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死に戻り勇者、第二の人生を歩む

いい出会い

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「大丈夫? ライバー」

「気をしっかり持って」


 決闘が決着し、俺の勝利となった後観客は解散していった。いったい、心中になにを抱いていたのだろうか。

 現在、この場に残ったのは俺、ライバー、プラ、マイ、そしてカーリッサさん。プラとマイは、うなだれたライバーを両隣から慰めている。

 頭なでなで背中さすさす……なぜだろう。両手に女の子状態なのに、まったく羨ましく思えないのは。


「あー、その、なんだ。悪かったよ」


 とりあえず、謝っておく。ライバーがこうなっている理由は、どうあれ俺がライバーの剣を折ってしまったからなのだから。

 まさか、武器を破壊してガチ泣きされるとは、思わなかったが。


「いや……俺の、腕がまだまだだっただけのこと。気にするな」


 ライバーはようやく泣き止んだようで、顔をあげる。その目はかすかに赤くなっている。

 泣きはらしたんだな……かわいそうに。いや、俺が原因なんだけどさ。


「ともあれ、勝負はオレの負けだ。アーロ、キミを勧誘するのは諦めるよ」

「あぁ、うん」


 考えてみれば、ライバーが俺の話を聞かないままに始まった決闘だ。その結果として剣が折れたのだから、俺は悪くない……そう、割り切れれば楽なんだけどな。

 まあ、なにはともあれ勝負は俺の勝ち。俺が勝てば、『銀の牙』の勧誘は諦めると、最初の約束どおりだ。

 本人は、残念そうであるが。


「しかし、惜しいな。キミほどの実力があれば、それこそトップを狙えるというのに」


 しみじみと、ライバーは言う。


「俺の攻撃を完璧に避けたり、わざと隙を作って戦略を広げたり。凄まじい力だよ。もしかして、昔冒険者をやっていたとか?」

「いやぁ、やってないよ」


 昔、勇者ならやっていたがな。言わないけど。

 逆に、ライバーは予想以上の実力を持っていた。あの剣さばき、よほどの努力をしたのだろう。

 その、共に努力してきた剣を折ってしまったわけだ。


「なぁに、剣のことは気にするな。せっかくの機会だ、新しいものでも買うことにするさ」

「でもライバー。その剣は、貴女が冒険者になったときから、ずっと使っていた……」

「言うな! いいんだ」


 思い出の品……冒険者を始めた頃から使ってきた剣か。なんかますます悪いことした気分になる。

 とはいえ、気分になるだけで弁償しようとか、そういうことは考えていないわけだが。


「お二人共、お疲れ様でした。皆さん、満足して帰っていきましたよ」


 話が一段落したところで、カーリッサさんがパンパンと手を叩く。果たして、本当に満足して帰っていったのかは疑問が残るが。

 というか、観客なんていらなかった。決闘するにしても静かにしたかった。


「しかし、本当に惜しいですよアーロさん」

「惜しい、とは?」

「冒険者がランクを上げるには、ひたすらに依頼をクリアするか、決闘にて自分よりも上のランクの冒険者を倒す必要があるんです」


 カーリッサさんが言うには、冒険者がランク湯上げる方法は二つ。そして、今の俺は彼女が話した、後者の方法に当たっているらしい。

 つまり、Aランク冒険者であるライバーを倒したことで、俺はAランク相当の冒険者になれる、ということなのだ。


「何度も言いますが、俺は冒険者には」

「意志は固いんですね。残念ですが、本人の意志が一番ですから」


 冒険者になれば、いきなりAランクから始められる。それは、冒険者を目指す者たちにとっては、美味しい話なのだろう。

 だが、やはり俺は、そんな条件があっても冒険者になるつもりは、ない。


「確か、アーロキミは隣村の、ラーダ村に住んでいるんだったな」

「! あぁ」


 座り込んでいたライバーが、立ち上がる。


「ならば、今度はオレたちから寄ってみることにしよう。ここでお別れは、寂しいからな」

「そういうことなら、ぜひ」


 手を伸ばされ、俺は握手に応じる。がっちりと固い握手を交わす。いろいろあったが、いい出会いだった。
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