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死に戻り勇者、因縁と対峙す
元気でやっている
しおりを挟むファルマー王国に、戻るか戻らないか……その選択を、迫られる。それは、俺だって何度か考えたことのある問題だ。
それに、今回は真実を知る他の人間がいる。ゲルドを捕まえたまま、国に帰って、兵士のみんなから真実を話してもらえば……状況は、変わるだろう。
無論、国王を信じて俺のことなどやはり処刑してやる、という声もあるかもしれないが。
「……気持ちはありがたいけど。俺は、戻らない」
だが、今は……なにをどう考えようと、俺の答えは決まっている。
「なっ……どうして!」
「俺はもう、ラーダ村の人間だから」
「っ……」
エフィが、俺のことを村の一員だと思ってくれているように。俺だって、もう村の一員だと思っている。
それに元々、国を出たらもう戻ることはないと、思っていた。今更疑いを晴らそうとも、思わない。
「しかし、それではリリー様が……」
「リリーになら、いいです。俺が生きて、元気に暮らしてることを伝えても。でも、できれば場所までは、秘密にしておいてもらいたいです」
リリーは、幼く小心者だった。だが、ここ一番というところで、妙な度胸があった。
もしも俺の居場所を知れば、たとえ止められてもそこへ行くのではないか……そう、思ったからだ。
「……本当に、いいのですか?」
「会いたい気持ちはありますけどね。でも、それがきっと、お互いのためです」
王女としてのリリーの今後を思うなら、俺とはもう会わないほうがいい。俺が指名手配犯だから……ではない。まあ、指名手配犯が本当なら、会わないほうがいいのは当たり前なのだが。
会わないほうがいい理由……それは、俺を指名手配犯に仕立て上げたのは、ザーラ国王。リリーの父親だからだ。
国王が勇者を貶めたなんて、国民に公になればその地位はまたたく間に落ちる。別に、俺をハメた人間がどうなろうと知ったこっちゃないが……
「リリーには、国民を導く、いい王様になってほしいんですよ」
ザーラ国王が人々からの信頼を失えば、その影響はリリーにも影響するかもしれない。子供だから、汚い国王の血を引く者だから……理由は、それだけかもしれない。
だが、リリーがなにをしていなくても、彼女自身に被害が及ぶことはある。それが、王族なんて立場ならなおさらだ。なにが、彼女にとって傷となるかわからない。
「しかし、リリー様は国民を導くのと同様に、いやもしかしたらそれ以上にロア様と……いえ、なんでもありません」
チュナールさんが、何事か言おうとする。それは、リリーならばたとえ王族の地位を蹴ってでも、俺と会いたいと考えるのでは……というものだ。
俺も、そう思わないでもない。だけど、ダメだ。
「……リリーは、言ってたんです。いつか、お爺さま……先代国王のザラドーラさんみたいに、立派な王様になると」
「……リリー様が?」
「えぇ。こっそり教えてくれました」
旅の最中だった。リリーは、祖父であるザラドーラ国王を尊敬し、自分もいつかあんな風に立派な人になりたいと言っていたのだ。
恥ずかしげに語るその姿は、自分より年下でありながら、自分よりも大きな存在に見えた。
「そんなリリーにとって、俺の存在は邪魔にしかなりませんよ」
「……」
たとえ、リリーが関わっていまいが関わっていようが、関係ない。ザーラ国王の行いが、そのままリリーにも影響する可能性は大きいのだ。
そう考えると、俺がリリーに会えないのは、いや帰れないのはあのおっさんのせいなのか。まあどのみち帰るつもりはないんだけど。
「……わかりました。ロア様がそのようなお考えなら、私から強制することはできません」
「すみませんね」
「しかし、せめてロア様が元気でおられるということは……」
「えぇ、伝えて構いませんよ」
俺のことを気にして日々悩んでいるのなら、せめて俺が元気でやっていることくらいは伝えてもらってもいいだろう。
あとは、残りの三人……は、大丈夫だろう。バングーマさんが、うまく口裏を合わせるように、言ってくれるはずだ。今だって、四人でなにか話しているようだし。
となると……やはり、問題はゲルドか。
「ぅ……んん……」
気絶したままのゲルドに視線を向けた、その時だ。気絶していたゲルドが、小さく声を漏らし……うっすらと、目を開けた。
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