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死に戻り勇者、軌跡を辿る
旅の目的
しおりを挟む「ど、どうしたんですかみなさん。そんな怖い顔して」
マーチは両手を上げたまま、困ったように笑っている。俺たちが警戒心を引き上げた理由が、わからないのか?
なぜ、魔王を殺したのか……それを、答えないからだ。
簡単な問題だ。のはずだ。理由なんてない、なんて言わせない。理由もなしに、魔族がひしめくこの地に来るわけがない。魔王を殺すはずがない。
「……どうした、なぜ答えねぇ? 難しい問題じゃないはずだぜ」
ゲルドは、両手に短剣を構える。ミランシェも弓矢を構え、俺とドーマスさんもすぐ動けるように、姿勢を低く落とす。
明らかな警戒態勢に、それでもマーチは表情を崩さない。
「えぇと……理由なんて、いいじゃないですか。この世界に魔王は、いや魔族は不要。倒せる者が倒す。それでいいじゃないですか」
「そうだな、お前が得体のしれない奴じゃなけりゃ」
マーチは、得体がしれない。それは、ここにいる誰しもが……リリーさえも、そう思っている。
マーチの顔は、前世でも見たことがない。元々、王都を回ることはあっても、人々と接することはなかったから、王国の人間かもわからない。
そもそも、一般の人間は魔族なんて存在を知らない。貴族とか、冒険者とか……少なくとも、多少は腕に覚えがないと、魔族に関する知識さえもない。
腕が立つのは間違いない……多少どころではないが。
「とにかく、答えたくねぇならいいぜ。俺たちで拘束させてもらう」
「いやぁ、それは困りますねぇ」
ゲルドは、一歩一歩と距離を詰めていく。マーチは、壁を背にしているからそれ以上は、下がれない。
いくら魔王を倒せる人物でも、俺たちに囲まれてなにができるとも思えないが、油断はしない。
「じゃあ言います、言いますよ。でも、きっと信じてもらえませんよ?」
「それは俺たちが判断する。言え」
「じゃあ……ある日、夢のお告げがあったんです。魔王を倒せと」
「……それだけか?」
「それだけです」
どこまで本気なのか、わからない。嘘をついていないように見えるし、嘘をついているようにも見える。
もし、嘘が本当かを暴く『スキル』でもあればよかったんだろうが……この旅に、そんな『スキル』は必要なかったからな。
しかし、そのような『スキル』がなくても、マーチがふざけているのはわかる。
「てめえ、この状況でふざけるのか」
「あ、やっぱり信じていませんね。だから言ったじゃないですか」
「まあ、真偽はともかくとして。私たちは、これから王国に戻る……キミも、一緒に……」
「あ、それは遠慮します」
ドーマスさんの申し出を、マーチはあっさりと断る。俺たちと、共に行動はしないと。
マーチは、魔族のいるこの土地に一人で乗り込んできた。だから、魔族が消えた今となっては、帰り道は一人で余裕なのだろう。
だが、それはそれだ。俺たちには、まだマーチに聞きたいことがたくさん……
「イヤですよぉ、ボクも人間なんですから。そんな目向けないでくださいよ。いわば対魔族を掲げる仲間ですよ、仲間」
「なら、その仲間と一緒に帰るのを……」
「それはそれ、これはこれです」
今までに、会ったことのないタイプだ。ひょうひょうと、人柄が掴めない。人柄どころか、目的も、なにも……
こうなったら、力ずくでも……そんな考えが頭をよぎったとき、マーチは行動を移した。
「よっ、と」
「! おい!」
背後の壁を登り、窓のある場所まで飛んだのだ。そして、窓を開け放つ。
まさか……窓から飛び降りる可能性を危惧し、ゲルドは短剣を投げつける。しかし、それはマーチが手に握っていた短剣に弾かれた。
あいつ、動体視力が半端じゃない……いや、それより、どこに武器を隠し持って……?
「短剣(こいつ)も、見えなかったでしょ」
得意げに笑い、マーチは短剣を見せびらかせる。そうか、あいつは手に持ったものも透明にすることが、できるのか!
丸腰に見えて、もしかしたら他にも……
「じゃ、さよなら!」
「あ、おい!」
シャリーディアが、ミランシェが……行動を起こすより先に、マーチは窓から躊躇なく飛び降りる。
おいおい、ここどれだけ高いと思って……
「……くそっ、なんだあいつは!」
苛立ちを帯びた、ゲルドの声が響く。すでに、魔王は消滅している。
いったい、マーチが、なんの目的でこんなことをしたのか……そもそも、マーチは何者なのか。前世の展開と、大きく異なる展開……
俺の、そして俺たちの頭に大きな疑問を残し、旅の目的は果たされた。
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