死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁と対峙す

対峙の理由

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 光が放たれた方向……そこを目的とし、俺は走る。

 チュナールさんに来てもらったほうが心強いのは確かだが、それをしない理由としては本人に話した通り。あとは……

 単純に、足手まといだ。


「このスピードにはついてこれそうにないし……」


 【勇者】の力を使い全速力で走れば、それこそ常人には追いつけない。そして、俺が相手に合わせるつもりもない。

 誰かが一緒であれば、一人よりも心細くはない。だが、今このときは、なによりも素早い対処が求められた。


「まだそこにいるかは疑問だけど……わっ!」


 先ほど光が放たれて、ずいぶん経つ。警戒して動けなかったが、その間に光を放った『誰か』がいたとすれば、その誰かがまだそこにいるかは疑問だ。

 もう、逃げているかもしれない……そう思っていたときだった。正面、遠くからキラッとなにかが光り……続けて、先ほどのものと同じ光が、俺を目掛けて放たれた。


「っとと、あぶな……って、またか!」


 触れたら消滅するとはいっても、光の動き方は直線上のものだ。スピードはあるが、必ず光が放たれる前にキラッと光るので、注意していれば避けるのに苦労はない。

 だが一度避けたところで、安心はできない。続けざまに二発、三発と放たれる。


「俺を、狙ってる……?」


 俺は【勇者】の力で、かなりの速度で走っている。そんな俺を、正確に狙い撃つだと?

 いや、それだけではない……避ける、それは簡単だ。だが、避けた光はどうなる?

 俺を狙って放たれた光だ、当然、俺が避ければ光は俺という狙いを失い……ただいたずらに、消滅の力を振るうだけだ。


「避けたら、避けた先で光の影響で誰かが消滅するかもしれない……やってくれるな、くそ!」


 これでは、むやみに光を避けることもできない。かといって、諦めて触れてやることもできない。

 光がどの程度の距離まで放たれるのかはわからないが……少なくとも、あそこからラーダ村までの距離は、持続すると考えていい。


「チュナールさんを信じるか……」


 万が一、ラーダ村に被害があるかもしれない。置いてきた、兵士に任せるしかないか。

 とはいえ、このまま光を避けても、どこかで被害が出る可能性はある。


「だったら……!」


 俺は、地面から飛び上がり、空へ向けて高く高く跳躍する。空ならば、光を放たれても地上への影響はないだろう。

 また、空なら自由に動けない……と思うかもしれないが、【勇者】の『スキル』は空中でもある程度動くことが可能だ。


「よっ、はっ」


 空中で軽く体を捻りながら、光を避けていく。そのまま、光の出どころへと近づいていき……


「そこ!」

「!」


 目の前にあるのは林……その茂みに隠れた何者かに、飛び蹴りを放つ。

 だが寸前に、避けられてしまった。反射神経がいいらしい。


「見つけた……お前か、あの光を放っていた奴は」

「……」


 対峙したのは……黒いマントを羽織り、フードを被り顔を隠した人物だ。見るからに怪しげなその人物は、しかしなにもしゃべらない。

 ここから、ラーダ村にいた俺たちを狙い、さらに迫る俺を正確に狙っていた……とんでもなく目がいいのか。とても当てずっぽうだけでやっていたとは、思えない。


「お前、なにが目的だ? なんのつもりであんなことを?」

「……」


 答えない。だが、答えずに済む問題ではない。あの光のせいで、人が死んでいるのだ。

 バングーマさんたち、兵士が……死体も、残らずに。


「あの光はお前の仕業だろ。なんとか言ったら……」

「……あなたを、殺す」

「は……?」


 ようやく聞こえた声は、どこかこもったような声だった。まるで仮面でも付けて、声がこもっているかのようだ。

 そう言ったマントの人物は、俺に向けて右手を掲げた。直感的に、ヤバいと感じる。

 直後、右手が光り……俺は、とっさに右方向へと飛んだ。


「っ!」


 マントの人物の右手からは、先ほどと同様の光が放たれ……光に呑み込まれた木々は、消滅していた。

 実際に、光を放つ場面を見ると、冷や汗が流れるな。


「……それが、あんたの『スキル』か」


 人もものも構わず消し去る光。そのような超常的で物騒な力、『スキル』以外にはありえない。

 マントの人物は、再び右手を掲げる。しかし今度は、光らない。


「……私の『スキル』は、【消滅】。あなたを殺すための、『スキル』」


 自分から、『スキル』の名前を言うとは……それにしても、【消滅】か。文字通りというか、物騒なんてもんじゃないぞ。

 どういうわけか俺を狙っているようだが……ラーダ村で、隠れたり一人突っ立ってみたり反応を伺っていたときになにもしてこなかったのは……向こうも、俺を観察していたってことか。


「悪いが俺は、平和的に暮らしたいだけなんだ。物騒なもんに狙われる理由は……」

「……問答、無用!」


 俺の話を聞かず、マントの人物は突っ込んでくる。このやろう、聞く耳持たずかよ!

 なかなかに素早いが、ゲルドやドーマスさんに比べればなんということはない。接近されても、うまく距離を取る。

 反撃したい、ところだが……注意すべきはあの手だ。【消滅】の力がある以上、迂闊に触れることも、手のひらを向けられることも注意しなければ。


「っく……!」


 こいつ……強い! 小柄であることを活かし、小回りの効く動きをしてくる。それに、素早さの足りなさを体の回転で補っている感じだ。

 戦い慣れしている、のだろうか。


「お前を、殺す……勇者、ロア! 父上の、仇!」


 俺を睨みつけ、憎々しげに告げるマントの人物。接近戦のおかげか、フードの中身が見えた。真っ白な、仮面を付けている。

 仮面の隙間から、目元が見え……そこからは、涙が流れているように、見えた。


「は……かたき……?」


 その言葉の意味は、まったくわからない……
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