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死に戻り勇者、第二の人生を歩む
メラの役割
しおりを挟む「それで、頼み事とは?」
「! そうだった!」
危うく思考の渦の中に呑まれてしまうところだったのを、メラが一歩手前で引き戻してくれる。
メラを呼んだ理由は、なにもリリーのまとまらない考えを整理してもらうだけでは、ないのだから。
「メラなら調べられるんじゃないかと思って。ロア兄ちゃんのこと」
「……私が?」
思わぬ言葉に、メラは目を丸くしてしまう。しかし、その言葉がなにを意味しているか、メラ自身よく知っている。
彼女は、単なる給仕……ではあるが、その裏には別の顔があるのだから。
「つまり、リリーは私にもう一つの顔を使えと」
「うん……ダメ?」
「ダメとは言わないけれど……うまくいく自信はないわよ?」
「それでも……!」
可能性があるのならば、それにすがりたい。それが、リリーのまぎれもない本心だ。
その強い瞳に、メラは小さなため息を漏らす。
「はぁ、わかった」
「ホント!? お姉ちゃん大好き!」
「調子いいんだから」
飛び上がって喜ぶリリーの姿に、しかしメラは小さな笑みをこぼした。
さて、そうなると……今後、やるべきことも決めなければ。
「ただし、あなたの身に危険が及んだら、私はこっちを優先する。たとえ、ロア様を見つけたとしても」
「う、うん。わかった」
こくこくと頷くリリーを見て、メラは自身の胸に手を当てる。イメージするのは、自分の姿……いや、もう一人の自分の姿とでも言おう。
ほんのりと胸元が光り、やがて全身が光る。そして……その光は、二つに分かれていく。
メラを包み込んでいた光が、隣り合って二つに分かれる。そして、光が消えた後、そこには……
「わぁ……いつ見てもすごいな、メラの『スキル』は」
……二人の、メラの姿があった。
「これが、私の【分身】の『スキル』よ」
「ふわぁ」
これまでにも何度か見させてもらったが、やはりすごい。
『スキル』【分身】。二つ、否二人に分かれたメラは、まったく同じ姿だ。顔立ちや胸の大きさ、服装、左目の下にある泣きボクロの位置まで完璧に。
その名の通り、自分の現身を作る『スキル』だ。
「見たものは共有されるんだっけ?」
「えぇ。代わりに、身体能力は半減するけどね」
本体と分身……これは、互いが見聞きしたものを共有でき、意識的に動かすことが可能だ。右目と左目でまったく違う景色を見ている、といった表現が近い。
ただし、二人に分かれた場合身体能力は半減する。【分身】はそれ以上に作ることもできるが、その分身体能力は減る。三人いれば三分の一に、四人いれば四分の一に。
「自分とまったく同じ姿か……はぁ、便利そう」
「……そうでもないわよ。【分身】とはいっても、自動で動くわけではなく意識的に動かさないといけないので……」
「え、じゃあ、四人いたとして、それぞれ別のことをやらせたら……」
「本体含め、例えばAに掃除、Bに料理、Cに選択、Dに買い出しをさせるとなると……それだけの処理を頭で考えて、実行させなければいけないから」
「めちゃくちゃ大変じゃん! ……ごめんね」
「ふふ、いいわよ。でも、【分身】は限界でも二人までにしておきたいわ」
【分身】が自動で思考を働かせ行動するなら、本体は一つのことに集中できる。しかし、それは違うのだ。
複数の処理を、一人の頭で考え実行に移す。しかも、身体能力が減少した上でだ。
それは、相当な負担を課すことになる。
「【分身】は消したら、意識も一つに戻る。【分身】をロア様捜索に向かわせるけど、あなたに危険が迫ったら……」
「わかったよ、肝に銘じるってば」
なんにせよ、これでメラはこの場に居つつ、ロアを捜索に向かえる。
そして、その方法だが……
「はぁ、まさか、またこのようなことをしなければならないとは」
「ご、ごめんね」
「いいわよ。その代わり、今度なにかおごってもらおうかな」
そう言って、【分身】は立ち上がる。そして、窓を開け放ち……地上何十メートルとあるこの階から、躊躇なく飛び降りた。そして、近くの屋根の建物に飛び降り、飛び移っていく。
かつて、『怪盗メーラー』と呼ばれたその身体能力は、半減してもなお健在であった。
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