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死に戻り勇者、因縁と対峙す

お人好し

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「ロアお前……この期に及んで話し合いをとか、考えてるんじゃねぇだろうな?」


 不意に、ゲルドが口を開く。それは……まるで、俺の考えを見透かしたかのような言葉で。

 思わず、身構えてしまう。


「ははっ、甘えな……それとも、俺が本気じゃねぇとでも、思ってんのか?」

「俺は……」

「おいおっさん! 俺の武器を出せ!」


 ゲルドは、バングーマさんへと叫ぶ。武器を出せ……彼が、ゲルドの武器を持っているのか?

 しかし、見たところ武器を隠し持てるような格好では、ないが……?


「え、いや、あの……状況が、その……」

「言ってんだろ、あいつはてめえらの仲間殺して逃亡したロアだ! 指名手配犯……犯罪者を俺が捕まえてやろうってんだ。いいからさっさと出せ!」

「は、はい!」


 まだ状況を飲み込めていない兵士たち。その中で、バングーマさんはゲルドに急かされる形で、動き出す。

 なにもない空間へと、手を伸ばしたかと思えば……


「空間が……開いた?」


 まるで、ポケットのようにそこが開き、中に手を突っ込んでいく。そして、なにかを取り出す……それは、二刀の短剣だ。ゲルドがよく、愛用していた類の武器だ。

 武器は持っていなかった……それは、持つ必要がなかったからか。


「便利だろぉ、このおっさんの『スキル』は【空間収納】、でな!」

「!」


 短剣を手のひらでくるくると回していたゲルドが、とたんに俺に突っ込んでくる。こいつ、容赦なしか!

 すぐに俺の懐に入り込んできたゲルドから、振るわれる短剣。それをかわしていくが……


「どしたぁ! 動きが鈍くなってんじゃねぇか!?」

「くっ……!」


 完全にかわすには至らず、頬に、体に、切り傷が刻まれていく。

 ゲルドは、相変わらず……いや、以前よりも動きのキレが増している。そして俺は……動きが、悪くなっている?

 ゲルドの動きは見えていても、体がついていくのが、やっとだ。


「こんな田舎暮らしで、なまってんじゃねぇのか!?」

「っ……」

「驚いたぜ! てめえが生きてることも、こんな所で会ったことも、てめえがアーロだってことも! 確かにてめえなら、セント町での功績も納得だ! モンスターの生態調査なんざつまらねぇ任務だと思ってたが、まさかこんなサプライズがあるとはなぁ!」


 ゲルドの猛攻は、容赦がない。俺も、避けるので精いっぱいだ。

 ゲルドの言う通り、ラーダ村での暮らしで体がなまってしまっているのだろうか。だが、俺はそれが悪いことだとは思わない。俺は、望んでこの生活を手に入れたのだから。

 だが、結果としてここでの生活は、俺から以前ほどの身体能力を奪っていたようだ。


「落ち着けゲルド、俺は話を……!」

「甘え甘え! この期に及んでなにを言ってやがる! お前は命を狙われてんだぞ、お人好しどころかこのバカが! お前の動きなら俺ァ全部わかってる!」

「ぐっ……!」


 剣さばきにばかり注意していたためか、簡単に腹部への蹴りを許してしまう。鋭い蹴りに、腹部がじわじわと痛む。

 だが、蹴とばされたおかげで距離を取ることは、できた。


「ゲルド……お前は、俺を気に入らないって言ってたな。それは、本当にお前の気持ちなのか? 本当は、誰かに……」

「……まだそんなこと思ってんのか。お人好しのお前に教えてやる! 人間ってのは、腐ってんだよ……てめえが気に入らねぇ、てめえが目障り……誰でもいい。たったそれだけの理由で! 人は人を殺せるのさ!」


 もしかしたら、ゲルドは……そんな気持ちで聞いた言葉は、真っ向から否定された。

 自分でも、どうしてこれほどまでに、自分を殺そうとしている男を信じようとしているのだろうか、わからない。

 お人好しのバカと言われても、仕方ないなこりゃ。


「……俺ァお前を親友だと思ってる、ロア」

「ゲルド……?」

「だからこそ! お前の存在が腹立たしくて仕方ねえのさ! なんでもそつなくこなすやり方も! どれだけ騙されても人を疑わないようなバカさも! あるいは、それほどのお人好しだから【勇者】を授かったのかも、しれねえけどな!」

「!」


 会話の合間を狙ったかのように、ゲルドの短剣が飛んでくる。遠くの標的も逃さない、ゲルドの得意技だ。

 俺はそれを避けるが、そうしている間に再びゲルドは懐に入り込んでくる。だが、同じ手はくわない。


「おっ?」


 突撃してくるゲルドの顔面に、カウンターで蹴りをおみまいする。虚を突かれた表情を浮かべるゲルドだが、咄嗟に横に飛んで避ける。

 そう、避けるだろうと思っていた。


「こんな単調な反撃……っ!?」


 ゲルドが避けた先……避けると思っていたところへと体を捻らせ、正面に向けて拳を打つ。

 打たれた拳は、蹴りを避けたゲルドの腹部へと打ち込まれた。めり……と、嫌な音がした。


「ぐっ……てめぇ!」


 俺を振り払うように、短剣を振るう。そんなゲルドから、俺は距離を取った。


「ちっ、何度も距離取りやがって……つつ。どうやって俺が避ける先がわかった!」

「お前の動きなら全部わかってる……それは、お前だけじゃない。俺にも、言えることだ」

「……はっ」


 ゲルドが俺の動きをわかっていたように。俺だって、ゲルドの動きを読むことは出来る。

 もう、話は通じない……か。
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