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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
混戦
しおりを挟む元勇者パーティーメンバーゲルド、魔王と人間の娘ガリー、魔王を討ち取った村人商人チマ……
こうして並べると、なかなかにクセの強い三人。対峙するゲルドとガリーの仲裁をするかのように間に入ったチマの三人は、膠着状態となっている。
「てめぇにも会いたかったぜ、透明野郎」
凶悪な笑みを浮かべ、手に持つ短剣その刃部分を舐めるゲルド。あれ昔もよくやってたが、舌切らないんだろうか。
「……私は、そうでもなかったんですがね」
本来ならば、もう出会うことのなかっただろう二人。商人であるチマはあちこちの場所に行くだろうが、ファルマー王国にまで行くことはおそらくないだろう。
そして、ファルマー王国から出てもそう遠くまで行くことはないだろうゲルド。ゲルドが任務で、セント町に来ることがなければ……そして、アーロの情報を得るようなことがなければ……
「……?」
そんな二人を、ガリーは疑問を浮かべた表情で見ている。ゲルドのことは、勇者パーティーのメンバーだと知っていたようだが、チマのことは知らないのだろう。
その知らない男が、自分の父親を殺した人物だとわかるはずもないだろう。
「……あーもー、なんでこうも次々と……!」
ただでさえゲルドの出現に、俺は困惑していた。一時は本気の殺し合いになったほどだ。
ヤタラさんの『スキル』のおかげで、なんとか事なきを得てゲルドたちに帰ってもらおうとしていたところに……謎の光が、【消滅】の力が表れた。
その力の主を探し出し、ここまで引っ張ってきた。彼女の正体を明かしたところでゲルドが目を覚まし、今度は二人が本気の殺し合い。
そんな二人を止めたのは、二人にとって浅からぬ因縁があるチマ。助かったのか助かっていないのか、実際のところわからない。
「アーロさん……大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……うん、なんとか」
俺の苦悩を察してくれているのか、エフィは心配そうに問いかけてくれる。あぁもう、やっぱりいい子だなぁ。
今は停滞しているこの状況、いつ事態が動いてもおかしくはない。くそ、なんて面倒な。俺はただ平穏にひっそりと生きていきたいだけなのに。
……こうなったら三人ともを、記憶がなくなるくらいにぶん殴って……
「はっ! いかんいかん!」
そこで、自分の中に暴力的な考えが生まれていることに気づく。ぶん殴って解決すればいいなんて、なんて暴力的な……ゲルドじゃないんだから。
本来なら、ここで俺が出ていって適当に丸め込めることができればベストなんだろうが……ゲルドの【鑑定眼】のせいで、近づけないし。
「なにしに出てきたか知らねぇが……!」
「うぉっ!」
そんな間にも、事態は動いていく。ゲルドは躊躇なく得物を振るい、それをチマは間一髪と避けていく。
「はっ! 反応はいいみたいだなぁ!」
「ちょ、まっ……戦う、気は……!」
振り乱される剣の乱舞、それをチマは次々と避けていく。反射神経も、いいようだ。
不意をついただけで、魔王を殺せるとは思えない。実力も、確かにあるということだ。
「ははっ、いいぞ! もっと俺を楽しませろ! てめえがあそこにいた理由を聞くのは、その後だ!」
「くっ……」
直後、チマの姿が消える。『スキル』を使い、透明になったのだ。気配も消せば、誰にも察知することはできない。
……本来ならば。
「! そこ!」
「っ……ぐぁ!」
ゲルドは辺りを見回し、ある一点に短剣を投げる。なにもない場所に投げられた短剣はただ空を切るだけ……かと思われた。
しかし、そこになにかがあるかのように、飛んでいた短剣は止まった。そして、なにもないはずの所から赤い液体が、流れていく。
「えっ、チマ兄……!?」
透明だったチマの姿が露になる。チマは右肩を押さえており、そこには短剣が深々と刺さっていた。
たとえ透明になり見えなくても、ゲルドの【鑑定眼】はそこにあるものを見抜く。見えていようがいまいが、関係ないのだ。
このままでは、チマはなぶられるだけだ。それは、エフィに悲しい顔をさせるということになる。
……仕方ないか。
「てめぇじゃ俺からは逃げられねぇよ。おとなしくぶら!?」
「……!」
ゲルドは、言葉を途中で切る。それはなぜか……喋っていた最中、顎に強い衝撃を受けたからだ。それは、俺がゲルドの顎を下から殴り上げたからだ。
ゲルドはチマに意識を向けていた。意識の外からゲルドの懐に潜り込み、顎を打ち上げた。
【鑑定眼】に見られれば、俺の正体がバレる。ならば……バレないスピードで、ゲルドを倒せばいいだけだ。
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