死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する

会いたくて会いたくて

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「私は……その日も、いつものように部屋にいたの。そしたら、夜遅く、窓の外からメラさんが来て……」

「え、いきなりそんな展開?」


 話し始めたディアの言葉の内容……俺が予想していたものとは、だいぶ違った。

 もっとこう、穏やかな感じになるのかと思っていたが……そんな、不法侵入みたいな導入から入るの?


「メラさんは、元は別の国々で怪盗やってたみたいだよ?」

「し、シャリーディア様。その話は……」

「あぁ、ごめんなさい。その話は置いておいて……」

「え、置いておく? すごい気になるんだけど」


 リリーの……一国の王女の給仕である女性が、元は怪盗? いったいなにがどうなって、怪盗が王女の給仕になれるっていうんだ。

 そんな俺の疑問は、さらりと流されていく。


「その経験を活かして、メラさんは教会にいる私に、会いに来てくれたの」

「そして、ロア様が生存しておられることを、伝えました」

「へ、へぇ」


 なんとダイナミックな伝え方だろう。

 とはいえ、それならば誰にもバレずに、二人だけで情報共有が可能だ。


「これまで、兵士チュナールは定期的に私に報告をしてくれていました。そして、ロア様の居場所は教えられないと言われましたが……」

「あぁ……定期報告のあった場所から、俺がいる場所を推測したわけね」

「はい」


 そうだ、うっかりしてた。ラーダ村の名前は伏せても、それ以外の情報も渡っているなら意味がないじゃないか。

 隣町の、セント町。そこで定期報告をしていて、その後場所は教えられないが俺を見つけたと報告すれば……町周辺に当たりをつけ、探すことだってできる。


「それで、私、ロアが生きてるって聞いて居ても立っても居られなくて……」

「……で、来ちゃった、と」

「そう!」


 片目を閉じ、舌を出すディアは悔しいがかわいい。なんにせよ、俺が生きていることを知り、こんな遠くにまで会いに来てくれたのだ。

 ……だが、それは不安も残ることであり。


「大丈夫なのか? 神官が……それも、大神官が、私用で教会を何日も留守にして」


 ファルマー王国からラーダ村まで、片道だけでもかなりかかる。往復となると……その間、教会を留守にして、果たして平気なのだろうか。

 普通の神官ならばいざしらず、ディアは大神官と呼ばれる存在だ。そんな存在が、教会を留守にしてもいいものだろうか。


「大丈夫。神官長に許可は取ったから」

「……なら、いいけど」


 そう言って笑うディアは、やはり俺の知っているディアだ。懐かしい。

 だが、その美貌とは裏腹に、ごつい黒い鎧を着込んでいるので、ギャップがすごい。


「えっと、その鎧は……」

「変装だよ。お忍びのつもりだし」

「ですよねー」


 大神官として、顔の知られたディアだ。そうでなくても、ディアはかなり目立つ。過ぎゆく人は老若男女問わずみんな振り返るくらいだ。それ故の、変装なのだろう。

 ……正直、目立つという点ではあの鎧もあまり変わらない気もする。悪目立ちという意味で。


「ま、それでいいならいいんだけど」

「でも、お二人でここまで来たんですか?」


 そこへ、今まで黙って話を聞いていたエフィが、言葉を挟む。

 護衛の兵士もつけずに、ファルマー王国からここまで、二人だけで。いくらお忍びとはいえ、それは危険すぎる旅路だ。


「大丈夫よ、これでも私勇者パーティーの一人なのよ」

「……まあ、そうだけど」


 確かにディアは、大神官という立場から弱々しいイメージはあるが……その実、精霊術師でもある彼女は攻守共に秀でた存在だ。

 勇者パーティーである上に、俺と同じく二度目の人生を送っている。経験値という意味でも、他とは一線を引いている。


「それに、メラさんも結構強いんだよ」

「いえ、そんな」


 ディアだけではない、メラさんもそれなりに戦えるらしい。このおとなしそうな人が?

 信じがたいが、見た目で言うならディアからそうだし……現に、二人は無事にここにたどり着けている。

 その実力は、あるということだ。


「でも、いいんですか? リリーのお付きの人が、リリーの側を離れて」


 彼女が、リリーにも信頼されているというのはよくわかる。だからこそ、リリーの側を離れていいのか、という疑問がある。


「問題ありません。これは分身体なので」

「ぶん……しん……」

「たい?」


 聞き慣れない言葉に疑問を浮かべる俺とエフィに、メラさんは説明してくれる。

 それは、メラさんの『スキル』である【分身】によるものだと。メラさんを二人に【分身】させて、片方をリリーの側に。片方をこの場に、ということらしい。

 なんとも便利な『スキル』だ。だが、【分身】の人数を増やせば増やすほど、操作も難しくなるという。あくまでも、分身体を動かしているのは本体なのだから。


「ははぁ……まあ、ざっくりとは理解しました」

「はい」


 結局のところは、俺の生存を知ったディアが、こうして会いに来てくれた……ということだ。なんというか、自分のために、こんな遠い距離を会いに来てくれたというのは、嬉しいものがあるな。

 俺を生かして逃がすために時間退行の力を使い、なにより好きだと言ってくれた女性。ディア。

 そんな彼女は、ニコニコしながらなぜかエフィを見つめていた。
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