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死に戻り勇者、軌跡を辿る
彼女の想いと決意
しおりを挟むディアの力……それは、ただ一度きりのものだ。それを、俺なんかのために使った。
そのディアの、真意がわからない。目の前で仲間が殺されれば、そりゃ悲しいかもしれないが……それでも……
「ロアも気づいてると思うけど、この力は過去に戻るもの。けれど、前世とは違った流れになることもある。それが、力の代償なのか、なにか別に理由があるのかは、わからないけど」
「へ? あぁ、うん」
ディアから返ってきたのは、先ほどの質問の答えとは思えないものだった。
「……どう、だった?」
「どう、とは?」
「……私、余計なことしたかなって、思ったの。あなたの意思も確認せずに、過去に戻して……前世の展開を、なぞって。だから私も、その通りにして……窮屈じゃ、なかったかな」
不安げに、ディアは話す。……なんだ、そんなことか。
ディアは、俺を過去に戻したことを、それでよかったのかと思っている。勝手にそんなことをして、俺の迷惑になっていないかと……そんなわけ、ない。
「いや。俺は、感謝してる。あのままだったら、死んでたんだから。もう一度、やり直せて……感謝してる」
「……そっか」
「それに、前世の展開をなぞったのは俺の意思だしな。ディアが気に病むことじゃない」
俺の答えに、ディアは満足げに微笑んだ。ほっと、安心して……胸につかえていたものが、取れたような。そんな、感じだ。
「……私が、あなたのために力を使った理由、だったよね。……昔、助けてくれた、そのお返し、じゃ理由としてだめかな」
「……助けた? 昔?」
「ほら、村で、モンスターに襲われたとき」
「……あぁ、あのときか」
ディアが言っている、昔助けたとは……俺とディアの二人で、森に入ったとき。そこで、コアウルフに襲われたときだ。
だが、あのときのは……助けた、と言えるのだろうか。俺、棒切れ持って振り回してただけだぞ。
それに……
「たったそれだけの、理由で? そんな、大事なことを決めたのか?」
「たったそれだけの理由なんだよ。……人を、好きになる理由なんて」
「……え? す……」
ちゅ……
……唇に、柔らかくあたたかな感触があった。目の前の彼女の顔が、離れていく……その顔は、耳まで赤かった。
今、俺は……あれ? ていうか、ディアが俺を好き……え、あれ? なんだ、なんかすごい、頭の中が混乱している、んだけど。
あれぇええ……?
「あの……ディア……いや、シャリーディア、さん……?」
「ふふ、だから、ディアでいいって。ディアで……ディアが、いい。そう呼ぶのは、あなただけがいい」
ディアは、今度は柔らかく、笑顔を浮かべた。唇に指を当て、まるで今の出来事が嘘ではない、と言うように。
「今の、ファーストキス、だからね」
今の出来事を、お互いに大切なものだと言うように。
「え、あ、えぇと……」
「ふふ。いいよ、無理になにか言おうとしないで。今のは、私の意思なんだから」
「うぅ……」
なんか、いろいろ起こりすぎて……頭の中が、パニック状態だ。それに、顔も熱い。
ディアは、そんな俺を見て楽しそうに笑っている。
「さて、と。ロア。あなたはこのまま、村を出て」
「! ディア……」
「おそらくゲルドさん……いや、ゲルドは、国中に包囲網を敷く。その前に、国を出るの」
ディアは俺を真っ直ぐに見つめて、言う。悠長にしている時間はない……か。ったく、自分の言いたいことばっかり言いやがって。
この国には、もう長くは留まれない。ならば……
「ディア。ディアも、俺と、一緒に……」
「……ううん。私は、残るわ」
俺は、ディアに手を差し出し、申し出るが……ディアは、首を横に振り、俺の申し出を、断った。
その答えに、俺は……思いの外、ショックではなかった。そう答えるだろうと、わかっていたからだろうか。
「私には、この国でやれることがある。あなたのために、私は自分にできることを、したいの」
そう、ディアは……強く、強く告げた。
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