上 下
39 / 263
死に戻り勇者、軌跡を辿る

男同士の話

しおりを挟む


「いや、別にお店とかは……」

「お前、女の経験ないだろ。わかるんだぜー、そういうの。初めては緊張するだろうが、それも慣れだ慣れ」


 こういう話は、苦手だ。まず、ゲルドの言うとおり俺には経験がない……対して、ゲルドはそれこそ百戦錬磨、と言ってもいいだろう。

 それでは話が合わない、というか一方的になるばかりだ。ゲルドとしては、経験のない俺をバカにする意図はなく、親切心からいろいろ言ってくれてはいるのだが。


「それともお前、好きになった相手としかしない、ってパターンか?」

「…………」

「ははは、図星か。なるほどねぇ、そういうのも全然アリだと思うぜ。だが……別にこだわる必要はないと思うがねぇ。男は経験を積んでナンボだ。第一、お前今好きなやついんのかよ」

「……いない」


 悲しいことにと言うべきか、ゲルドの言葉はどれも的確だ。俺の心の内まで、さらけ出されてしまうかのよう。

 そんな俺を見て、またもゲルドは笑う。


「なんだよ、いねぇのか。王都にはいい女がたくさんいるぜ? 見て回らねぇのかよ」

「あんまり気にしたことは……確かに、美人揃いだとは思うけど」

「だろ! 好きかどうかなんて二の次だ、欲望に忠実になりゃいいのさ」


 ゲルドのような生き方も、まあありなのかなとも思う。間違いとは思わないし、そもそも生き方に間違いなんてあるのか、とも思う。

 そりゃ、人を殺すとか取り返しのつかないことならともかく……ゲルドの生き方は、とりあえずゲルドも相手の女性も納得している。

 納得しているなら、他が口を出すべきじゃない。


「店じゃなくても、何人かお前好みの女集めてやろうか? 好みのタイプくらいあるだろ?」


 どうしてゲルドは、こうも俺にばかりこういった話をしてくるのだろうか。

 ……まあ、女性陣はそもそも性別の違いから、無理だ。同性のドーマスさんは、妻子持ち……つまり、自(おの)ずと俺になるわけか。


「タイプ、か……」

「そうそう」


 どうにも、こういう話をするときゲルドは楽しそうだ。あんまりこういう話をする相手はいなかったのだろうか。

 ゲルドの交友関係の広さはよくわからないが、集めるという以上本当に集められるのだろう。

 だが、ゲルドに集められた女性、か……それってつまり、全員ゲルドと関係を持った相手、ってことだよな。


「なんだかなぁ」

「あん?」

「あ、いや、なんでもない。そういうのは、やっぱりいいかな」

「なんだ釣れねぇな。ま、そういう気分になったらいつでも言えや」


 なんだかんだ、ゲルドは本当に強引に勧めてきはしない。頑(かたく)なに遠慮すれば、引き下がる。

 それがまた、悪いやつじゃないのだという気持ちにさせられる。あくまで、自分本意じゃないというか。


「そういやよ、お前に聞きたいことがあるんだよ」

「なに?」

「俺の『スキル』、どう思う?」


 唐突に、ゲルドはこう聞いてきた。


「どうって……すごい『スキル』だと、思うけど」

「だろぉ? 戦闘面でこんなに心強いものはねぇ……だが、俺気付いたことがあるんだよ。俺の『スキル』、相手の『スキル』や弱所を見る能力ってだけだと思ってたんだ」

「思ってたって、そうなんだろ?」

「あぁ。正確には他にも能力があるんだよ。俺の『スキル』【鑑定眼】、見えるのは相手の『スキル』や弱所だけじゃなく、どうやら女の……」

「ゲルド! そろそろお話はそのへんで!」


 ここからが話の盛り上がり……というところで、割り込む声があった。それは、ミランシェのものだ。

 最初から聞いていたのか……いや、それならもっと早く止めるな。おそらく、通りがかったら下世話な会話が聞こえたので、止めに入ったのだろう。


「あまりロアに変なことを吹き込まないように!」

「へいへい」


 怒るミランシェは、俺たちを先導するように歩いていく。その後ろを歩きながら、ゲルドはこっそりと、俺に耳打ちした。


「あの堅物だった女が、俺の腕の中で泣いてる姿は……なかなか、そそるものがあったぜ」


 別に聞きたくもない情報を、くれた。それも、前世とまったく同じ言葉を。

 それはつまり、ミランシェは、ゲルドの【鑑定眼】の餌食になったのだろう……それだけは、わかってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...