死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、第二の人生を歩む

飲め飲めぇ!

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 それから、少しの間気まずい空気が流れた……いや、聞きだしたのは俺だけれども。

 まさか、あんな重い話が出てくるとは、思わないじゃんか?

 あの時は、へらへらした胡散臭い男だと思っていたが……


「……あの」

「チマ兄、アーロさん! お待たせしました!」


 あまりの気まずさに、自分でもわからないままなにか言おうとしたところへ……外から元気な声が、部屋の中に入ってくる。

 それは、満面の笑みを浮かべた、エフィであった。


「え、エフィ? お待たせって……」


 その元気な登場に、暗い雰囲気がいい意味でぶち壊されたことに感謝しつつ、エフィの言葉の意味胃がわからなかった。

 そのエフィはというと、チマの手をぐいぐいと引っ張っている。


「村中に、チマ兄が帰ってきたことを伝えたら、チマ兄お帰りパーティーを開こうということになりまして!」

「また!?」


 宴とパーティーの違いと言えばいいのか、意味としては同じだと言えばいいのか……とにかく、チマが帰ってきたことで、村中でパーティーが開かれることになったという。

 昨夜、アーロを村に迎え入れたとして宴を開いたばかりだというのに。


「わわ、ちょ、エフィ引っ張らないで……」

「ほらほら、早く行くよ! アーロさんも、早く!」

「あ、はい」


 どうやら、拒否権はないようだ。

 なにかと、理由を付けて飲みたい……昨日、エフィが言っていた通りなのかもしれない。


「わぁ、すごい……」

「これ、今の時間で?」

「みんな、頑張りました!」


 外に出ると、そこには豪勢な食卓が並んでいた。今の時間で、これだけのことをやってのけたというのか。

 なんというか、飲み食いに対しての執念みたいなものが、すごい。


「おぉ、チマ! 久しぶりじゃねえか!」

「ますます男前になりやがって、この野郎!」

「わわっ」


 チマは、あっという間に囲まれてしまった。うむ、彼も村では人気らしい。

 そして、昨夜と同じように村長ヤタラさんからチマの音頭へと変わり、乾杯。


「エフィは、相当チマに懐いてるんだね?」

「えへへ。物心ついた頃からお世話になってる、お兄ちゃんですから」

「俺も、わりとお世話にはなったな」


 エフィ、そしてヨッちゃんことヨルガも、チマにはお世話になったらしい。

 お世話とは言うが、多分一緒に遊んでくれたとか、そういうことだろう。


「アーロさんは、チマ兄とどこで?」

「……昔、ちょっとね」


 エフィは、この村の人たちはチマが魔王を殺したことなんて知らない。もし、魔王を殺せるほどの刃部うが近くにいると知れば、みんなどう思うだろう。

 これまでと同じように接するのか、それとも……


「よ、チマ久しぶりじゃん」

「げ、ケエラ」

「げ、とはなによげ、とは」


 ある程度村人にもみくちゃにされたチマは解放される……一人で飲んでいたところへ、やって来たのはケエラさんだ。

 ケエラさんは、チマの肩をバンバン叩いているが……


「あの二人は、仲が悪いの?」

「仲が悪いというか……なんて言えばいいのか……」

「チマ兄は、ケエラさんが苦手……っぽい?」

「なんだそりゃ」


 同じ村に住んでいるにも関わらず、チマとケエラさんの関係はよくわかっていないのか。まあ、そういう関係もあるのか。

 俺だって、そういった人間関係に心当たりがないわけじゃないし。嫌っていたと思っていたのにいつの間にか関係を持っていた、ミランシェとゲルドとか。


「……ぷはっ」


 今日は、昨晩及び今朝のような失態を犯さないように、注意をしていなければな。

 ……それにしても、ケエラさんの性格なら、なんかこう、もっと肩とか組みそうなものだが。現に初対面の俺にすら、そうだったし。だから柔らかかったし。

 だけど、チマに対しては肩を叩くだけなど、ちょっとスキンシップが柔らかいような……昨日ほど、酔っていないだけだからか?

 酔ったら、知らない男の布団で裸で寝るくらいだからな……あり得る。酔ってないと案外おとなしいのかもしれない。


「……ぷは」


 ま、細かいことはいいや。今日は、酔わない程度に存分に、飲もう。
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