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死に戻り勇者、第二の人生を歩む
折られた剣と心
しおりを挟む……その瞬間、静寂がこの場を支配した。
わぁーとうるさいほどに盛り上がっていた観客も、その光景に言葉も失う。それは、当人であるライバー、そして俺も同じだ。
なんせ……拳で、鉄製の剣が、折れたのだから。
「……う、うそ、だろ……」
そう、絞り出すような言葉を漏らしたのは、ライバー。折れてしまった剣を見つめて、これは夢ではないかと願っているかのよう。
俺だって、まさかこんなことになるとは思わなかった。狙いが外れてしまったのは、やはり前線から退いていたためか。
「おい、マジかよ……」
「剣、折りやがったぞ……?」
「化け物じゃねぇか」
徐々に、観客からも声が漏れ始める。まずいな……そりゃ、素手で剣を折る奴なんて、いろんな意味で話題になる。
ギリギリの接戦を演じた上で勝つ……それが一番目立たないはずだったのに。これでは……
「あ、ぁ……オレの、オレの……愛剣が……」
ライバーはというと、呆然と折れた剣を見つめていた。自分が持っている剣の折れた部分……そして地面に転がる折れた先の部分。互いを交互に見つめている。
茫然自失とはこのことだろう。ついには立ってもいられなくなり、膝から地面に崩れ落ちた。
うわぁ、どう見てもショック受けてるよあれ。
「く、うぅ……」
「泣いてる!?」
ついには涙まで流し始めた。よほど大切な剣だったのだろう。それにしたって、大の大人がガチ泣きとは……
なんだろう。決闘申し込まれたのもこんなことになっているのも、ライバーのせいなのに……俺が、悪いことをした気分だ。
「あの、なんていうか……すまん」
「っ……い、いいんだ……お、オレの腕が、未熟、だから……」
涙を拭いながら、気にするなと言ってくれるが……いや、気にしないの無理だよこれ。拭っても涙が流れてくるもの。
決闘は中断し……周囲からも、ざわざわと言葉が漏れる。
「おいおい、泣いちゃったぞAランク冒険者」
「けど、自分の大切なもの折られたらああもなるだろ」
「ひでー話だ」
あれ、俺が悪者になってる!? いつの間にか俺が悪いことになってる!? いや悪いんだろうけどもさ!
あぁあ、なんか猛烈に悪い注目を浴びていっている! いや、これ決闘だし、多少の行為は仕方なくないか!?
「あのー、ライバーさん。決闘の方は……」
「続ける、続けるさ……」
中断してしまった決闘をどうするかと、カーリッサさんが心配そうにライバーに話しかける。ライバーは、まだ続けると意思表示……折れてしまった剣を握りしめ、立ち上がる。
その顔は、涙と鼻水に濡れてしまっていた。おまけに、手は震え肝心の剣は途中からポッキリと折れてしまっている。
どう見ても、決闘を続けられる状況ではない。それは誰の目から見ても明らかだった。
「う、ぉおおおお!」
「……」
剣を振り上げ、俺に迫るその姿は、とても先ほどと同一人物とは思えないほどにガタガタだ。
俺は、ゆっくりと横にそれ……足を、引っ掛ける。ライバーは、見事に足に引っ掛かり顔面から、地面に倒れ込んでしまった。
「ぶっ……」
「……あの?」
「くっ……う、ふぅう……!」
地面に顔面を打ち付けているため、どんな表情をしているかは見えない。だが、すすり泣く声が、聞こえた。
もう、見ていられない。てか、これ大丈夫か? Aランク冒険者の株的に、大丈夫か?
「……続行は、不可能みたいですね」
「まだやれるぅ……!」
「いやぁ……」
カーリッサさんも、もはや苦笑いすら浮かべられていない。顔が引きつるのみだ。
そのまま、続行の見込みが立つわけでもなく……決闘は、終了となった。
「勝者は、アーロさんでぇす」
「……」
力なく、勝者が告げられる。本当なら、接戦の末に勝って喜ぶはずが。
全然嬉しくない。俺はひどい奴とレッテルを貼られ、ライバーは大勢の前でガチ泣きをさらした。
誰か、幸せになったのかこれ?
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