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死に戻り勇者、軌跡を辿る
男同士の話
しおりを挟む「いや、別にお店とかは……」
「お前、女の経験ないだろ。わかるんだぜー、そういうの。初めては緊張するだろうが、それも慣れだ慣れ」
こういう話は、苦手だ。まず、ゲルドの言うとおり俺には経験がない……対して、ゲルドはそれこそ百戦錬磨、と言ってもいいだろう。
それでは話が合わない、というか一方的になるばかりだ。ゲルドとしては、経験のない俺をバカにする意図はなく、親切心からいろいろ言ってくれてはいるのだが。
「それともお前、好きになった相手としかしない、ってパターンか?」
「…………」
「ははは、図星か。なるほどねぇ、そういうのも全然アリだと思うぜ。だが……別にこだわる必要はないと思うがねぇ。男は経験を積んでナンボだ。第一、お前今好きなやついんのかよ」
「……いない」
悲しいことにと言うべきか、ゲルドの言葉はどれも的確だ。俺の心の内まで、さらけ出されてしまうかのよう。
そんな俺を見て、またもゲルドは笑う。
「なんだよ、いねぇのか。王都にはいい女がたくさんいるぜ? 見て回らねぇのかよ」
「あんまり気にしたことは……確かに、美人揃いだとは思うけど」
「だろ! 好きかどうかなんて二の次だ、欲望に忠実になりゃいいのさ」
ゲルドのような生き方も、まあありなのかなとも思う。間違いとは思わないし、そもそも生き方に間違いなんてあるのか、とも思う。
そりゃ、人を殺すとか取り返しのつかないことならともかく……ゲルドの生き方は、とりあえずゲルドも相手の女性も納得している。
納得しているなら、他が口を出すべきじゃない。
「店じゃなくても、何人かお前好みの女集めてやろうか? 好みのタイプくらいあるだろ?」
どうしてゲルドは、こうも俺にばかりこういった話をしてくるのだろうか。
……まあ、女性陣はそもそも性別の違いから、無理だ。同性のドーマスさんは、妻子持ち……つまり、自(おの)ずと俺になるわけか。
「タイプ、か……」
「そうそう」
どうにも、こういう話をするときゲルドは楽しそうだ。あんまりこういう話をする相手はいなかったのだろうか。
ゲルドの交友関係の広さはよくわからないが、集めるという以上本当に集められるのだろう。
だが、ゲルドに集められた女性、か……それってつまり、全員ゲルドと関係を持った相手、ってことだよな。
「なんだかなぁ」
「あん?」
「あ、いや、なんでもない。そういうのは、やっぱりいいかな」
「なんだ釣れねぇな。ま、そういう気分になったらいつでも言えや」
なんだかんだ、ゲルドは本当に強引に勧めてきはしない。頑(かたく)なに遠慮すれば、引き下がる。
それがまた、悪いやつじゃないのだという気持ちにさせられる。あくまで、自分本意じゃないというか。
「そういやよ、お前に聞きたいことがあるんだよ」
「なに?」
「俺の『スキル』、どう思う?」
唐突に、ゲルドはこう聞いてきた。
「どうって……すごい『スキル』だと、思うけど」
「だろぉ? 戦闘面でこんなに心強いものはねぇ……だが、俺気付いたことがあるんだよ。俺の『スキル』、相手の『スキル』や弱所を見る能力ってだけだと思ってたんだ」
「思ってたって、そうなんだろ?」
「あぁ。正確には他にも能力があるんだよ。俺の『スキル』【鑑定眼】、見えるのは相手の『スキル』や弱所だけじゃなく、どうやら女の……」
「ゲルド! そろそろお話はそのへんで!」
ここからが話の盛り上がり……というところで、割り込む声があった。それは、ミランシェのものだ。
最初から聞いていたのか……いや、それならもっと早く止めるな。おそらく、通りがかったら下世話な会話が聞こえたので、止めに入ったのだろう。
「あまりロアに変なことを吹き込まないように!」
「へいへい」
怒るミランシェは、俺たちを先導するように歩いていく。その後ろを歩きながら、ゲルドはこっそりと、俺に耳打ちした。
「あの堅物だった女が、俺の腕の中で泣いてる姿は……なかなか、そそるものがあったぜ」
別に聞きたくもない情報を、くれた。それも、前世とまったく同じ言葉を。
それはつまり、ミランシェは、ゲルドの【鑑定眼】の餌食になったのだろう……それだけは、わかってしまった。
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