上 下
91 / 263
死に戻り勇者、第二の人生を歩む

一方のファルマー王国での出来事

しおりを挟む


 ……前王であるザラドーラ・マ・ファルマーが亡くなって、もう一年が経とうとしている。彼は、勇者一行が旅ってからしばらくして、病により命を落とした。

 急性的な心臓の病だったという。彼の死は王城に、そして全国民に深い衝撃と悲しみを与えた。

 前王の意思を継ぐこととなるのが、ザラドーラ・マ・ファルマーの一人息子に当たるザーラ・マ・ファルマーである。一人息子であるがゆえ、他の妹たちとは違い唯一、次期国王としての地位を約束された者だ。

 そして……勇者一行として共に旅をした、リリー・リリエット……否リリー・マ・ファルマーの実の父親である。


「お父様、お仕事お疲れさまです」

「リリーか、いつも悪いな」


 自室にて作業していたザーラ、その部屋を尋ねるのは、かわいい一人娘のリリーだ。彼女は、手に盆を持っている。

 その盆の上には、淹れたばかりの熱い紅茶が置いてある。


「本来、こういうのはお付きの女性にやってもらうもんなんだけどな」

「ダメです、これは私の役目ですから」


 ザーラの言うとおり、これは本来王女の立場にあるリリーのやるべきことではない。だが、リリー本人がこれは譲らないと断った。

 リリーは、父に……現在、国王として君臨する男の前に、紅茶の入ったカップを置いた。いい香りが、鼻をくすぐる。


「ありがとう」


 勇者一行が旅から戻った頃。当時は前王が亡くなった混乱から、王子のままであったザーラだったが、一応の落ち着きを取り戻した後、正式に国王へと迎えられた。

 それに伴い、リリーも王女としての地位に収まった。

 当時は、幼い娘を危険な旅に同行させることに心配はあったが……こうして、凛々しくたくましく成長し、帰ってきてくれたことは嬉しく思う。


「お父様、少しは休んでくださいね」

「……そうしたい、ところだけどな。そうも言ってられないさ」


 紅茶を口に運び、一口。うん、おいしい。毎日紅茶を淹れているためか、ずいぶんとうまくなったものだ。

 彼女の言うように、休みたいのは山々だ。しかし、王の実務とは見えないところで忙しいものだ……

 特に、ここ最近はとある業務に追われ、ろくに休めていない。その理由とは……


「……また、その資料ですか?」

「ん? あぁ」


手元の資料に、視線を落とす。そこには、一人の男の似顔絵が、描かれている。

 『スキル』【絵画】を持つ者により、まるで本物と見間違えるほどの絵だ。そこに描かれている男性が、ザーラが業務に追われる理由。

 そこに描かれた、男性は……


「……ロア、兄ちゃん……」


 リリーが、その名を呟く。ザーラの持つ資料、そこに描かれている人物の名前だ。

 ロア。【勇者】という名の『スキル』を持ち、実際に勇者パーティーの中心にいた人物。平民でありながら、無事魔王を倒した暁には勲章の授与も考えられていた男だ。

 しかし彼は、今この国にはいない。


「あの、本当、なんですか? ロアに……ロア様が、兵士を殺して、逃げただなんて」

「やはり、信じられないか?」

「はい……」


 リリーが話を聞いたときには、全てが終わっていた。ロアが、王城への同行を断り、あろうことか兵士の数人を殺して逃げたと言うのだ。

 その現場を、リリーは見ていない。見ていたのは、兵士を除けばゲルドとシャリーディアのみ。

 しかし、二人とも口を開こうとはしない。ゲルドは意地悪なところもあったが、確かな信念を持っている人のはずだ。それに、シャリーディアまでもが口をつぐんでいる理由が、わからない。


「……」


 納得できない……しかし、ありえないと断ずるだけの、証拠がない。

 今や、指名手配犯となってしまった……かつての仲間、ロア。実際に探しても、彼はもうこの国にいない。彼を探して、ザーラは寝る間も惜しんで業務に、明け暮れているのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...