロの状態から地道に犯人を探すさ」

「ロアお兄ちゃん……」


 とはいえ、手がかりのない犯人……か。

 おそらく、というかほぼ確実に、城内でも犯人探しが始まっているはずだ。

 王女で、人柄もいいため人気の高いリリーが襲われたのだ。それを黙って見ているやつなど、いないだろう。


「俺はどのみち大っぴらには動けないから……城の連中を、利用させてもらおう」

「それって……メラさんを通じて、情報を得るってこと?」

「そゆこと」


 城の動きを、メラさんに見てもらう。そして、得た情報を知らせてもらう。リリーのお付きで、城内を自由に動けるメラさんしかできないことだ。

 俺は俺で、また別方向から調べてみるとするか。


「とはいっても、俺はこの国で自由に動けないんだよな……」


 考えてみれば、城内だけではない。この国で、俺は自由には動けない状態にある。

 俺は、兵士殺しの犯人として国内に指名手配されている。あれから、随分時間は経ったとはいえ……俺の扱いがどうなっているかは、わからない。

 その上、俺は『勇者』として顔が広まっている。見る人が見れば、一発でわかるだろう。


「変装とかして、情報集めに動くべきかなぁ」


 まあそもそも、リリーが危害を加えられた今回の一件は、国民には伏せられている。外で情報を、集められるはずもない。

 ……あれ、俺が戻ってきた利点が、今のところない……?


「……お兄ちゃん、どっか行っちゃうの?」

「え?」


 その時、不安げなリリーが、俺を見つめる。

 気丈に振る舞っていても……不安なのだ、やはり。襲われて、元気でいられるはずがない。

 もしも、俺がいることでリリーが、安心できるというのなら……それだけでも、俺が戻ってきた意味は、あるのだろうか。


「大丈夫だよ、とりあえずしばらくは、ここにいるつもりだから」

「……うん」


 なんていうか、昔とは違って女の子っぽくなったリリーにこう、おしとやかな表情を見せられると、ドキッとするな。

 ……いや、ただ新鮮だから驚いてるだけだ。だからディア、そうやって睨むのはやめてください。


「じゃあ、情報収集はメラさん。用心棒にロアって感じでいいんじゃない?」

「用心棒……まあ、似たようなもんか」


 元々、物騒なことが起こったら俺がリリーを守るつもりだったから……別に、いいんだけどさ。


「私も、いろいろ調べてみるわ」

「いろいろって……どうやって?」

「ま、神官のツテを使えば、なんとかなるってもんよ」


 権力万歳、と豊かな胸を張るディア。

 神官……それも、大神官ともなれば、一般には知らされていない情報も得ることができるらしい。

 しかも、ディアはリリーとかつて旅を共にした、仲間だ。


「じゃ、役回りはそんな感じで」

「ねえねえお兄ちゃん、お兄ちゃんどこか泊まるところあるの? もしよかったら……」

「いえ、城内はだめですよリリー様」

「教会……に匿うのも、難しいかも」


 そういえば、ファルマー王国に帰ってきてからのことを、全く考えてなかったな。リリーのことで頭がいっぱいだったからな。

 とはいっても……


「気にすんなよ、俺ならどこででも寝れるから」


 ラーダ村にたどり着くまで、俺は野宿とかもしていた。どこでだって眠れる。

 それに、誰にもバレないような場所なんて、そうそうないし。


「俺は俺で、なんとかするから」

「……うん」


 不安げなリリーだが、一応納得してくれたようだ。

 今後、なにが起こるかわからない。気を張り続けるのも危険だが、警戒は続けておかないとな。

 とりあえず今日は、誰かに見つかる前に、俺は城を出ることにした。





 ……そして、事態はこの翌日に、動き出すことになる。
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