死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁と対峙す

【勇者】追加能力

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 お前は何者だ……そう、目の前のゲルドに問いかけられた。

 何者だ……そう問いかけられても、俺が出せる答えは一つしかない。


「俺は……俺だよ、ゲルド……!」

「! ……ちっ」


 だが、ゲルドが聞きたいのはそういうことではないのだ。現に、ゲルドから込められる力がいっそう強くなる。

 ゲルドは言った。俺がお前を殺そうとするのを、お前はわかっていた……と。なぜ、それがわかったのかと。

 その理由を、ゲルドは問うたのだ。だが、真実を話したところで信じられる話でもないし、また誰にもこの真実を話すつもりはない。


「くっ、おぉ……!」


 俺は一度死んだ……ゲルドに、殺された。その事実をなかったこととして、ディアが俺が殺される未来から守ってくれるためだけに、時間を巻き戻した。

 おかげで俺は、前世でゲルドに殺された経験を活かし、警戒していたおかげで、また殺されずに済んだ。

 ディアの力は一度きり。今度こそ、殺されてはやり直しが効かないのだ。


「俺に、殺されるとわかってたなら……! なんだったんだ、あの態度は……!?」

「あぁっ?」

「旅の最中……俺を、警戒する様子すらなく、のんきな頭で絡んできやがって! それとも、俺に狙われてると悟らせないために、わざとあんな能天気に振る舞ってたのか……いつから、気づいてやがった!」


 まずい……腕の力が、入らなくなってきた。刃がどんどん近づいて……額に、チクッと当たりやがる……!

 この、ままじゃ……!


「んっ……ぬぅうう、うぉおおお……!」

「! てめっ……」


 このまま為す術もなく、殺されてなるものか……その気持ちが、そして頭の中でディアの顔が大きくなり、自分でも思ってもみない力が体の内から湧き上がってくる。

 ゲルドの体をゆっくり、ゆっくりと……持ち上げていき……


「ぅ……らぁ!」


 力の限りで、ゲルドの体をふっ飛ばす。俺も、ゲルドも予想していなかった力で、なんとかゲルドを引き離した。

 うっ……身体中ガ、いてぇ……!


「っち……てめぇ、どこにそんな力、隠してやがった……!」

「いっ……てて……さあな」

「ちっ……それも【勇者】の力ってわけかい」


 自分でも、よくわからないが……火事場のクソ力、というやつだろうか。身体能力を、極限にまで引き上げる。今まで、ここまで追い詰められ、命の危険を感じることはなかった。

 だからだろうか……自分の中から、こんなにも力が溢れてきたのは。

 体は痛いが、まだ力は出せる。


「へへ、いいぜ……まだまだ楽しも……!」

「……」


 自分で、思っていた以上の力が、速度が出る。立ち上がり、ゲルドの懐へと一気に駆け抜けた。

 なぜだろう、周りの流れる景色が、急にゆっくりになったような……


「はや……っぐは!?」


 驚いた様子のゲルドを尻目に、俺はゲルドの頬を思い切りぶん殴った。ゲルドなら避けるかもと思ったが、避けることはなくくらった。

 そのまま、ゲルドは後ろへとよろめき倒れる……のを、襟を掴み上げて強引に引き戻す。

 そして、もう一度ぶん殴る。


「ぐぅ……!」


 抵抗しようとしたらしいゲルドだったが、痛みに顔を歪ませる。これ以上、好き勝手させるわけにはいかない。

 俺は襟を掴んだまま、ゲルドを押し倒す。ゲルドの腹の上に馬乗りになり、先ほどとは逆の状態だ。

 マウントを取り、動けないゲルドの顔に……拳を、打ち付けていく。何度も、何度も。


 『スキル』【勇者】の能力
 ・身体能力の向上
 ・耐久力の向上
 ・自己回復力の向上
 等々……………………
 →追加能力:生命の危機に瀕した際、一時的に身体能力が劇的に上昇。後に反動あり
 その際、攻撃的な衝動に呑まれる危険性あり。注意が必要


 何度も、何度も、何度も拳を打ち付ける……ゲルドの頬が腫れ上がり、地面にひびが割れても、なお。

 そうだ……こいつは、俺の命を狙っていたんだ。一度ならず、二度までも……どうして、話し合いで解決しようと思っていたんだろう。

 どうして、自分を殺した相手に背中を預け、一緒に旅をしていたんだろう。

 ここでこいつをフォルマー王国に逃がしたら、俺が生きていることが国王の耳に入る。そうしたら、今度はもっとたくさんの兵士が送り込まれてくるかもしれない。

 そうしたら、この村の人たちに迷惑がかかる。俺も、この先ずっと命を狙われ続ける。

 そうなるくらいなら、いっそ……


「やめて!」

「!」


 …………手が、止まった。なんだか、もやもや……いやぐちゃぐちゃした感情が渦巻いていたが、その中に声が、ストンと入ってきた。

 あれ、なんだ……俺は、今……


「もうやめてください、アーロさん!」

「……エフィ?」


 声のした方向には、エフィが立っていた。なんでここに……それに、なんて顔を、しているんだ?

 怯えている……いや、悲しそうな、顔だ。そんな顔を向けられるのは、俺は初めてで……


「ぅ……」

「え?」


 下から、声がした……下?

 恐る恐る、首を動かす。俺は……ゲルドの上に、馬乗りになっていた。それだけではない……ゲルドの顔は腫れ上がり、そして俺の拳は……


 ……血に、染まっていた。
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