上 下
95 / 263
死に戻り勇者、第二の人生を歩む

メラの役割

しおりを挟む


「それで、頼み事とは?」

「! そうだった!」


 危うく思考の渦の中に呑まれてしまうところだったのを、メラが一歩手前で引き戻してくれる。

 メラを呼んだ理由は、なにもリリーのまとまらない考えを整理してもらうだけでは、ないのだから。


「メラなら調べられるんじゃないかと思って。ロア兄ちゃんのこと」

「……私が?」


 思わぬ言葉に、メラは目を丸くしてしまう。しかし、その言葉がなにを意味しているか、メラ自身よく知っている。

 彼女は、単なる給仕……ではあるが、その裏には別の顔があるのだから。


「つまり、リリーは私にもう一つの顔を使えと」

「うん……ダメ?」

「ダメとは言わないけれど……うまくいく自信はないわよ?」

「それでも……!」


 可能性があるのならば、それにすがりたい。それが、リリーのまぎれもない本心だ。

 その強い瞳に、メラは小さなため息を漏らす。


「はぁ、わかった」

「ホント!? お姉ちゃん大好き!」

「調子いいんだから」


 飛び上がって喜ぶリリーの姿に、しかしメラは小さな笑みをこぼした。

 さて、そうなると……今後、やるべきことも決めなければ。


「ただし、あなたの身に危険が及んだら、私はこっちを優先する。たとえ、ロア様を見つけたとしても」

「う、うん。わかった」


 こくこくと頷くリリーを見て、メラは自身の胸に手を当てる。イメージするのは、自分の姿……いや、もう一人の自分の姿とでも言おう。

 ほんのりと胸元が光り、やがて全身が光る。そして……その光は、二つに分かれていく。

 メラを包み込んでいた光が、隣り合って二つに分かれる。そして、光が消えた後、そこには……


「わぁ……いつ見てもすごいな、メラの『スキル』は」


 ……二人の、メラの姿があった。


「これが、私の【分身】の『スキル』よ」

「ふわぁ」


 これまでにも何度か見させてもらったが、やはりすごい。

 『スキル』【分身】。二つ、否二人に分かれたメラは、まったく同じ姿だ。顔立ちや胸の大きさ、服装、左目の下にある泣きボクロの位置まで完璧に。

 その名の通り、自分の現身うつしみを作る『スキル』だ。


「見たものは共有されるんだっけ?」

「えぇ。代わりに、身体能力は半減するけどね」


 本体と分身……これは、互いが見聞きしたものを共有でき、意識的に動かすことが可能だ。右目と左目でまったく違う景色を見ている、といった表現が近い。

 ただし、二人に分かれた場合身体能力は半減する。【分身】はそれ以上に作ることもできるが、その分身体能力は減る。三人いれば三分の一に、四人いれば四分の一に。


「自分とまったく同じ姿か……はぁ、便利そう」

「……そうでもないわよ。【分身】とはいっても、自動で動くわけではなく意識的に動かさないといけないので……」

「え、じゃあ、四人いたとして、それぞれ別のことをやらせたら……」

「本体含め、例えばAに掃除、Bに料理、Cに選択、Dに買い出しをさせるとなると……それだけの処理を頭で考えて、実行させなければいけないから」

「めちゃくちゃ大変じゃん! ……ごめんね」

「ふふ、いいわよ。でも、【分身】は限界でも二人までにしておきたいわ」


 【分身】が自動で思考を働かせ行動するなら、本体は一つのことに集中できる。しかし、それは違うのだ。

 複数の処理を、一人の頭で考え実行に移す。しかも、身体能力が減少した上でだ。

 それは、相当な負担を課すことになる。


「【分身】は消したら、意識も一つに戻る。【分身】をロア様捜索に向かわせるけど、あなたに危険が迫ったら……」

「わかったよ、肝に銘じるってば」


 なんにせよ、これでメラはこの場に居つつ、ロアを捜索に向かえる。

 そして、その方法だが……


「はぁ、まさか、またこのようなことをしなければならないとは」

「ご、ごめんね」

「いいわよ。その代わり、今度なにかおごってもらおうかな」


 そう言って、【分身】は立ち上がる。そして、窓を開け放ち……地上何十メートルとあるこの階から、躊躇なく飛び降りた。そして、近くの屋根の建物に飛び降り、飛び移っていく。

 かつて、『怪盗メーラー』と呼ばれたその身体能力は、半減してもなお健在であった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...