上 下
176 / 263
死に戻り勇者、因縁と対峙す

元気でやっている

しおりを挟む


 ファルマー王国に、戻るか戻らないか……その選択を、迫られる。それは、俺だって何度か考えたことのある問題だ。

 それに、今回は真実を知る他の人間がいる。ゲルドを捕まえたまま、国に帰って、兵士のみんなから真実を話してもらえば……状況は、変わるだろう。

 無論、国王を信じて俺のことなどやはり処刑してやる、という声もあるかもしれないが。


「……気持ちはありがたいけど。俺は、戻らない」


 だが、今は……なにをどう考えようと、俺の答えは決まっている。


「なっ……どうして!」

「俺はもう、ラーダ村の人間だから」

「っ……」


 エフィが、俺のことを村の一員だと思ってくれているように。俺だって、もう村の一員だと思っている。

 それに元々、国を出たらもう戻ることはないと、思っていた。今更疑いを晴らそうとも、思わない。


「しかし、それではリリー様が……」

「リリーになら、いいです。俺が生きて、元気に暮らしてることを伝えても。でも、できれば場所までは、秘密にしておいてもらいたいです」


 リリーは、幼く小心者だった。だが、ここ一番というところで、妙な度胸があった。

 もしも俺の居場所を知れば、たとえ止められてもそこへ行くのではないか……そう、思ったからだ。


「……本当に、いいのですか?」

「会いたい気持ちはありますけどね。でも、それがきっと、お互いのためです」


 王女としてのリリーの今後を思うなら、俺とはもう会わないほうがいい。俺が指名手配犯だから……ではない。まあ、指名手配犯が本当なら、会わないほうがいいのは当たり前なのだが。

 会わないほうがいい理由……それは、俺を指名手配犯に仕立て上げたのは、ザーラ国王。リリーの父親だからだ。

 国王が勇者を貶めたなんて、国民に公になればその地位はまたたく間に落ちる。別に、俺をハメた人間がどうなろうと知ったこっちゃないが……


「リリーには、国民を導く、いい王様になってほしいんですよ」


 ザーラ国王が人々からの信頼を失えば、その影響はリリーにも影響するかもしれない。子供だから、汚い国王の血を引く者だから……理由は、それだけかもしれない。

 だが、リリーがなにをしていなくても、彼女自身に被害が及ぶことはある。それが、王族なんて立場ならなおさらだ。なにが、彼女にとって傷となるかわからない。


「しかし、リリー様は国民を導くのと同様に、いやもしかしたらそれ以上にロア様と……いえ、なんでもありません」


 チュナールさんが、何事か言おうとする。それは、リリーならばたとえ王族の地位を蹴ってでも、俺と会いたいと考えるのでは……というものだ。

 俺も、そう思わないでもない。だけど、ダメだ。


「……リリーは、言ってたんです。いつか、お爺さま……先代国王のザラドーラさんみたいに、立派な王様になると」

「……リリー様が?」

「えぇ。こっそり教えてくれました」


 旅の最中だった。リリーは、祖父であるザラドーラ国王を尊敬し、自分もいつかあんな風に立派な人になりたいと言っていたのだ。

 恥ずかしげに語るその姿は、自分より年下でありながら、自分よりも大きな存在に見えた。


「そんなリリーにとって、俺の存在は邪魔にしかなりませんよ」

「……」


 たとえ、リリーが関わっていまいが関わっていようが、関係ない。ザーラ国王の行いが、そのままリリーにも影響する可能性は大きいのだ。

 そう考えると、俺がリリーに会えないのは、いや帰れないのはあのおっさんのせいなのか。まあどのみち帰るつもりはないんだけど。


「……わかりました。ロア様がそのようなお考えなら、私から強制することはできません」

「すみませんね」

「しかし、せめてロア様が元気でおられるということは……」

「えぇ、伝えて構いませんよ」


 俺のことを気にして日々悩んでいるのなら、せめて俺が元気でやっていることくらいは伝えてもらってもいいだろう。

 あとは、残りの三人……は、大丈夫だろう。バングーマさんが、うまく口裏を合わせるように、言ってくれるはずだ。今だって、四人でなにか話しているようだし。

 となると……やはり、問題はゲルドか。


「ぅ……んん……」


 気絶したままのゲルドに視線を向けた、その時だ。気絶していたゲルドが、小さく声を漏らし……うっすらと、目を開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

敗北ルートが悲惨すぎる悪役令嬢の飼い猫に転生しました~ご主人様は天使なので絶対破滅させません~

砂礫レキ
ファンタジー
彼氏いない歴イコール年齢のアラサー。趣味は乙女ゲーとネットの完全インドア女。それが生前の私だった。 ある日、飛び降りた人間の下敷きになって死んだ私は何故かニッチな乙女ゲー世界に子猫として転生した。 困っていたところを心優しい美少女に拾われて飼われることになる。 この天使な女の子の正体は悪役令嬢のベアトリス。 数年後にヒロインである義妹に婚約者を奪われて自殺をする運命にあるキャラクターだ。 そう、この乙女ゲーはヒロインが他の女性キャラクターからパートナーのイケメンを略奪する極悪仕様だったのだ。 ご主人様の悲惨な運命を回避するべく元人間な猫の奮戦が今始まる。モフリもあるよ!

処理中です...