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死に戻り勇者、因縁の地へと戻る

本物か偽物か

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 リリーの部屋……その中は、文字通り惨劇だった。

 ディア、リリー、メラさん……三人が、血を流して倒れている。それも、かなりの出血だ。見ただけで、かなり危ないのがわかる。

 その惨劇を作り出したであろう人物が……そこに、立っている。


「答えろ! お前は、誰だ!」

「……」


 再び問いかけるが、答えはない。ただ、仮面の目元から覗く目が、俺たちを冷たく見下ろしているだけだ。

 あいつに殴りかかりたいところだが……まずは、三人の様子を見ることが先だ。


「ディア、ディア! しっかりし……え?」


 あまり、激しく揺らしては逆に、体に負担になる。なので、まずは傷口を確かめるために、血が大量に滲んでいる場所に手を置く……が。

 なにか、おかしい。まだ、血は渇ききっていない……はずだ。なのに、液体に触れているような感覚は、ない。

 それに……床を濡らしている血も、触ってもその感覚がない……?


「ぷっ……あははは!」


 すると、なにがおかしいのか……仮面の人物は、急に笑い始める。

 こんな凄惨な状況に、似つかわしくない明るい笑い声。声は、男のものだろうか。


「なにがおかしい!」

「いやぁ、失敬。あなたがあまりに、真に迫っているものだからおかしくて」


 本当に、なにがおかしいのだ。仲間をこんなにさせられて、冷静でいられるわけがない。

 今にも仮面の人物に襲いかかってしまいそうだが、仮面の人物は手で俺を制す。


「落ち着いてください。"それ"、本物ではありませんから」

「……はぁ?」


 仮面の人物は、俺に落ち着けという。その上、これが本物ではない、だと? どういうことだ。

 俺が感じた違和感と、なにか関係があるのか?


「あなたも疑問に感じたでしょう? 血に触れているのに、まるでそこにはなにもないようだと」

「……」

「当然です。そこに、血は流れていないんですから」

「……は?」


 困惑する俺に、仮面の人物は立て続けに話す。なにを、言っているんだ?

 血は流れていないだと? しかし、現にこうして、血は流れ……


「……あれ?」


 そこまで考えて、気づく。いや、これはおかしいぞ?

 部屋は血に濡れ、ディア、リリー、メラさんは大量の出血をしている。それに、血はまだ渇いていない。

 そんな状態なのに……"血のにおいがしない"のだ。


「気づきましたか?」

「……お前の仕業か?」


 あまりに不可解な状況。しかし、この状況を作り出した人物が、目の前の人物であることに間違いはあるまい。

 俺は警戒を続けたまま、構える。


「そんな大げさなものじゃないですよ。これは、ワタシの『スキル』です」

「……『スキル』だと?」


 こんなことができるのは、なんらかの『スキル』によるもの。予想はしていた。

 問題は、それがなんの『スキル』かだ。


「えぇ。ワタシの『スキル』は【幻影】。その効果は、今目にしている通り」

「……げん、えい」


 淡々と話す、仮面の人物。【幻影】という名の『スキル』……それこそ、この状況を生み出している原因だ。

 つまり……血を流していないのに流しているように見せたり、血に濡れていない部屋を濡れているように見せることができる。というわけか。

 それは目を騙す『スキル』。だから、においは感じなかったのか。


「じゃあ、みんな無事なのか……」

「えぇ。気絶はしていますがね」


 パチン、と、仮面の人物が指を鳴らす。すると、凄惨だった現場が、まるでなにもなかったかのような、綺麗な景色に変わる。いや、戻る。

 みんなも、血に濡れていない。気絶は、しているが。


「お前、なんの目的だ!」


 だが、最悪の状況でなくなっただけで、警戒は解けない。三人を気絶させているのだ……それだけで、敵と認定するには充分だ。

 おまけに、リリーの部屋に侵入まで……ただ者じゃない。


「いや、特に目的はないですよ。ただ、少しあなたをからかってみたくて」

「ふざけるな!」


 からかうように笑う仮面の人物。俺は殴りかかるが……その場から、姿が消えた。


「! どこに……」

「今のも、ワタシの【幻影】の姿。そう言ったら、あなたは信じますか?」


 その言葉を、最後に……仮面の人物は、もう姿を現すことはなかった。
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