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死に戻り勇者、第二の人生を歩む

麗しき踊り子

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 町の案内は、続く。

 飲食関係以外にも、服を売っている場所や人の多く集まる場所など、いろいろと案内してもらった。

 そして、日も傾いてきた頃……


「こっちこっち!」

「ラニーさん? どこに……」

「いやぁアーロは運がいいよ!」


 どこか嬉しそうに、ラニーさんは俺をどこかに案内していく。

 これまで、ほわほわした感じだったラニーさんだったが、こうも嬉しそうにするとは……この先に、いったいなにがあるのだろう。

 しばらく歩いたところで、人が集まっている場所があった。広場だ。


「人が……?」

「あ。あそこだよあそこ!」


 ぴょんぴょんと跳ねながら、ラニーさんが指をさす先には……一人の、女性がいた。

 彼女は、台の上に立ち人々からよく見える位置に。そして、人々の歓声を受け、細い身体を右へ左へと動かし、情熱的な踊りを踊っていた。


「……踊り子か」

「そう。ちょっと前に来て、一週間くらい滞在するんだって」


 人々の黄色い歓声を受け踊りを魅せる女性は、踊り子の衣装に身を包み、情熱的に踊っていた。

 肌を露出させ、極力動きやすさを重視した衣装……しかし、そこに下心は感じさせず、人々が見つめるのはただ踊りの精度のみ。


「ふわぁ……」


 ラニーさんは隣で、目を輝かせながら踊り子を見つめている。

 人々の視線を一身に受ける彼女、その踊りは人の視線を惹きつける。そして、俺はそれをよく知っていた。

 あの、人の目を惹きつけて離さない踊り……見覚えが、ある。


「マジかよ……」


 彼女は、俺が勇者やってた頃に出会ったことのある一人だ。とある国で、踊り子として踊りを披露していた。

 人里を転々とし、人々に踊りを届けているのだという。実際、俺が彼女と出会った国では、人々は魔物の脅威に震えていたが……彼女の踊りが、人々に勇気と活気を与えた。

 人の目を惹き付け、また人々を魅了する踊り。その持ち主と、まさかここで再会することになるとは。


「バレないうちに、離れるか……」


 まだ彼女は、こちらに気づいていない。俺のことを勇者だと知っている彼女に、俺のことをバレるより先に……ここを、離れてしまおう。

 そう、考えて……しかし、足が、動かない。


「っ……」


 隣で、ラニーさんがとても嬉しそうに踊りを見ているから? それも、ないとは言えないが……理由は、別にある。

 人の目を惹き付け、離さない踊り……それが、俺の目にも作用しているということだ。

 まあ、要するに……もう少し、踊りを見ていたい。というわけで。


「なんてこった……」

「? どうしたんです?」

「なんでも、ないです」


 これが、彼女……リーズレッテの魅力なのだ。

 彼女自身の美貌も、その辺りの女性に比べたら上だろう。だが、シャリーディアやミランシェという破格の女性を見ている俺にとって、容姿はさしたる問題じゃない。

 問題は、この場から離れないといけない、と理解していながら……離れることの出来ない、いや抗えない踊りの魅力。

 【勇者】の力でも、踊りの魅力に抗う能力は、持っていないようだ。


「はぁ、素敵な踊りですねぇ」

「そうだな……」


 ラニーさんがうっとりするのもわかる。また、彼女の反応からこれまでにも何度か、この町には来ているようだ。

 人々を魅了してやまない踊りではあるが、そこに彼女の『スキル』は関係ない。例えば『踊り』とか『魅了』とかそういったものはない。

 すべて、彼女自身の努力により、育まれたものだ。


「~♪」


 ずっと見ていたいと思えるほどの踊り……その時間も、やがて終わりに近づく。

 踊りが終わった瞬間、人々からはたくさんの拍手が上がった。


「感動、感動だよ~!」

「ラニーさん、じゃあそろそろ行きましょう」

「えー、なんでー」


 本当ならすぐ離れるべきだったが、すっかり魅せられてしまっていた。

 なぁに、まだ大丈夫。この人の数だし、あそこから俺個人を見つけることなんて出来るはずが……


「あ、こっち見てる! こっち見てるよー!」

「…………」


 なぜだろう、目があってしまった。
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